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とある星物語 Returns   作者: さゆのすけ
26/35

第二十五歯 再会のオンパレード

「いつもは、魚の被りものをした執事もおんねん。小さい頃から、兄弟みたいに育てられてな。おもろい奴やで、また紹介したるわ」


にっと八重歯を覗かせて、エルモは笑った。

「エルモ」と咲蘭が時計を見やる。


「すまんな、引き止めてしもて。晩餐会があるさかい、そろそろ…慰鶴、お前もやろ。すっぽかしたらあかんで」

「あー…わかってる、わかってる」と慰鶴はうんざりしている。

「ほんまかいな」とエルモは笑った。


(思ったほど、悪いひとじゃないのかも)


エルモはまるで、おせっかい焼きなお兄さんだ。

それに蛍は初めて、慰鶴の素顔を見た気がした。


「ツクモ探し、がんばってね。学校で会えるのを楽しみにしているわ」


咲蘭がひらひらと手を振る。彼女の美しい仕草に、蛍はうっとりした。

パエリアが「寂しい顔しないで!」と、姫魅の手をぎゅっと握る。


「スペースアイドル、パエリアは、いつもみんなの心にいるから☆」

「スペースアイドル?」と蛍が首を傾げる。

「別に寂しくないけど」と姫魅が続く。


「おい、空気読め☆」とパエリアはウインクを飛ばした。

エルモが「空気が読めてへんのはお前や」と、パエリアを肘で小突く。


「見てみ。黒髪の手ぇ握ってからの、お嬢さんの鬼の形相」


蛍を覗きこんで、パエリアは「はわわ☆」と両手で口を覆った。

「恐いやろ。女の顔や」と、エルモはニヤニヤしている。


「ごめんなさーい!あたしってば…お姉さん、がんばってね☆」

「はあっ?」

「スペースアイドルたる者、乙女の恋路は応援せんとな。ほな」

「ちょっと?!なによ?!待ちなさい」

「ばっいばーい☆」


赤酉隊の3人は、嵐のように去っていった。


☆ ☆ ☆


補修2日目。

待ち合わせまで、まだ時間がある。

蛍は本屋に立ち寄った。


(うわあ…本当にモデルさんなんだ)


探すまでもなく、雑誌Be-L.Moは店の入口に堂々と並んでいた。

ティーンズの表紙はパエリア、大人向けの表紙は咲蘭が飾る。

男性向けの表紙には、エルモの写真に「流行を越えろ!できる男の極意」と添えられている。


蛍は雑誌に手を伸ばした。


「あら、嬉しい」


蛍が振り返ると、ロングヘアーの美女が優しく微笑んでいた。

困惑する蛍に、彼女はクスクスと笑った。


「そっか。昨日は、髪をアップにしていたから」

「えっと…もしかして、咲蘭さん?」

「正解。あなたの名前は?まだ、聞いてなかったわよね」

「蛍です」


「蛍ちゃん。優しく光る生き物の名前ね、すてき」

「ありがとうございます」


蛍が照れ笑いを浮かべる。

咲蘭はにこっと微笑んで、雑誌を手にとった。


「興味持ってくれたんだ」

「みなさん、キラキラしていて…ツクモを得るヒントになりそうで」

「ありがとう。そうね。蛍ちゃん、魔法のセンスあるかも」

「本当ですか?!」

「ええ。ただ、キラキラだけでは、ツクモは掴めないわ。エルモの印象、どうだった?」

「え?ええっと…正直、最初は感じ悪かったです。でも、話しているうちに温かい人だって感じました」

「彼は生まれた瞬間からずっと、大魔法使いジョニーの後継者として育てられ、死に物狂いで努力してきたの。叔父夫婦が慰鶴を養子にした瞬間、彼の後継者としての価値はほとんどなくなったわ。だから、アパレル業界に居場所を取り戻そうと、彼は努力してる」

「それで、あんな言いかたを…」

「エルモは、慰鶴を妬んでしまう自分と葛藤してるのよ。彼はもがきながら、自分が学んできた全てを慰鶴に託そうとしているわ。キラキラだけじゃない。彼のすべてが、彼の力強い魔法を生みだしてるの」


