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とある星物語 Returns   作者: さゆのすけ
31/35

第三十歯 幼なじみ

「青春系プー…私にはもう、力は必要ありません」


ガリヴァーノンは息絶え絶えに言うと、「うう…」と苦しげにうずくまった。

弱まった呪いが、再び彼を支配しようとしていた。


「そうはいかないのさ、ベイビー」


おまるがくちばしで、ガリヴァーノンの顎を持ちあげた。


「ちみにはまだまだ、やることがある」

「私は…私がなにをすべきか、やっとわかりました。わずかでも呪いから放たれている今、私はもう戦いたくはない」

「ハッハー!それはそれは」


プーは大口を開けて笑うと、ガリヴァーノンに拍手を送った。


「しかし、ちみは戦わざるを得ない。ショタコンヴァーノン?」


「語呂が悪いぜ、マイマスター」とおまるがおしりを振った。

プーの不敵な笑いに、ガリヴァーノンは凍りついた。


「赤目がちみの帰りを待っているよ」


ガリヴァーノンは、奥歯を強く噛みしめた。

今まで少年を守っていたスピッツという壁が、人質を捕らえる檻に変わる。


「はは…因果応報です。今さら変わろうなんて、虫がよすぎますか」

「ガリヴァーノンさん、僕は…」

「おおっと!困るよ、イルカくん」

「っ!?」


ガリヴァーノンと対峙していたはずのプーが、イルカの背後からスーッとムーンウォークで現れる。

「いつの間に!?」とカーネルは驚きを隠せなかったが、イルカは笑顔を崩さない。


「これ以上、僕のファミリーに、おかしなことを吹き込まいでくれたまご。ゆでたまご」

「あはは、それはあなたでしょう。なにを恐れているのです?」


イルカが振り向き様に、傘を突き出す。

プーはぐにゃぐにゃと上体を揺らして受け流すと、すかさずウィンクをした。

つぶらな瞳からパチンッとハートが飛んで、次第に大きくなると、イルカの体を包み込んだ。


「イルカくん。ちみは若くして、スピッツの脅威になり得るようだ。見過ごすわけにはいかない」


イルカは「おやおや」と笑って、ノックをするようにハートを内側から叩いた。

ぼわんと鈍い音が響いたが、割れる様子はない。


「ムダだよ。さて、ちみをスピッツに招待しようじゃないか。ヘイ!カモンッ!」

「イルカさん!」


駆け寄るカーネルを突風が阻む。

プーを囲うように渦を巻いて、風は威力を増した。


「パセリの息子よ。ジョニーに伝えるがいい、パルファムブランは目前だ、と」

「パルファムブラン…?」

「あいつならわかる。それではアデュー!」

「待て!」


プーの高笑いが響いて、風が視界を遮る。

カーネルが目を開けると、3人の姿は消えていた。


☆ ☆ ☆


どうやって帰ったのか、記憶がない。

姫魅は維持軍に戻るなり、チェンに助けを求めたそうだ。

チェンは倒れていた俺を保護すると、医務室で手当てを済ませ、心配しているであろう姫魅のもとへすぐに運んだらしい。


姫魅は約束通り、昼食を用意してずっと待っていた。

夜更けに鳴らされたインターホンに、姫魅は血相を変えて、扉を乱暴に開けたそうだ。

その細い腕で力一杯抱きしめられて、優しい痛みに、俺はうっすらと意識を戻した。姫魅はその場に崩れ落ちて、声を枯らすまで泣いていた。


「姫魅くんは、家族を奪われる恐怖と苦しみを知っている。それは俺なんかより、おまえが知っていることだ。理解者であるおまえが、姫魅から家族を奪うな」


とっくに冷めてしまった俺のオムライスをもぐもぐと頬張りながら、チェンは俺をこっぴどく叱った。

その夜は、姫魅といっしょに寝ることにした。

姫魅はしばらく、俺から離れようとはしなかった。


窓辺のパセリをぼんやりと眺める。


「大丈夫だよ、父さん」

カーネルは少し項垂れたパセリに苦笑して、シーツをぎゅっと握り締めた。

青春系プーを倒すために、できることは全てやってきたつもりだった。

「俺は…スピッツの四天王にさえ、敵わないのか」


カチャッとドアが開いて、姫魅がひょっこり顔を出した。


「ネル、調子はどう?」

「ありがとう。もう大丈夫だよ」

「うん」


カーネルは笑っていたが、ベッドサイドのお粥には手がつけられていない。


(うそだ。無理してる)


