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とある星物語 Returns   作者: さゆのすけ
19/35

第十八歯 姫魅のワンマンライブ

沈黙が流れる。


ふいに入れ歯の像がギリギリと音を立てて、下顎を左右に往復させる。

歯軋りが午前10時を知らせると、3人は顔を見あわせて、大きくため息をついた。


「絶望的」

「んー?まあ、なんとかなるなる♪だいじょーぶ、だいじょーぶ♪」

「あんたが言うか」


蛍のハリセンが、慰鶴のお気楽な頭をバシッと叩く。


「生きていれば、なんとかなるさ。なあ、姫魅?」

「ええ?!僕?!僕は…」

「もう!頼りないわね」

「ご、ごめん」


再び沈黙。

姫魅が恐る恐る口を開く。


「蛍はツクモを知らなくて、慰鶴はツクモが見えないんだよね?」

「ええ、さっぱり」

「メガネをかけたらみえるかな?」


「メガネでは…あ、待って…」とぶつぶつ呟きながら、姫魅がシャツの第2ボタンを千切る。

ぎゅっと握った拳を再び開くと、ボタンはイヤーカフに変わっていた。


「慰鶴、つけてみて」

「んー?んんおお!??」


慰鶴がたれ目を大きく見開く。


「姫魅!肩に真っ白なカラスが乗ってるぞ?!」

「僕のツクモだよ」

「そっか!そいつがツクモか!初めまして、だな!」


慰鶴がにっと笑う。

カラスはバサバサと羽ばたいて応えた。


「姫魅、なにをしたの?」


蛍がきょとんとする。


「僕の魔力が、慰鶴に流れるようにしたんだ。人と人が出逢うと、必ず繋がりができる。カフで慰鶴との繋がりを強くして、魔力の通り道を作ったんだよ」


慰鶴の耳から、もくもくと煙があがる。


「魔力のおすそわけね」

「へえ!すごいなあ、姫魅!」

「そんなことないよ」

「あるある!そんなことある!なあ、蛍」

「え、ええ。そうね。やるじゃない、姫魅」


姫魅は「ありがとう」と呟いて、赤くなった顔を伏せた。


「無くさないように気をつけて。学校の外では、僕は魔法を使えないから」

「え?使っていたじゃない」

「あれは必死だったから…ネルとの約束で、本当はダメなんだ」


姫魅が苦笑する。

「ごめんなさい」と謝る蛍に、姫魅はぶんぶんと首を横に振った。


「ううん、気にしないで!使わなかったら、きっと後悔してた」

「ありがとう。あなた、案外無茶するのね」

「ネルには、おまえといると禿げるって言われるよ。あ、ネルは僕の…」


校庭の隅で羽を休めていた小鳥たちが、落ちつきなく枝を揺らす。


(姫魅、話を盛りすぎだ!白髪だ、白髪!)

(まあまあ、ネルさん。落ちついて)

(どっちでもええが)

(静かにしてください。態々、鳥に化けた意味がなくなります)


