第二十五歯 再会のオンパレード
「いつもは、魚の被りものをした執事もおんねん。小さい頃から、兄弟みたいに育てられてな。おもろい奴やで、また紹介したるわ」
にっと八重歯を覗かせて、エルモは笑った。
「エルモ」と咲蘭が時計を見やる。
「すまんな、引き止めてしもて。晩餐会があるさかい、そろそろ…慰鶴、お前もやろ。すっぽかしたらあかんで」
「あー…わかってる、わかってる」と慰鶴はうんざりしている。
「ほんまかいな」とエルモは笑った。
(思ったほど、悪いひとじゃないのかも)
エルモはまるで、おせっかい焼きなお兄さんだ。
それに蛍は初めて、慰鶴の素顔を見た気がした。
「ツクモ探し、がんばってね。学校で会えるのを楽しみにしているわ」
咲蘭がひらひらと手を振る。彼女の美しい仕草に、蛍はうっとりした。
パエリアが「寂しい顔しないで!」と、姫魅の手をぎゅっと握る。
「スペースアイドル、パエリアは、いつもみんなの心にいるから☆」
「スペースアイドル?」と蛍が首を傾げる。
「別に寂しくないけど」と姫魅が続く。
「おい、空気読め☆」とパエリアはウインクを飛ばした。
エルモが「空気が読めてへんのはお前や」と、パエリアを肘で小突く。
「見てみ。黒髪の手ぇ握ってからの、お嬢さんの鬼の形相」
蛍を覗きこんで、パエリアは「はわわ☆」と両手で口を覆った。
「恐いやろ。女の顔や」と、エルモはニヤニヤしている。
「ごめんなさーい!あたしってば…お姉さん、がんばってね☆」
「はあっ?」
「スペースアイドルたる者、乙女の恋路は応援せんとな。ほな」
「ちょっと?!なによ?!待ちなさい」
「ばっいばーい☆」
赤酉隊の3人は、嵐のように去っていった。
☆ ☆ ☆
補修2日目。
待ち合わせまで、まだ時間がある。
蛍は本屋に立ち寄った。
(うわあ…本当にモデルさんなんだ)
探すまでもなく、雑誌Be-L.Moは店の入口に堂々と並んでいた。
ティーンズの表紙はパエリア、大人向けの表紙は咲蘭が飾る。
男性向けの表紙には、エルモの写真に「流行を越えろ!できる男の極意」と添えられている。
蛍は雑誌に手を伸ばした。
「あら、嬉しい」
蛍が振り返ると、ロングヘアーの美女が優しく微笑んでいた。
困惑する蛍に、彼女はクスクスと笑った。
「そっか。昨日は、髪をアップにしていたから」
「えっと…もしかして、咲蘭さん?」
「正解。あなたの名前は?まだ、聞いてなかったわよね」
「蛍です」
「蛍ちゃん。優しく光る生き物の名前ね、すてき」
「ありがとうございます」
蛍が照れ笑いを浮かべる。
咲蘭はにこっと微笑んで、雑誌を手にとった。
「興味持ってくれたんだ」
「みなさん、キラキラしていて…ツクモを得るヒントになりそうで」
「ありがとう。そうね。蛍ちゃん、魔法のセンスあるかも」
「本当ですか?!」
「ええ。ただ、キラキラだけでは、ツクモは掴めないわ。エルモの印象、どうだった?」
「え?ええっと…正直、最初は感じ悪かったです。でも、話しているうちに温かい人だって感じました」
「彼は生まれた瞬間からずっと、大魔法使いジョニーの後継者として育てられ、死に物狂いで努力してきたの。叔父夫婦が慰鶴を養子にした瞬間、彼の後継者としての価値はほとんどなくなったわ。だから、アパレル業界に居場所を取り戻そうと、彼は努力してる」
「それで、あんな言いかたを…」
「エルモは、慰鶴を妬んでしまう自分と葛藤してるのよ。彼はもがきながら、自分が学んできた全てを慰鶴に託そうとしているわ。キラキラだけじゃない。彼のすべてが、彼の力強い魔法を生みだしてるの」