姫魅は窓辺のパセリに目を向けた。

チェンの話によると、あのパセリはカーネルの父親だという。

青春系プーの手により、父をパセリに変えられたとき、彼はまだ姫魅と同じくらいの歳だったらしい。

チェンは「ネルは今も、憎しみを抱えて生きている」と言っていた。


(僕の知らないネル…)


姫魅と過ごすカーネルは、どんなときも穏やかで優しい教師であり、兄であり、父だった。


「ねえ、ネル」


インターホンが鳴る。姫魅は小走りで玄関に向かうと、ゆっくりと扉を開けた。


「…チェンさん?」

「どーも。姫魅くん、邪魔するよ」

「どうぞ。ネルなら、部屋にいます」

「ありがとう。ったく…あいつといると、胃がザルになる。いい加減、無茶しないことを覚えたらどうなんだ…チキン頭め」


チェンは愚痴を溢しながら、ずかずかと部屋にあがり込んだ。


(相変わらず、素直じゃないんだから)


姫魅はくすくすと笑った。

チェンに出逢ったばかりの頃は、それが心配の裏返しだと気がつかず、呆気にとられたものだ。

今となってはチェンの愚痴は、微笑ましい恒例行事である。


「ああ、チェンか。また来たのか?暇だな」

「暇なものか」


カーネルは苦虫を噛んだようなひどい顔で、チェンを迎えた。

それが照れ隠しだということは、きっとチェンも知っている。


「ただでさえ、助手不足で余裕がないんだ。仕事を増やしてくれるな」

「悪い」


カーネルが起きあがろうとする。チェンは「寝てろ、チキン頭」と彼の額を指で弾いた。


「チキ…?!」

「ほう、否定できるか?俺が親切にも、繰り返し繰り返し忠告しているというのに…おまえはいつもいつも…」


「悪かった、悪かった」と手をあわせるカーネルに、チェンは大きくため息を吐いた。


「姫魅くんは、ネルみたいな大人にならないように」

「はい」


「姫魅」とネルが情けない顔をする。

姫魅が声にして笑うと、ふたりもふふっと笑った。


「あ、そうだ。慰鶴にもらったお菓子があるんです。よかったら食べていきませんか?」

「お気遣いなく。珈琲はミルク多めで」

「お気遣いさせるなよ…姫魅、俺にも珈琲を頼む」

「うん」


姫魅は嬉しそうに頷いて、廊下の向こうにパタパタと駆けていった。


「いい子だな」

「ああ。出逢った頃より、ずっと姫魅らしくなった」

「おまえが後見人を申し出たときには、心優しい姫魅くんがグレたらどうしようかと」

「皮肉か?」

「さあね」


チェンは肩を竦めた。


「昔のお前に似てる」

「そうか?」

「ああ」


チェンは懐かしそうに目を細めている。


「チェン。俺は変わっただろうか?」


カーネルがひとり言のように言うと、チェンはきょとんとした。


「変わったさ。体脂肪率が減って、筋肉量が増えた。髪が5センチ伸びたか。近視が2段階強くなったな。メガネのデザインは、3回変わっているはずだ。なにより、俺よりずっとチビだったのが、なにを食べたのか…」


カーネルの真剣な目に、チェンが黙る。


「…プーに会ったんだ。俺は、なにもできなかった。プーの手下にすら、歯が立たなかった」


カーネルの肩が怒りに震えている。握った手に、爪が食い込んでいる。


「イルカさんが連れ去られてしまって…俺、なにやってんだ」


シーツに顔を埋めて、カーネルは嗚咽を漏らした。

チェンはため息を吐いて、親友の肩に手を添えた。


「無事に帰ってきてくれたんだ。おまえは変わったよ」

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