「ありがとな、姫魅!」


慰鶴にわしゃわしゃと撫でられて、姫魅の頭が鳥の巣のようになる。

そこに姫魅のツクモがピョンッと飛び乗ると、3人は声を出して笑った。


「ねえ。それを使えば、魔法が使えるようになるのかしら?」

「蛍はもう、魔法を使っているよ?」

「うそっ?!」


驚く蛍に、姫魅がくすっと笑う。


「ハリセン」

「は?」

「さっきのハリセン。蛍のツッコミたい衝動が、ハリセンになったんだよ」

「はあ?!」


蛍が言葉を失う。


「知らないで使ってたの?」

「知っていたら、もっと絵になる魔法を使うわよ!初めての魔法がツッコミだなんて…ダサい」

「そんなに強い想いで、蛍はツッコミを…そっか、うん!俺も全力でボケるよ!」

「ボケなくてよろしい!」

蛍のハリセンが、スパーンッと音を鳴らす。


「もしかしたら、慰鶴を助けたときも…蛍は繋がりを辿って、僕を呼んだのかもしれない」

「そんなこと、できるの?」

「わからない。そういう魔法はあるけど…魔力がよっぽど強いか、絆が強くないと難しいんだ。1度会っただけでは…」

「それなら、姫魅がどうしても会いたくて、蛍を見つけだしたのかもな!」

「いっ?!慰鶴!!?」

「な、なに言ってんのよ!?」

「え?違うの?」

「偶然よ、偶然!」

「そうだね。少し考えすぎたかも」


姫魅がコホンッと咳払いをする。


「心配しなくても、蛍には魔法のセンスがあると思う」

「入学試験には落ちたわ」

「うーん…なんでだろう」


姫魅と蛍が難しい顔をしていると、慰鶴は「だいじょーぶ♪」とふたりの肩を引寄せた。


「ツクモを見つけたら、入学できるんだろ?今度はひとりじゃない。俺たちが絶対、合格させてやるよ!」


呆気にとられる蛍に、姫魅が「そうだね!」と笑いかける。

蛍は少し戸惑いながら、「ありがとう」と微笑み返した。


「そういえば、慰鶴はどうして魔法学校に?ツクモが見えないってことは、魔力が…」

「あー…うん、まあ…」

「魔力がないのに、魔法が使えるようになるの?」


蛍が首をかしげる。

慰鶴はそわそわと落ちつきがない。


「わからないけど…魔法学校に入学できるなら、魔力はあるはず。もしかして、慰鶴は魔力に蓋をしているのかも」

「んー…蓋かあ」


慰鶴が空を仰ぎ見る。

蛍は時々、彼がなにを考えているのかわからなくなった。

「蛍の魔力は、鋭くなりすぎているのかも。慰鶴の魔力は、なにかが鈍らせているんじゃないかな?もしかしたら、ツクモを探す手がかりになるかも」


3人の背後で、小鳥たちがピヨピヨと騒ぎだす。


(さすが姫魅!はなまる満点だ!)

(おやおや。ネルさん、落ちついてください)

(ネルは親バカだけえのお)

(審査には、私情を持ち込まないように願います)


「それが手がかり?ますますツクモが何かわからないわ」

「ツクモはエネルギーの塊、かな。みんな、生まれたときから持っているし、風や太陽のようなエネルギーにもツクモは存在する。感じとる力、つまり魔力があれば、見えるってだけ」

「魔力の状態によっては、見えないこともあるのね?」

「そういうこと。蛍は魔力が鋭くなりすぎて、たくさんの刺激から自分のツクモを見つけだせない状態。慰鶴は感覚が鈍って、ツクモがまったく見えない状態なんだと思う」

「んん?ええっと…ああー…」


慰鶴がボンッと爆発して、穴という穴から煙が漏れる。


「私は物が多すぎて、探し物が見つからないのよ。慰鶴は、排水溝が詰まってる感じかしら?」


姫魅のツクモに、蛍が優しく触れる。


「不思議。くちばしの先まで温かい」

「姫魅は優しいからな!」


ツクモはくすぐったそうに首を振った。


「慰鶴や蛍のような人は多いんだ。そういう人は、手っ取り早く、そこら辺のツクモと契約してしまうけど…ツクモには、心の状態を把握して、魔法の暴走を防ぐ意味もあるんだ。欲望に染まった街のツクモや、感情に影響されやすい野生のツクモと契約すると、魔法に呑まれてしまうこともあるんだよ」

「魔法に呑まれる?」

「魔法の制御が効かないというか…」


「人じゃなくなる」と言い放つ慰鶴は、どこか冷たい。


「だから、名の知れた魔法使いは、自分のツクモを連れているんだ」

「そんなの、どこを探せばいいのよ?」

「探さなくていいんよ。蛍の中にいるんだ」


「もう、訳がわからない」と蛍はうなだれた。


「それより、蛍の歓迎会をしない?」

「わあ!いいね、賛成♪」

「はあ?3日しかないのよ?歓迎会なんて…」

「ひとつのことをずっと考えるより、ぱあっと気分転換したほうが見えてくるものもあるよ。大丈夫、僕を信じて」

「信じるもなにも…」


不安と焦りに押し潰されてしまいそうだ。

一刻も早く、魔法を手にして、私は兄達を助けなければならないのだ。


しかし蛍は今、お気楽に盛りあがる彼らを頼るしかなかった。

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