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とある星物語 Returns   作者: さゆのすけ
25/35

第二十四歯 なんや、絆が深まっとる

――オオババの一件から、約1ヶ月後。


Hai!Caloryの店内には、エクレアの手料理が所狭しと並んでいた。


「わあ!おいしそう!」と慰鶴が目を輝かせる。

「おいしいわよぉ」とエクレアは笑った。


「定休日なのに…本当にいいんですか?」

「もちろんよ!みーんな、おばさんの家族だからね。お休みの日に、子供たちとパーティーをしたら、おかしいかい?」


エクレアの晴れ晴れした笑顔に、蛍は戸惑った。

一刻も早くツクモを探したい彼女は、エクレアが断るのを期待していたのだが。


気持ちが焦って、身勝手な考えが次々と浮かぶ。それらを振り払うように、蛍はぶんぶんと首を横に振った。


「ありがとうございます」


どこか煮え切らない蛍の笑顔に、「んん?」と慰鶴が顔を覗かせる。大きく膨らんだ頬は、まるでリスのようだ。

彼はもごもごと喋りながら、ぱちぱちとウィンクを繰り返しているが…なにを喋っているのか、まったく聞き取れない。


「なにやってんのよ」

「ほはふ、ふがっ、はひふほふはふ」


蛍の呆れ顔にめげることなく、慰鶴はウィンクを送り続ける。

必死の形相は、もはや目にゴミが入ったようにしか見えないのだが…頬張ったものを飲み込めば、済む話ではないのか?

彼の様子が可笑しくて、蛍はついに吹き出すと、声を出して笑った。


「なにがしたいのよ」

「へへへ」

「まったくだよ。なにやってんだい」


エクレアは腰に手を当て、やれやれとため息を吐いた。

慰鶴のつまみ食いに、彼女が本日5度目のげんこつを執行する。

食に対する慰鶴の執着は、筋金入りだ。


「そうそう」


エクレアは急に真剣な面持ちになると、口元に手を添え、声を潜めた。


「それで?どっちが本命なの?」

「っ!?ええっ??」


蛍がどぎまぎしていると、エクレアは「冗談よ、冗談」と笑った。


「茶化さないでください」


蛍は気持ちを落ちつかせようと深呼吸をした。

ふと姫魅と目があって、一旦は落ちついた心臓がドキドキする。


(なによ、蛍。ちょっとからかわれたくらいで)


意識しないように心がければ心がけるほど、目のやり場がわからなくなる。

彼の粉雪のような肌、烏羽色の髪。地底湖のように澄んだ瞳は、神秘的な青色が美しい。


(ううっ…私よりもち肌。そーよ、別にそーゆーのじゃないわ。美しいものを目にしたら、誰だってうっとりするものよ)


姫魅の流し目に溺れてしまいそうで、蛍は逃げるように目を逸らした。


「慰鶴くんから聞いたよ。蛍ちゃん、姫魅くんにぞっこんなんだって?」

「っ!?ぞっこん!?」

「違うのかい?」

「い…いえ、まあ…そーですけど」

「命短し、恋せよ乙女!おばさんも応援しているからね!」


―――慰鶴めっ!


姫魅の後ろで、慰鶴がにこにこと手を振っている。

蛍がキッと睨みつけると、彼はグッと親指を立てた。


(ちっがーう!違うでしょ!頼りになるし、イケメンだし、背は高いし…なのに!なんであんたは、そんなにアホなのよー!)


慰鶴はたまに驚くほど鋭いのだが、基本的に絶望するほど鈍い。

残念なイケメンとは、彼のことである。


(誰かさんにそっくり)


姫魅と慰鶴が顔を寄せあい、パーティーの段取りを確認している。

蛍はふたりに、幼い日の愛華と涼風を重ねた。


(そういえば、前にもこんなことがあったっけ?)


昔、楽しみにしていた誕生日パーティーが、父の仕事で中止になったことがあった。

泣きじゃくる蛍のために、兄達は手の空いた使用人をかき集め、間にあわせのパーティーを開いてくれた。

いつもより質素で贅沢なパーティーは、特別に楽しかった覚えがある。


(…会いたい)


