§リルド①
[無駄だろうが、断る]
「お断りしたいです」
「リルド=ハーゲンティを好いているのか?」
想像していなかったことを問われて、私は動揺した。
「そういうわけでは、侯爵家といえど関係にヒビをいれたくはありません!」
「まあ、それもそうだな。ルビアン君と結婚してもしなくてもあまり成果はない」
それはどういう意味だろう。
「では手紙を出して断りをいれておこう」
叔父はさっそく準備にとりかかった。
―――部屋に戻り、考えた。なぜ私はルビアンを選ばなかったのか。
彼は転んだ私に優しく手をさしのべてくれた。
たいしてリルドは転んだ私を遠目で笑っていたようだし、いつも意地悪で、私の揚げ足をとるようなろくでもない男。
公爵家子息と侯爵家次男でどう考えても現状、リルドには若さしかルビアンに敵う要素がない。
ただ顔は悪くないと思うのだ。
それは美人でなければ国外追放のヴィサナス人の母を持つからだろう。
■■
「もう……!」
なんであんな選択をしたか、わけがわからない。私がそばにいたいのはルビアンでもリルドでもなくてラックの筈なのだ。
でも選べる相手は二人のうちどちらかで、結婚が許される選択肢には入っていない。
「お嬢さん、どうなさいました?」
「あ、貴方はだれ!?」
いつのまに私の部屋に入ったのかしら。
「私は道化師のエラーでございます」
「全然音がしなかったわ、どうやって部屋に!?」
「開いていましたから。私が言うのも変ですが、鍵はかけましょう」
「……そうね」
「なにかお悩みがあるようですね?」
「きいてくれる?」
「私はお客様の悲しみを取り去り、笑顔をもたらす者です。なんなりとお話ください」
「実は……」
私は彼に悩みを打ち明ける。なんだかはじめて会った相手なのに不思議だわ。
「では私が貴女を連れていって差し上げましょう」
「どこへ?」
「貴女が望む世界へ」
◆道化師と逃げようかしら?
〔逃げる〕
→〔逃げない〕