「咲蘭さんは、エルモが大好きなんですね」


「ふふ。嫌いなんて言ったら、クビかしら?」


雑誌をひらひらさせて、咲蘭は笑った。

冗談が言えるのも、エルモの人柄あってだろう。


「私、ツクモもいないですけど…咲蘭さんの気持ちも、エルモの魔法の一部だと思います!」

「そうね。そうだと嬉しいわ。蛍ちゃんも…」


咲蘭は言いよどんで、しばらく言葉を探した。


「これは私の考えだけど。慰鶴が魔法を使えないのは、エルモに気を遣っているんじゃないかしら?無意識に、後継者候補から外れようとしているのかも」


「慰鶴ならもしかしたら…」


「私は、慰鶴の過去を知らないけど…エルモは、過去の経験から、彼は力を持つことを恐れているんじゃないかって。どちらにせよ、慰鶴のそばにいてあげて。蛍ちゃんの存在が、きっと彼の力になるわ」


慰鶴がどんな人で、蛍の何がどう、力になれるのか。

まだ検討もつかないが、彼の助けになれる可能性があるならば、そばにいよう。


蛍は力強く頷いた。


「やっほー!ほったる♪さっくらん♪」


噂をすれば。

慰鶴は例のごとく、貧血の姫魅を抱えて現れた。


「あら?慰鶴、おはよう」


「おはよう、慰鶴…と姫魅はどうしたの?」

「Hai!caloryで朝飯食ってたら、通りに姫魅が倒れててさ!拾ってきた!」

「また?姫魅の貧血も大きな課題ね」


蛍はため息を吐いた。


「姫魅くんは、よく倒れるの?」

「はい。牛乳配達のアルバイト、やっぱり向いてないのよ」


「そう。心配ね」と咲蘭が考え込む。


「姫魅くん、うちで働いてみない?健康・美容の体験記事で、協力してくれる読モを探してるのよ」

「姫魅がモデル?!」

「読モね。モデルには、身長が少し足りないわ。読モなら、条件は厳しくないの。人気が出れば、モデルもあり得るけど。そうね…姫魅くんの魅力を引き出すなら、ジャケットで大人な雰囲気より、ハンチング帽で可愛く決めてたほうが…ふふ…うふふ…」