「ほったる♪お待たせ!」


蛍が顔をあげると、赤いタキシード姿の慰鶴がにっこり笑っていた。

彼は丁寧にお辞儀をして、蛍に座るよう促した。

「さあさあ」とエクレアがコップを手渡す。

蛍の頭にパーティー帽を乗せて、ふたりは少し離れところに座った。


「あの…」


エクレアが「しーっ!」と人差し指を立てる。

ふたりの視線を追うと、青いタキシード姿の姫魅がぎごちない足取りで歩いてきた。


「えっと…蛍、とある国へようこそ」


姫魅がボソボソと挨拶をすると、慰鶴が口笛を吹いて盛り上げる。


「うんうん!ようこそ、蛍!そして、これからよろしく!ご縁に感謝して、カンパーイッ!」


沈黙が流れ、慰鶴が「あれ?」と固まる。


「それは、姫魅くんのセリフじゃないかい?」

「あれれ??」

「慰鶴、乾杯はまだ早いよ」

「あれれれ…」

「姫魅と打ちあわせしてたんじゃないの?」

「ごめん、蛍と出逢えたことが嬉しくて。じっとしていられなかった!」


慰鶴は決まりが悪そうに笑った。

「ばっ!ばっかじゃないの!?」と蛍が照れる。

場が温かい笑いに包まれると、姫魅は「それじゃあ、気を取り直して」と咳払いをした。

彼は大きく息を吸うと、表情を一変させた。


―――それは心を震わせる、透き通った歌声だった。


☆ ☆ ☆


店を出る頃には、すっかり日が暮れていた。


「今日はありがとう。あんなに笑ったの、久しぶりだわ。ツクモ探しなんて、途中からすっかり忘れてた」

蛍は思いだして、くすくすと笑った。


「時間がないのに、つきあわせてごめん」

「なんで姫魅が謝るのよ。謝るべきは慰鶴でしょ」

「俺?!」


口に放り込んだサンドイッチを飲み込んで、慰鶴はゲホゲホとむせた。


「当然よ。主役を差し置いて、つまみ食いしてるんだから」

「あはは。ごめんごめん」


慰鶴の眉がハの字に垂れて、なんとも情けない顔になる。


「姫魅。ツクモって、心なんでしょう?」

「うん」

「パーティーをして、気がついたの。私、焦りや不安でいっぱいになって、心を見失っていたわ。ツクモを探したとして、きっと見つけられなかったと思う」


姫魅は静かに微笑んだ。


「大丈夫。明日はきっと、ツクモに出逢えるよ」

「ええ。ありがとう」


先頭を歩いていた慰鶴が、踵を軸にくるっと振り返る。


「蛍は楊さんのとこだっけ?」

「ええ」

「送ろっか?」

「ううん、大丈夫。ありがとう」


今夜はきっと、人恋しくなる。厚意に甘えてしまえば、離れるのがつらくなるだろう。

それに、楊の屋敷はそう遠くないし、あの街には夜がない。


「慰鶴は蛍のこと、よく知っているんだね」

「なに?妬いてるの?」


にやにやする蛍に、姫魅は「妬いてない」と語気を強くした。


「家族が維持軍の関係者だから、蛍の話も耳に入るんだ」

「関係者というか…あなたのお祖父様、創設者なんでしょう?」

「そっか。蛍はじーちゃんに会ったんだっけ」

「ええ?!お祖父さん、ジョニーさんなの?!」


姫魅が呆気にとられる。慰鶴は「んーまあ」と言葉を濁した。


「血の繋がりはないで。なあ、慰鶴」


中折れ帽に短パン姿の少年が、八重歯を覗かせて笑っている。

彼は背の高い少女と、ツインテールの女の子を連れていた。


「関係ないよ」


慰鶴はぎこちなく笑い返した。


「感じ悪っ!誰よ?」

「いとこのエルモだよ」

「ほんま、慰鶴はつれへんなあ」


たれ目で短髪の慰鶴に対して、エルモはつり目で長髪だ。

前髪をきっちり真ん中でわけて、顎下のラインで切り揃えた髪はワックスで動きをつけている。


彼は「もっとあるやろ」と不満げに言って、帽子を脱いだ。


「初めまして、俺はエルモ。アパレルブランドBe-L.MOの後継者で、祖父ジョニーの後継者候補や。叔父が養子をとってからは、後継者候補というより、ストックみたいな扱いやねんけどな」


エルモが自嘲する。


「ツクモ探しってことは、魔法学校に入学するんやろ?俺、赤酉隊に所属しとるさかい、困ったことがあれば気軽に言うてな。手え貸したるで」


蛍が握手に応じないでいると、エルモは「ほら、慰鶴。嫌われてしもたやんけ」と苦笑いを浮かべた。


「おまえらも挨拶しとき」

「はーい!みんなのアイドル、パエリアだよ☆」


揺れるツインテールに冷めた視線が集まる。

パエリアは動じることなく、「おい、ドン引きするな☆」と強かに笑顔を崩さない。


「私は咲蘭。パエリアといっしょに、Be-L.MOの専属モデルをやっているわ。私達も赤酉隊に所属しているの。仲良くしましょう」


咲蘭の大人びた雰囲気に、蛍は思わず会釈した。

「ポッキントンはどこや?」とエルモがきょろきょろ辺りを見渡す。


「恥ずかしくて、隠れてるんじゃないかしら?」

「またかいな」


エルモはやれやれと帽子をかぶり直した。


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