「咲蘭さんは、エルモが大好きなんですね」
「ふふ。嫌いなんて言ったら、クビかしら?」
雑誌をひらひらさせて、咲蘭は笑った。
冗談が言えるのも、エルモの人柄あってだろう。
「私、ツクモもいないですけど…咲蘭さんの気持ちも、エルモの魔法の一部だと思います!」
「そうね。そうだと嬉しいわ。蛍ちゃんも…」
咲蘭は言いよどんで、しばらく言葉を探した。
「これは私の考えだけど。慰鶴が魔法を使えないのは、エルモに気を遣っているんじゃないかしら?無意識に、後継者候補から外れようとしているのかも」
「慰鶴ならもしかしたら…」
「私は、慰鶴の過去を知らないけど…エルモは、過去の経験から、彼は力を持つことを恐れているんじゃないかって。どちらにせよ、慰鶴のそばにいてあげて。蛍ちゃんの存在が、きっと彼の力になるわ」
慰鶴がどんな人で、蛍の何がどう、力になれるのか。
まだ検討もつかないが、彼の助けになれる可能性があるならば、そばにいよう。
蛍は力強く頷いた。
「やっほー!ほったる♪さっくらん♪」
噂をすれば。
慰鶴は例のごとく、貧血の姫魅を抱えて現れた。
「あら?慰鶴、おはよう」
「おはよう、慰鶴…と姫魅はどうしたの?」
「Hai!caloryで朝飯食ってたら、通りに姫魅が倒れててさ!拾ってきた!」
「また?姫魅の貧血も大きな課題ね」
蛍はため息を吐いた。
「姫魅くんは、よく倒れるの?」
「はい。牛乳配達のアルバイト、やっぱり向いてないのよ」
「そう。心配ね」と咲蘭が考え込む。
「姫魅くん、うちで働いてみない?健康・美容の体験記事で、協力してくれる読モを探してるのよ」
「姫魅がモデル?!」
「読モね。モデルには、身長が少し足りないわ。読モなら、条件は厳しくないの。人気が出れば、モデルもあり得るけど。そうね…姫魅くんの魅力を引き出すなら、ジャケットで大人な雰囲気より、ハンチング帽で可愛く決めてたほうが…ふふ…うふふ…」
「咲蘭さん?」
「あ、ああ!あはは、ごめんなさい!エルモの許可は降りると思うから、姫魅くんに訊いてみて」
ふと慰鶴の表情が険しくなる。
「慰鶴、どうしたの?」
「伏せて!」
「っ?!」
物陰から、何かが飛び出した。
慰鶴の腕が、庇うように蛍の頭を押し下げる。
蛍はそのまま、頭を抱えてうずくまった。
頭上で金属のぶつかる音がする。
「慰鶴?」
蛍は恐る恐る顔をあげた。
慰鶴は姫魅と蛍を抱えたまま、降りおろされた刃をアサルトライフルで受け止めていた。
「大丈夫、落ちついて」と咲蘭の声がする。
彼女は魔法で植物のバリケードを作ると、混乱する人々を手際よく避難させていた。
「誰だ、てめぇ?」
慰鶴が睨んだ先で、フードを深く被った男が切っ先に力を込める。
慰鶴の銃が、じりじりと押し戻される。
「慰鶴が押し負けてる…?」
咲蘭は目を丸くした。
「はは、おもしれぇ」
蛍はゾクッとした。
慰鶴は飢えた獣のように目をぎらつかせて、まるで別人だ。
対して、姫魅は死んだ魚の目をしたまま、動かない。
「慰鶴から離れなさいよ、あんぽんたん!」
なにもできないから、なにもしないのはもう嫌だ。
蛍は力一杯拳を握ると、男の腹をポカポカと叩いた。
「変わらないな、蛍」
「っ?!どうして名前を」
男は銃をはね除けると、剣先を姫魅に向けた。
フードの下から、懐かしい仏頂面が現れる。
「待たせたな」
「涼風お兄様!?」
「ああ」
「本当に?!」
「本当に」
「涼風お兄様!!!」
蛍が飛びつくと、涼風の太い腕が彼女をしっかりと抱き止めた。
火のついたように、蛍は泣き出した。
「蛍のお兄さん?」と姫魅が目を覚ます。
