表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある星物語 Returns   作者: さゆのすけ
16/35

第十五歯 ボイコット

「蛍か」


扉の向こうから、愛華の声がした。

涼風の部屋でこんな遅くに、仕事の話でもしていたのだろうか?


王位継承の儀を前に、近頃の愛華は多忙を極めていた。

愛華、涼風、蛍の3人が揃うのは、いつ以来だろう。

蛍は嬉しくなって、扉の向こうに呼びかけた。


「愛華兄さ―」


蛍の声をかき消すようにバリバリと音を立て、扉から刃が突き出る。

蛍は足を滑らせ、尻餅をついた。冷たく光る切っ先が、鼻先を掠める。

床に手をつくと、ぬるっとした感触がした。

扉が外れて、明かりが廊下を照らすと、床一面が赤黒く染まっていた。


「血…?愛華兄さま、お怪我は…」


蛍を冷たく見下ろしたまま、愛華は答えない。

彼が手にしている剣は、王位と共に受け継がれるガルディ王家の家宝だ。


ひゅーひゅーと苦しげな音に気づいて、蛍は愛華の後ろに目を向けた。

彼の足元に、血まみれの涼風が倒れている。


「愛華兄さま、涼風兄さまが!」

「ああ、虫の息だ」


「早く手当てを…!」と駆け寄る蛍に、愛華が剣先を向ける。

彼は左手で顔を覆い、「あっはははは!!!」と高笑いを闇の向こうにまで響かせた。


「いいんだ。いいんだ、蛍。俺がやったんだ」


茫然とする蛍に、愛華は目尻の涙を指先で拭い、にこにこと微笑んでいる。


「愛華兄さま?なにを仰っているの…?」

「…逃げ…ろ」

「涼風兄さま?!」

「蛍、逃げろ…!」


涼風が叫ぶのと同時に、蛍に剣が降りおろされる。

蛍は咄嗟に身を固くして、ぎゅっと目を閉じた。


「蛍、怪我はないか?」


ゆっくり目を開けると、涼風が血の気のない顔で、蛍を覗きこんでいた。


「まだ動けるか」

「頑丈さだけが、取り柄だからな」


吐き捨てる愛華に、涼風が息絶え絶えに答える。


「バカ兄貴が…」と呟いて、涼風は咳き込んだ。

彼の大きな手から零れた血が、蛍の服を赤く染める。


「悪いな。それ、愛華に選んでもらった服だろう?」「いいの」


蛍はちぎれんばかりに、首をぶんぶんと横に振った。


「だから、もうお話にならないで」


涼風の背中には、愛華の剣が突き刺さっていた。

剣を引き抜こうと愛華が手に力を込めるが、剣はぴくりとも動かない。


「筋肉で抑えているのか」

「ははっ…兄貴にはできねえだろ?」


いつもはぶっきらぼうな涼風が、蛍に優しく微笑む。


「蛍」

「はい」


彼の息遣いまで聞き逃すまいと、蛍は気を引き締めた。


「なにが起きているのか、俺にはわからない。確かに言えるのは、愛華は…兄貴はどんなことがあろうと、誰かを傷つけるようなことはしないってことだ」

「はい」


蛍が大きく頷くと、涼風はホッとした様子でふっと笑った。


「いい子だ」


蛍の頭をぐしゃぐしゃに撫で回して、涼風が「うっ!」と痛みに顔を歪める。


「兄さま…!」

「蛍、また3人で笑える日が必ず来る。だから、今は走れ」

「ダメ!お兄さまを置いてはいけない」

「蛍、俺が嘘を言ったことがあるか?」

「いいえ…涼風兄さま、嘘を吐けないんですもの」


「そうだな」と涼風が笑うと、蛍もつられて笑った。

「大丈夫だ。俺を信じて…愛華を信じて…走れ、蛍」

「でも」

「行け!」


涼風が怒鳴る。

蛍は駆け出すと、暗闇を無我夢中で走った。



涼風の叫びも、愛華の高笑いも、いつの間にか聞こえなくなっていた。

それでも蛍は、涙を拭うのも忘れて走り続けた。


ゴンッ


ふいに何かに躓いて、蛍は派手に転んだ。

すぐに起きあがる彼女の足を何かが掴む。


『…クルシイ』

「誰!?」

『クルシイ…ホタル…イタイ…イタイヨ…』


真っ黒な地面がぼこぼこと盛りあがり、次々と黒い人形が這い出してくる。


「やめて!離して!」

『…ミステタ…ミステラレタ…』

『ホタル…ナニモデキナイ…デキナイ…ニゲタ…』

「私は―」


ボタッと鈍い音をたて、天井から人形が落ちてくる。

蛍の目前で、歯のない真っ赤な口が訴える。


『…ホタル…ハ…タスケラレナイ』

『ニゲタ…ニゲタ…?』


「私は逃げない」


人形の重みで、蛍の体は少しずつ床に沈んでいく。


「嫌!離して!」

『ホタル…アキラメル…ホタル…ナニモデキナイ…』

「私は確かに無力よ。それでも、お兄さまを助けるまで諦めないわ!」

『デキナイ…デキナイ…タスケラレナイ…』


人形を振り払い、蛍は大きく息を吸い込んだ。


「お兄さまは私を信じている!私もお兄さまを信じているもの!」


「諦めて―」と言いかけて、蛍は目を伏せると深呼吸をした。

キッと人形を睨みつける。


「諦めてたまるかあああああ!」

涙は書く予定が無かったのですが、なんとなく書かなければと思ったのです。


愛華の魔法だろうか?

愛華の涙は、笑い泣きだったのでしょうか。



さて、合否結果待ちです。

受験以来のドキドキ笑


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