「咲蘭さん?」

「あ、ああ!あはは、ごめんなさい!エルモの許可は降りると思うから、姫魅くんに訊いてみて」


ふと慰鶴の表情が険しくなる。


「慰鶴、どうしたの?」

「伏せて!」

「っ?!」


物陰から、何かが飛び出した。

慰鶴の腕が、庇うように蛍の頭を押し下げる。

蛍はそのまま、頭を抱えてうずくまった。

頭上で金属のぶつかる音がする。


「慰鶴?」


蛍は恐る恐る顔をあげた。


慰鶴は姫魅と蛍を抱えたまま、降りおろされた刃をアサルトライフルで受け止めていた。


「大丈夫、落ちついて」と咲蘭の声がする。

彼女は魔法で植物のバリケードを作ると、混乱する人々を手際よく避難させていた。


「誰だ、てめぇ?」


慰鶴が睨んだ先で、フードを深く被った男が切っ先に力を込める。

慰鶴の銃が、じりじりと押し戻される。


「慰鶴が押し負けてる…?」


咲蘭は目を丸くした。


「はは、おもしれぇ」


蛍はゾクッとした。

慰鶴は飢えた獣のように目をぎらつかせて、まるで別人だ。

対して、姫魅は死んだ魚の目をしたまま、動かない。


「慰鶴から離れなさいよ、あんぽんたん!」


なにもできないから、なにもしないのはもう嫌だ。

蛍は力一杯拳を握ると、男の腹をポカポカと叩いた。


「変わらないな、蛍」

「っ?!どうして名前を」


男は銃をはね除けると、剣先を姫魅に向けた。

フードの下から、懐かしい仏頂面が現れる。


「待たせたな」

「涼風お兄様!?」

「ああ」

「本当に?!」

「本当に」

「涼風お兄様!!!」


蛍が飛びつくと、涼風の太い腕が彼女をしっかりと抱き止めた。

火のついたように、蛍は泣き出した。


「蛍のお兄さん?」と姫魅が目を覚ます。

「ほへー…似てない」と慰鶴はきょとんとしている。

「あら、いい男。レザーなんて、どうかしら…」と咲蘭はボソッと呟いた。


「蛍、離れてろ。あいつはスピッツだ」


涼風の鋭い眼光に、姫魅が縮こまる。


「違うわ!お兄様、姫魅は私を助けてくれたの!」

「罠だ。あいつは確かに、愛華の隣にいた」

「待って!きっと間違いよ!だって、彼は!」


「姫魅、逃げろ!」

「遅い」


慰鶴が身構えるより先に、涼風は彼を蹴り飛ばした。

無防備な姫魅に、剣が振りおろされる。


『ぺっ!ぺっ!へぷしっ!ふぇっぷし!ぷしっ!』


突如、現れたアルパカが、涼風めがけて唾を飛ばす。


「っ?!…くせえ」


アルパカは満足げに『ふーんふふーん』と笑っている。


「お兄様、お願い。彼を殺してはダメ。彼はとても温かい人よ。私が惚れてしまうくらいに、姫魅は強くて優しいの」

「ほ、蛍っ?!」


姫魅が耳まで赤くなる。

慰鶴はうんうんと、大きく頷いていた。

咲蘭は「蛍ちゃん、大胆」と目を輝かせている。


「そうか。惚れ…そうか…そうか…」


涼風は剣を納めた。


「お兄様!ありがとう」

「ああ」


「悪かったな、金色の」と涼風は決まり悪そうに言った。


「気にしなーい、気にしなーい♪みんな蛍が大好きってだけだよ!それにしても、蛍の兄ちゃん、つええなあ」


「もちろんよ」と蛍は嬉しそうだ。


涼風は「すまない」と、姫魅に手をさしのべた。

おずおずと握った姫魅の手を、涼風がぐぐっと握り返す。


「焦る必要はない。蛍が涙を流すことがあれば、いつだって殺せそうだからな」


(スピッツ関係なくなってるー!)

「ふふ。お兄様、いつも強く握りすぎるんだから」

(違うよ、蛍!いつもの握手とたぶん違うよ?!)


