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とある星物語 Returns   作者: さゆのすけ
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第八歯 魔法は使えないが魔法瓶は使える

「俺詳しいよ」の言葉通り、慰鶴はまちの様々な情報を知っていた。

若者が集まる本屋付きカフェ、おばさんたちの憩いの場になっている小さなブティック、子供連れの家族で賑わう大きなおもちゃ屋さん、路地裏にある怪しいたばこ屋…


「こんな場所に首飾りはないわ」 という蛍の手をひきながら、慰鶴は「探検だよ♪」とまちのすみずみまで案内してみせた。

訪れる先々でまちの人に声をかけると、どの人も慰鶴を見ると表情をゆるめて言葉を返す。

慰鶴の後ろに隠れる蛍にも、もれなく声をかけてくれるものだから、蛍もフードで顔を隠しながら会釈した。


こんなことしている間にも、”宝物”は遠くにいってしまうかも…と焦る蛍であったが、

慰鶴に引きまわされているうちに、まちの全体像が把握できるようになっていた。

今まで下ばかり見て歩いていたが、目の前に背の高い人間がいるおかげで、彼の背中ごしにまちを見ながら歩くことができたからだろう。


「…こうしてみると、結構先進的なまちなのね」

「うん?」

蛍はつぶやくように言った。

「古ぼけた建物が多いと思っていたけれど、よく見るとなかは新しいお店ばかりだわ。

事業を始める人も多いのね。国が補助してるのかしら」

「そう!新しいお菓子やさんがよくできるんだ。でも、昔から好きだった駄菓子屋さんはその分減ってしまってさ~」

「そして、輸入品が多いのね。よくみると、違う人種の人ばかり。それが新しい文化を産み出して経済も回るのね」

勉強になるわ、と蛍は一人で頷く。


「大きな港があるからね。船もたくさん止まっているよ。外国のお菓子をたくさん運んでくれるんだ!」

慰鶴に話を振ると、たいてい食べ物の話(それも甘い)になる。つまり大抵まともな会話にならないことにも、この数時間で慣れてしまった。

溜息をつくと、蛍は金属音のする大きな工場の前で立ち止まって、灰色の煙を天に向かって吐きだす煙突を見上げた。煙はそのまま空を覆い、まちのトーンを何段階も落としている。まちの活気と、この”暗さ”がそぐわないのだ。

そぐわないのに、この国には「何か」がある。

蛍を向かわせた「何か」が。


「この国に、モノと人を惹きつけるのは何かしら」

蛍は眉間に皺を寄せ、問うた。

自分宛の質問でないことは分かっていたが、慰鶴は振り返り、蛍の横顔をじっと見つめる。


「…お菓子?」

「この国に”科学”はないのよね?」

小首をかしげる慰鶴を無視して、蛍は言葉を続けた。

「ねぇ、これも”魔法”の力なの?」


「まさかぁ」

ちょっと間をおいてから、慰鶴はカラカラと笑った。

「ちょ、なんで笑うのよ」

「だって蛍が、魔法を”なんでも叶えてくれる凄い力”みたいに言うから」

「な!だ、だって”魔法”でしょ!?あの”科学”を唯一凌駕できるのが”魔法”だって聞いたわ。

お金がなくても、資源がなくても、力を生み出し富を増やせる術がこの世にあるのなら、それは凄いことじゃない!憧れて、何で悪いのよ!」

慰鶴はまだ笑っている。


蛍は自分が急に子供じみたことを言ったように笑われたので、恥ずかしくなって頬が熱くなるのを感じた。

「私も色々調べたのよ!”魔法”は”科学”の発達とともに廃れてしまったと聞いたけれど、いまでもそれを使える人達はいるんでしょう?

そして、この世界のどこかには、”魔法”で経済も平和も保っているまちがあるって。

”魔法”で人を幸せにしている場所があるって。

それが、このまちよね!?」


「"魔法"で人を幸せに....」


慰鶴は急に笑うのをやめて、まっすぐに蛍を見た。

突如訪れた沈黙に、今度は自分が何かを間違えたのかと狼狽える。

取り繕うように、蛍の口からは言葉にならない言葉が溢れた。

「わ、私聞いたもの、魔法があれば、物も動かせるし、人も救えるし

国だって…だから、私は…力を借りたいと思って…」

だめだ、初対面のこんな男に、何を話しているんだろう。

段々と、自分の声が小さくなるのを感じながら、蛍はついに慰鶴の視線を逃れるように顔をそらした。


慰鶴の手が伸びて、蛍のフードを下ろす。

温かくて大きな手が、そのまま頬に触れる。蛍は肩を思わず強張らせた。


「モノも人も、人に惹かれるのさ。魔法じゃない。

大切なのは、”人”だよ、蛍。」

固まった心の奥底を、トーン、と叩くように、質量のある声が響く。


「そして君の国を救うのものね。王女様」

「…え?」

…王女?

蛍が顔をあげると、慰鶴はにっこりと笑って見せた。

「わかるよ。俺も昔は―」

慰鶴が何かを言いかけるのと同時に、パァン!と破裂音が響いた。

銃声だ。





あまり進まなくてごめんねごめんね。

とりあえず、蛍が魔法を目指してこのまちに来たことを説明する回ということで…。

んで、この「銃声」を、首飾りを盗んだひとたち登場に絡めるか(そんでそいつらがじつはイヅルの探してた偽ゴールデントリガー)…て迷ってそのまま丸投げ(おい)


説明しそこねたけれど、慰鶴がまちに詳しいのは、じいちゃん(ジョニー)の教育方針でしょう。

「王子たるもの市民の暮らしをちゃんと知っていなさい」的な。

慰鶴がもともと人懐っこく探検好き、てのもあるかもしれませんが。


つうかなに、イヅル魔法きらいなの?←書きながらびっくりする作者

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