第十六歯 シュールな組織
「兄を追い続けているほうが、幸せかもしれないな」
サンの手のひらで、ゆらゆらと炎が燃えている。
炎の中でもがく蛍に、サンはぽつりと呟いた。
「どうする、ジョニー?」
メロウは顎を撫でながら、ジョニーに問いかけた。
「うむ、エクセレント!!カカカッ!魔力に限っては文句なしの合格だよ!!」
イナバウアーのように上体を反らせて、ジョニーはひとりひとりの顔を覗き込んだ。
「ヘイヘイヘイ!ユー達はどう思う?」
ジョニーに針金のような手(目を凝らすと人指し指が向けられているのがわかる)で指されて、「んだー…」とチャコは頭を掻いた。
「魔力はすんばらしぃが、不安定過ぎる。手に余る魔力は危険だけえ。合格は見送るべきだと思うのぉ」
「慰鶴君とは真逆ですね」とイルカが苦笑する。
「魔法は使えないけど、タフだからね、彼は。偽ることをやめれば、魔法の可能性は大いにあるけど」
ぷにゃは「もったいない」とため息を吐いた。
「ふふ、蛍ちゃんなら大丈夫よん」
「根拠は?」とナギが問うと、楊はにっこりと微笑んだ。
「女の勘かしらん?」
「楊さん、事実でない根拠は根拠ではありません」
「あらん、厳しいわねえ」
「でもでも!楊さんの勘はすごい当たるんだよ?楊さんにもらったアイスは、いつも当たり棒なんだ!」
無邪気にはしゃぐメイトを、「関係ないです」とナギが一蹴する。
「今の彼女は、まるで自分に言い聞かせるように、影の言葉を否定しています。現状では、いつ闇に呑まれてもおかしくありません。もものけ蛍の合格に、私は反対します」
ナギが淡々と告げると、イルカが「まあまあ」と宥める。
「合格の条件として、慰鶴君といっしょに補習を受けて頂くのはいかがです?」
「へえ、おもしろそう」と目を輝かせるイチを、サンが「遊びじゃない」と一喝する。
「ふむ!お互いに学びあえば、きっと力になるだろう。我輩はイルカくんの案に賛成だ。諸君はいかがかね?」
ジャックが髭をひくひくと動かす。
「すみません。補習に姫魅を加えて頂けませんか?」
カーネルの言葉に、チェンが「はて?」と首をかしげる。
「彼には、補習の必要性を感じないが?」
「魔法に問題はないのですが…」
カーネルは頭を抱えて、深くため息を吐いた。
「難しいお年頃ですものねえ」と楊が微笑む。
「ええ、まあ」とカーネルは苦笑いを浮かべた。
「同じ年頃だからこそ、素直に学べることがあるでしょう」
「オーケー!!エブリバデイ!」とジョニーが指を鳴らす。
遮るように「うっす!」と拳を握り、浦島が立ち上がった。
「決まりっすね!3人での補習を条件に、蛍ちゃんの合格を認めるっすよ!」
盛上がる広間の隅で、ジョニーは「僕のセリフが…」と静かに膝をついた。
☆ ☆ ☆
おまるに足を通した熊が、冷たい目を光らせる。
「ハーイ!SPITZ、おまる会議のお時間だよ!」
プーが華麗に4回転ジャンプを決める。
「ゴールデントリガーは遅れるみたいだから、先に始めちゃうよ!エビバディ、セイ!青春系プー!」
「いいんじゃない?」
プーのかけ声に続いて、痩せこけた男が弱々しく声を張る。
両目には痛々しく包帯が巻かれ、髪はボサボサだ。
彼の小枝のような肩で、ふてぶてしい顔をした鳩が、食べかすを撒き散らしながら、バリバリと豆を食べていた。
すぐ隣で、褐色肌の青年が膝を抱えている。
避けるように俯いたままの彼に、表情はない。
真っ赤な瞳を隠すように、彼は深く被ったフードをさらにぎゅっと引き下げた。
鳩がフードをくわえて、ぐぐぐっと引っ張りあげようとする。