「ほへー…似てない」と慰鶴はきょとんとしている。
「あら、いい男。レザーなんて、どうかしら…」と咲蘭はボソッと呟いた。
「蛍、離れてろ。あいつはスピッツだ」
涼風の鋭い眼光に、姫魅が縮こまる。
「違うわ!お兄様、姫魅は私を助けてくれたの!」
「罠だ。あいつは確かに、愛華の隣にいた」
「待って!きっと間違いよ!だって、彼は!」
「姫魅、逃げろ!」
「遅い」
慰鶴が身構えるより先に、涼風は彼を蹴り飛ばした。
無防備な姫魅に、剣が振りおろされる。
『ぺっ!ぺっ!へぷしっ!ふぇっぷし!ぷしっ!』
突如、現れたアルパカが、涼風めがけて唾を飛ばす。
「っ?!…くせえ」
アルパカは満足げに『ふーんふふーん』と笑っている。
「お兄様、お願い。彼を殺してはダメ。彼はとても温かい人よ。私が惚れてしまうくらいに、姫魅は強くて優しいの」
「ほ、蛍っ?!」
姫魅が耳まで赤くなる。
慰鶴はうんうんと、大きく頷いていた。
咲蘭は「蛍ちゃん、大胆」と目を輝かせている。
「そうか。惚れ…そうか…そうか…」
涼風は剣を納めた。
「お兄様!ありがとう」
「ああ」
「悪かったな、金色の」と涼風は決まり悪そうに言った。
「気にしなーい、気にしなーい♪みんな蛍が大好きってだけだよ!それにしても、蛍の兄ちゃん、つええなあ」
「もちろんよ」と蛍は嬉しそうだ。
涼風は「すまない」と、姫魅に手をさしのべた。
おずおずと握った姫魅の手を、涼風がぐぐっと握り返す。
「焦る必要はない。蛍が涙を流すことがあれば、いつだって殺せそうだからな」
(スピッツ関係なくなってるー!)
「ふふ。お兄様、いつも強く握りすぎるんだから」
(違うよ、蛍!いつもの握手とたぶん違うよ?!)
涼風の睨みに、姫魅はひとり身震いした。
「さて」と涼風は顔をあげた。
アルパカはつぶらな瞳で涼風を見つめたまま、くっちゃくっちゃと顎を横に動かしている。
「なんだ、この…入れ歯をなくした、ばーさんみたいな動きは…」
「お兄様。たぶんそれ、私のツクモ…」
「っ!??」
涼風が固まる。彼は目を伏せると、ふんっと鼻を鳴らした。
「さすが、蛍だ。王族にふさわしい澄んだ瞳のツクモだな」
「まさか、噂の王子がシスコンだったとは」
風鈴のように、涼やかで美しい声がした。
「誰だ?」
一同は屋根を仰ぎ見た。
そこには、姫魅に瓜二つの少年が、涼しい顔をして立っていた。
隣には、ポニーテールの少女が座っている。
慰鶴は、蛍を振り返った。
「あの時の…」
いつか街で出逢ったことがある。
涼風は剣を抜いた。
「なにもしないよ。ただ、勘違いで弟を殺されては困る」
「兄さん」
「久しぶりだね、姫魅」
少年は寂しそうに笑った。
「そういうことか」
涼風は少年に斬りかかったが、ガンッと鈍い音して、剣は見えない壁に弾き返された。
「へえ。魔法が使えないって噂、本当なんだ」
「……」
「血の気が多くて困るよ、王子さま。俺は宵狐、彼は姫魅。僕らは一卵性双生児だ」
「ソーセージ?」と慰鶴がよだれを拭う。
「ソーセージでも、なんでもいいよ。疑いが晴れたなら、俺は帰る」
「待って、兄さん!」
「姫魅、ごめん。いっしょにはいられないんだ」
「なんで?僕は兄さんといっしょがいいよ」
「俺もだ」
宵狐は急に、隣の少女を突き飛ばした。
足下に魔方陣が浮き上がると、宵狐の動きが鈍くなった。
「そばにいたいなら、そばにいればいい」
「ネルさん!?」
「遅いと思ったら…蛍ちゃん、合格おめでとう」
「合格?…あっ!」
補修のことなど、すっかり忘れていた。