涼風の睨みに、姫魅はひとり身震いした。


「さて」と涼風は顔をあげた。

アルパカはつぶらな瞳で涼風を見つめたまま、くっちゃくっちゃと顎を横に動かしている。


「なんだ、この…入れ歯をなくした、ばーさんみたいな動きは…」

「お兄様。たぶんそれ、私のツクモ…」

「っ!??」


涼風が固まる。彼は目を伏せると、ふんっと鼻を鳴らした。


「さすが、蛍だ。王族にふさわしい澄んだ瞳のツクモだな」



「まさか、噂の王子がシスコンだったとは」


風鈴のように、涼やかで美しい声がした。


「誰だ?」


一同は屋根を仰ぎ見た。

そこには、姫魅に瓜二つの少年が、涼しい顔をして立っていた。

隣には、ポニーテールの少女が座っている。


慰鶴は、蛍を振り返った。


「あの時の…」


いつか街で出逢ったことがある。

涼風は剣を抜いた。


「なにもしないよ。ただ、勘違いで弟を殺されては困る」

「兄さん」

「久しぶりだね、姫魅」


少年は寂しそうに笑った。


「そういうことか」


涼風は少年に斬りかかったが、ガンッと鈍い音して、剣は見えない壁に弾き返された。


「へえ。魔法が使えないって噂、本当なんだ」

「……」

「血の気が多くて困るよ、王子さま。俺は宵狐、彼は姫魅。僕らは一卵性双生児だ」


「ソーセージ?」と慰鶴がよだれを拭う。


「ソーセージでも、なんでもいいよ。疑いが晴れたなら、俺は帰る」

「待って、兄さん!」

「姫魅、ごめん。いっしょにはいられないんだ」

「なんで?僕は兄さんといっしょがいいよ」

「俺もだ」


宵狐は急に、隣の少女を突き飛ばした。

足下に魔方陣が浮き上がると、宵狐の動きが鈍くなった。


「そばにいたいなら、そばにいればいい」


「ネルさん!?」

「遅いと思ったら…蛍ちゃん、合格おめでとう」

「合格?…あっ!」


補修のことなど、すっかり忘れていた。


「初めまして、宵狐くん。姫魅の保護者、カーネル・サンダースです」

「どうも。姫魅がお世話になってます」

「スピッツが街中で、悠長におしゃべりとは…甘いんじゃないか、宵狐くん?」

「なら、カーネルさん。あなたは甘過ぎる」


宵狐は深呼吸をして、ふっと体に力を込めた。

魔方陣は呆気なく、光を失った。


「はは、末恐ろしいね」

「それはどうも」

「おやおや」


イルカが現れるなり、宵狐に拍手を贈った。


「お見事ですね」



「イルカさん。感心してないで、手伝ってください」

「手伝いたいのは、山々ですが…」


通りの向こうで、赤い目の少年がぺこりとお辞儀をした。

腰まで編んだ黒髪が、龍の尾のように揺れる。


「やだ、かわいい!シャツ…いいえ、パーカーでも…萌え袖がいいわ…」と咲蘭が呟く。


「おいおい、なんて日だ!」とネルは頭を抱えた。


「彼は、僕と話がしたいだけでしょう。僕も彼と話がしたい。すぐに戻ります」


「イルカさん」


呼び止めたのは、宵狐だった。


「彼はガリヴァーノンの糸に囚われている。彼は話がしたいだけでも、話だけではすまないよ」

「糸?」

「うん、魔力の糸。彼がどれだけ巧みに目を盗んでも、ガリヴァーノンは糸を手繰ってすぐにやってくる」

「……」

今のように話ができるのは、スピッツ側に戦意がないからだ。

ガリヴァーノンが加われば、生徒4人を庇いながら戦うことになるだろう。

涼風を戦力に足しても、生徒を守り抜くのは難しい。


「やれやれです」

「忠告はしたよ。あとは、あなたが決めることだ」


宵狐は涼風に向き直った。


「状況が変わった。涼風、頼みがある」

「なんだ?」


涼風はうっかり返事をして、慌てて「呼び捨てにするな」と言い直した。


「誘拐されてくれないか?」

「あ?なに言ってん…」


宵狐が真剣な眼差しで、涼風をまっすぐに見つめる。

宵狐と蛍を交互に見て、涼風は頭を掻いた。


「蛍、すまん」

「お兄さま!?どうして?!」

蛍はハッとして、宵狐を睨みつけた。


「あなた、魔法を使ったわね?!」


宵狐は腹を抱えて笑った。

蛍は「なによ?」と口を尖らせると、恥ずかしさに赤面した。


「ごめん、ごめん。使ってないよ。魔法はなんでも思い通りにする力じゃない」

「っ!?わ、わかってるわよ!!」

「蛍、必ず迎えにくる。飯、食えよ」

「お兄さま…」

「ごめんね。大丈夫、借りたものは、必ず返す主義だから」

「この借りも、ちゃんと返せよ」

「ありがとう、涼風。その魔法、時間がないんだろう?すまない」


「そこまでお見通しかよ」と涼風はぼやいた。


「月香、君は愛華のそばにいろ」

「嫌よ。私も行くわ」

宵狐は静かに首を振った。


「姫魅が生きていると、ガリヴァーノンに知れたら…ううん、もう知れてしまっただろう。すぐに追手がやってきて、俺は裏切者として拘束される。今までのように、月香や姫魅を守ることができなくなる」