先程から繰り返されている鳩と青年の静かなる攻防は、かれこれ30分続いていた。
「とりあえず」
愛華が囁くように続ける。
愛華の隣に、月光のように艶やかな髪の少女が静座している。
少し離れて、黒髪の少年が青い目を伏せ、壁にもたれかかっていた。
「全員集合!」
日に焼けた、赤髪の少年が声を張りあげると、4人は華麗にポーズを決めた。
プーが満足げに頷くのを確認すると、それぞれ黙々と席に戻った。
「ゴールデントリガーは最近、欠席が多いよな。スタンプ、貯まらないぜ?」
「集めているのはお前だけだ。ディゴ・ノハナ」
愛華に名前を呼ばれて、赤髪の少年が首からさげた厚紙を掲げる。
「まじっ?!集めてないのかよ?!スタンプが貯まると、オリジナル鳩時計が貰えるんだぜ?」
『おまるが飛び出る鳩時計』のイラストを愛華が一瞥する。
「興味がない」
「そういえば…今日はまだ、スタンプを押していませんでしたね」
「おいおい?ガリヴァーノンさん、頼むぜ?あと3つで、鳩時計ゲットなんだからな!」
痩せこけた男は「はいはい」と笑って、厚紙に鳩のスタンプを押した。
「よっしゃ!」
「ディゴくん、がんう゛ぁりますね」
「あったぼうよ!俺はどんなことだろうと、自分で決めたことは、ぜってぇ投げださねえって決めてんだ」
ディゴは得意気に鼻を鳴らした。
「愛華さん。街中で強大な魔力が感知されたようですよ?宵狐君の魔力に酷似していたようですが…」
ガリヴァーノンに顔を向けられて、黒髪の少年が息を呑む。
「カラス族の生き残り、という可能性がありますから…すぐに調査すべきでしょう」
愛華は宵狐の胸ぐらを掴むと、床に叩きつけた。
ケホッケホッとむせる宵狐に、少女が駆け寄る。
「宵狐さん、お怪我は」
「ない。月香、戻れ」
月香が手を差しのべると、宵狐は「触るな」と払い除けた。
「宵狐。隊長不在区域とはいえ、平和維持軍の巣で派手な行動は慎めと伝えたはずだが?」
「愛華、ケンカなら外でやれよ?」とディゴが眉をひそめる。
「監督不行き届きですか。お互い、部下の管理には苦労しますね」
ガリヴァーノンにそっと触れられて、褐色肌の青年がビクッと肩を震わせる。
「念のため、調査はすべきかと思いますが」
「必要ない。カラス族は宵狐の他に、存在しない」
「滅ぼした本人が言うのですから、そうなのでしょうね…なにかの間違いがなければ、ですが」
愛華は表情を変えないまま、ガリヴァーノンはにこにこと微笑んだまま、部屋に不穏な空気が流れる。
沈黙を破ったのは、プーだった。
「ハッハー!ガリヴァーノン!もしカラス族の生き残りだとすれば、回収したいところだが…愛華は、宵狐の魔法だと言っているじゃあないか。それに今は、平和維持軍の隊長が欠けている大チャンスだ!狙い目!逃せないサービスタイム、タイムサービス!今は、計画が最優先さ!」
「ええ、存じております。すべてはプー様の御心のままに」
ガリヴァーノンが何かを摘まむようにして、両手をくちばしの形にする。
右手を口元に、左手をおしりに添えて、まるでアヒルのようなポーズになると、彼はそのまま跪いた。
愛華は、姫魅の魔法だと知っています。
宵狐を支配するための人質である、姫魅の存在がばれてはいけないので…演じている。
宵狐も耐えている。
月を眺めていたら、冷たくされながらも宵狐を気遣う月香が書きたくなりまして。
ホント、好きだわ。月香を守ろうとしているが故の冷たさというのが、これまた好きだわ。
計画ってなんだろう?
平和維持軍か、蛍か、慰鶴に関わる何かですかね?
計画ってなんなんだ?