「初めまして、宵狐くん。姫魅の保護者、カーネル・サンダースです」
「どうも。姫魅がお世話になってます」
「スピッツが街中で、悠長におしゃべりとは…甘いんじゃないか、宵狐くん?」
「なら、カーネルさん。あなたは甘過ぎる」
宵狐は深呼吸をして、ふっと体に力を込めた。
魔方陣は呆気なく、光を失った。
「はは、末恐ろしいね」
「それはどうも」
「おやおや」
イルカが現れるなり、宵狐に拍手を贈った。
「お見事ですね」
「イルカさん。感心してないで、手伝ってください」
「手伝いたいのは、山々ですが…」
通りの向こうで、赤い目の少年がぺこりとお辞儀をした。
腰まで編んだ黒髪が、龍の尾のように揺れる。
「やだ、かわいい!シャツ…いいえ、パーカーでも…萌え袖がいいわ…」と咲蘭が呟く。
「おいおい、なんて日だ!」とネルは頭を抱えた。
「彼は、僕と話がしたいだけでしょう。僕も彼と話がしたい。すぐに戻ります」
「イルカさん」
呼び止めたのは、宵狐だった。
「彼はガリヴァーノンの糸に囚われている。彼は話がしたいだけでも、話だけではすまないよ」
「糸?」
「うん、魔力の糸。彼がどれだけ巧みに目を盗んでも、ガリヴァーノンは糸を手繰ってすぐにやってくる」
「……」
今のように話ができるのは、スピッツ側に戦意がないからだ。
ガリヴァーノンが加われば、生徒4人を庇いながら戦うことになるだろう。
涼風を戦力に足しても、生徒を守り抜くのは難しい。
「やれやれです」
「忠告はしたよ。あとは、あなたが決めることだ」
宵狐は涼風に向き直った。
「状況が変わった。涼風、頼みがある」
「なんだ?」
涼風はうっかり返事をして、慌てて「呼び捨てにするな」と言い直した。
「誘拐されてくれないか?」
「あ?なに言ってん…」
宵狐が真剣な眼差しで、涼風をまっすぐに見つめる。
宵狐と蛍を交互に見て、涼風は頭を掻いた。
「蛍、すまん」
「お兄さま!?どうして?!」
蛍はハッとして、宵狐を睨みつけた。
「あなた、魔法を使ったわね?!」
宵狐は腹を抱えて笑った。
蛍は「なによ?」と口を尖らせると、恥ずかしさに赤面した。
「ごめん、ごめん。使ってないよ。魔法はなんでも思い通りにする力じゃない」
「っ!?わ、わかってるわよ!!」
「蛍、必ず迎えにくる。飯、食えよ」
「お兄さま…」
「ごめんね。大丈夫、借りたものは、必ず返す主義だから」
「この借りも、ちゃんと返せよ」
「ありがとう、涼風。その魔法、時間がないんだろう?すまない」
「そこまでお見通しかよ」と涼風はぼやいた。
「月香、君は愛華のそばにいろ」
「嫌よ。私も行くわ」
宵狐は静かに首を振った。
「姫魅が生きていると、ガリヴァーノンに知れたら…ううん、もう知れてしまっただろう。すぐに追手がやってきて、俺は裏切者として拘束される。今までのように、月香や姫魅を守ることができなくなる」
「私があなたを守るわ」
「ありがとう」と微笑む宵狐の目は優しい。
「涼風と俺がいっしょなら、スピッツは君達に手出しできない。涼風が俺を殺すのも、俺が涼風を殺すのも、スピッツは避けたいはずだからね」
「お互いが人質ってことね?」
「うん。月香には、頼みたいことがあるんだ。ずっと俺の手当てをしてきた君なら、俺の魔力を辿るのは容易だろ?」
月香はこくんっと頷いた。宵狐がふっと笑う。
「俺もわかるよ。月の光のように優しい、月香の魔力が。君には隙をみて、スピッツの情報を流してほしい。危険だが、君にしかできないんだ」
「わかった」
宵狐はぎゅっと月香を抱き寄せた。
「冷たくしてごめん。月香の優しさ、嬉しかったよ」