「私があなたを守るわ」


「ありがとう」と微笑む宵狐の目は優しい。


「涼風と俺がいっしょなら、スピッツは君達に手出しできない。涼風が俺を殺すのも、俺が涼風を殺すのも、スピッツは避けたいはずだからね」

「お互いが人質ってことね?」

「うん。月香には、頼みたいことがあるんだ。ずっと俺の手当てをしてきた君なら、俺の魔力を辿るのは容易だろ?」


月香はこくんっと頷いた。宵狐がふっと笑う。


「俺もわかるよ。月の光のように優しい、月香の魔力が。君には隙をみて、スピッツの情報を流してほしい。危険だが、君にしかできないんだ」

「わかった」


宵狐はぎゅっと月香を抱き寄せた。


「冷たくしてごめん。月香の優しさ、嬉しかったよ」

「私を守るためでしょう?ありがとう。どうか、ご無事で」

「ありがとう、月香。姫魅、またね」


「兄さん?!」

「涼風お兄さま?!」


風が吹いて、宵狐と涼風は姿を消した。

月香はきらきらと光をまとうと、どこかに消えてしまった。

「黙って抜けだして…いけない子ですねぇ。ふふ、お仕置きが足りないなあ…足りないなあ!?」


「っ!?」


少年の背中が割れて、ガリヴァーノンが這い出した。

脱け殻になった少年が、ドサッと崩れ落ちる。

吐き気から、咲蘭はその場にしゃがみこんだ。


「お久しぶりです、イルカさん」

「ガリヴァーノンさん」

「どうしたんです?怖い顔をして…ああ、これは人形ですから」


ガリヴァーノンは、脱け殻の頬をそっと撫でた。


「彼は死んではいないですよ。今頃、激痛に襲われているでしょうが」

「彼はどこに?」

「僕の部屋に飾ってますよ。お気に入りは、実用用、保存用、鑑賞用と用意する主義でしてね」


「チェンと同じこと言ってるが、チェンを越える変態だな」


カーネルは吐き捨てるように言った。


「チェンさんとは、変態のベクトルが違いますよ」


ガリヴァーノンはどこ吹く風と聞き流した。


「困ってたんですよ。イルカさんに出逢ってから、脱走癖がついてしまって…そうそう、彼からあなたに」

ガリヴァーノンは、1冊の古本を投げてよこした。

色の変わった表紙には「魔法学」の文字と、イルカの名前が手書きで記されている。


「忘れものを届けたくて、ずっと探していたようですよ?手書きの教科書でしょうか。随分と古いが、大事にされているようだ。誰かの形見ですか?」

「……」

「もう1度、会いたくないですか?」

「なにを…言っているのですか?」

「言葉通りですよ。その本に触れた瞬間、彼が意識を失いましてね。彼のツクモは、あなたに関わる誰かの記憶を持っているようだ…恐らく、形見の相手でしょう」


イルカは目を見開いた。

ガリヴァーノンは脱け殻を鷲掴みにすると、ポシェットからガラス瓶を取り出した。

瓶の中で、小さな龍が暴れている。


「大切な誰かさんそっくりな人形に、彼のツクモを入れたらいいんですよ。最愛のひとに再会できるなんて、あなたはなんて幸運なんだ!」

「ツクモを失って、彼はどうなるんです?」

「ツクモは入れるだけですから、死にはしませんよ。少しばかり、心を失うだけです」


「ひどい」と蛍は思わず、口から溢した。

「あなたには、使い古したごみ袋を破ったものに、おはよう靴下のコーデがお似合いよ」と咲蘭は乱暴に言った。


「ふふ、僕の靴下はすでに…」とガリヴァーノンが靴を脱ぐ。


「おはようですよ」

「っ?!!」


彼の靴下に大きな穴を見つけて、咲蘭は衝撃を受けると、そのままパタッと倒れた。


「僕にはできないです」とイルカが口ごもる。


「できますよ。人間は生まれながらにエゴイストだ。だから、自ら規律を作り、理想という枠に拘る。見知らぬ少年と大切な誰か、考えるまでもないでしょう?」

「…僕はエゴイストかもしれません。ただ、あの時よりずっと、広い世界を知り、深い経験を得ました。彼女のおかげで、愛を知ったんだ…お断りしますよ」


ガリヴァーノンの肩で、「グルッポーグルッポー」と鳩が鳴いた。


「あなたは彼の声が戻ることを望んでいたじゃないですか。あれは嘘だったのですか?」


「心から望んでいますよ。どんな声で泣き叫ぶのか…考えるだけで、心が躍ります」

「ガリヴァーノン…!」


イルカの声が、怒りで震える。


「あなたも僕のお気に入りだ。今日のところは、あなたに免じて帰りましょう。よい返事をお待ちしています」


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