「私を守るためでしょう?ありがとう。どうか、ご無事で」
「ありがとう、月香。姫魅、またね」
「兄さん?!」
「涼風お兄さま?!」
風が吹いて、宵狐と涼風は姿を消した。
月香はきらきらと光をまとうと、どこかに消えてしまった。
「黙って抜けだして…いけない子ですねぇ。ふふ、お仕置きが足りないなあ…足りないなあ!?」
「っ!?」
少年の背中が割れて、ガリヴァーノンが這い出した。
脱け殻になった少年が、ドサッと崩れ落ちる。
吐き気から、咲蘭はその場にしゃがみこんだ。
「お久しぶりです、イルカさん」
「ガリヴァーノンさん」
「どうしたんです?怖い顔をして…ああ、これは人形ですから」
ガリヴァーノンは、脱け殻の頬をそっと撫でた。
「彼は死んではいないですよ。今頃、激痛に襲われているでしょうが」
「彼はどこに?」
「僕の部屋に飾ってますよ。お気に入りは、実用用、保存用、鑑賞用と用意する主義でしてね」
「チェンと同じこと言ってるが、チェンを越える変態だな」
カーネルは吐き捨てるように言った。
「チェンさんとは、変態のベクトルが違いますよ」
ガリヴァーノンはどこ吹く風と聞き流した。
「困ってたんですよ。イルカさんに出逢ってから、脱走癖がついてしまって…そうそう、彼からあなたに」
ガリヴァーノンは、1冊の古本を投げてよこした。
色の変わった表紙には「魔法学」の文字と、イルカの名前が手書きで記されている。
「忘れものを届けたくて、ずっと探していたようですよ?手書きの教科書でしょうか。随分と古いが、大事にされているようだ。誰かの形見ですか?」
「……」
「もう1度、会いたくないですか?」
「なにを…言っているのですか?」
「言葉通りですよ。その本に触れた瞬間、彼が意識を失いましてね。彼のツクモは、あなたに関わる誰かの記憶を持っているようだ…恐らく、形見の相手でしょう」
イルカは目を見開いた。
ガリヴァーノンは脱け殻を鷲掴みにすると、ポシェットからガラス瓶を取り出した。
瓶の中で、小さな龍が暴れている。
「大切な誰かさんそっくりな人形に、彼のツクモを入れたらいいんですよ。最愛のひとに再会できるなんて、あなたはなんて幸運なんだ!」
「ツクモを失って、彼はどうなるんです?」
「ツクモは入れるだけですから、死にはしませんよ。少しばかり、心を失うだけです」
「ひどい」と蛍は思わず、口から溢した。
「あなたには、使い古したごみ袋を破ったものに、おはよう靴下のコーデがお似合いよ」と咲蘭は乱暴に言った。
「ふふ、僕の靴下はすでに…」とガリヴァーノンが靴を脱ぐ。
「おはようですよ」
「っ?!!」
彼の靴下に大きな穴を見つけて、咲蘭は衝撃を受けると、そのままパタッと倒れた。
「僕にはできないです」とイルカが口ごもる。
「できますよ。人間は生まれながらにエゴイストだ。だから、自ら規律を作り、理想という枠に拘る。見知らぬ少年と大切な誰か、考えるまでもないでしょう?」
「…僕はエゴイストかもしれません。ただ、あの時よりずっと、広い世界を知り、深い経験を得ました。彼女のおかげで、愛を知ったんだ…お断りしますよ」
ガリヴァーノンの肩で、「グルッポーグルッポー」と鳩が鳴いた。
「あなたは彼の声が戻ることを望んでいたじゃないですか。あれは嘘だったのですか?」
「心から望んでいますよ。どんな声で泣き叫ぶのか…考えるだけで、心が躍ります」
「ガリヴァーノン…!」
イルカの声が、怒りで震える。
「あなたも僕のお気に入りだ。今日のところは、あなたに免じて帰りましょう。よい返事をお待ちしています」




