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とある星物語 Returns   作者: さゆのすけ
15/35

第十四歯 理系なもので

「魔法とは何かわかるかね?」

「きゃ!」

ジョニーが急に顔を近づけたので

蛍は小さな声をあげて身をこわばらせた。

......歯がでかい。異常にでかい。

そのわりに、棒のような手足はクネクネと動き

フィギュアスケーターのように俊敏だ。


「魔法とはすなわちエネルギー。

エネルギーとはすなわち、 歯動(はどう)なの だよ。 わかるかい、蛍ちゃん!」

と、ジョニーはトリプルアクセルを決める。


「は.....波動??」

「そう、歯動!」

ジョニーの歯がカカカッと小気味良い音をたてる。


「エネルギーとは歯動、すなわち世界の振動。

心の震えであり魂の震えさぁあ!」


蛍の周りをクルクルまわり続けるジョニー。

困惑する蛍に、涼やかな目元の黒午隊長、ナギがフォローをいれた。


「人は普通、直接触れないと物質にエネルギーを伝え動かしたり変形させたりすることができませんね。

しかし私たちは肉体に頼らずとも

精神が発するエネルギーを、対象に届けることができるのです。

私たちは人間が発する「波動」を理論的に体系化し、増幅し、操る術を編み出しました。

そもそも我々の存在がエネルギーそのものであり、肉体はそれを収める箱に過ぎないのです。

JJジョニーが提唱した魔法学とは、物理学と対照にある新しい科学、と呼んで良いでしょう」


急に始まった難解な講義に、蛍の眉間にしわがよる。

「えっと......それはつまり......」


「つまり、気合いっすよ、気合い!

魔力が使える人間は、気合いがでかいんす!」

額に桃のマークがついたハチマキをぎゅっとまき直しながら、銀戌隊の隊長が吠えた。

「気合いがあるやつが、魔法つかいなんす!」


「こ、心が強いってことですか?」


「逆さ。とんでもなくやっかいなまでに繊細で豆腐メンタルな奴らだよ。ああ、めんどうだね」

今度は白衣を着た眼鏡の男、チェンがため息まじりに答える。


「お前から"繊細"なんて言葉が出るなんてな。センチメンタルから一番遠いサディストが。あはは」

姫魅の後見人というカーネルが、チェンを指差し笑う。

笑うと目じりが下がり、意外と子供っぽい..... こんなときだというのに、蛍は胸が高鳴るのを感じる。


「もうひとぉつ!」

「わ!」

カーネルに見とれる蛍の前に、再度大きな歯が.....ではなかった、校長ジョニーが現れた。


「その、君のハートが発する"歯動"が、

もっとも大きく、早く伝わるとき

それを何と呼ぶかわかるかい?」

「え....最も速いものって.....

光?」

「ノォォオオン!ノンノン!」

ジョニーが両腕を振り上げ、×マークを作る。


「音よりも光よりも速いものが、この世にはあるのだよ、蛍ちゃん!」

「そ、そうなんですか?」


ジョニーがパチリ、と指をならすと

急に辺り一面が暗くなり、宇宙空間ののような群青色の闇に包まれた。

どこからか金色の月が現れ

スポットライトのように 蛍とジョニーを照らしている。


「それはね、愛さ!

ラブだよ、ランヴ!」

「え.......」


いつの間にかジョニーはタキシードに

蛍は美しいドレスに変わっている。

さりげなくムーディーなBGMが流れ始めると


ジョニーはチークダンスを踊るように

蛍の腰を引き寄せ、囁いた。

案外、とてもいい声だった。


「愛という名のエネルギーはね君.....

何よりも速く、誰も逃さない。

だから誰もそいつを見ることができない、しかしそこに在ることは知っている。


人より愛に敏感で、愛する力が強いやつこそ、

"魔法つかい"なんだよぉ、マドモワゼール」


ジョニーの棒のように細い手(いや、むしろそれは手のような棒である)に優しく促され、

蛍もステップを踏む。

その たびに、

星屑が舞うように足元がキラキラと輝く。


「愛する力......」


「そう。

そして愛の強さがすなわち、魔力のつよさなんだよ。

今から君には、 どれだけ強いランヴをもっているか、試験させてもらう」


「そんな!」

蛍は叫んだ。


「私、愛なんて、わからないわ......

恋人もいないし、結婚もしていないし、そんな幸せな感情、ひとつも持ち合わせていない」


すると急に頭上から月が消え、体が下へ下へと引きずり落とされる感覚に襲われた。


「きゃあ!」


落ちる......!!

なすすべなく目をつぶると、横から伸びたらがっしりした腕に引き寄せられ、

抱き止められたまま床に叩きつけられたような衝撃がずしん!と伝わった。


「大丈夫?」

おそるおそる瞼を開けると、そこにいたのはプニャだった。

よしよし、と蛍の頭をなでている。

魔法がとけたのか、見渡すとそこは先程と同じ部屋だ。


「ごめんなさい、私......

試験失格.....?」

蛍は狼狽えていった。

「私、愛なんて分からなくて.....」


「あははは!そんなことは心配無用だ。

愛ってのはな、そんなちんけなものじゃあない」


ジョニーの右隣、大きな椅子に座っていたサンが立ち上がり、白い尻尾を揺らせながら近づいてくる。


「人を愛する感情な究極の欲望だ。

この世の地獄の心の底の底でしか、出会えない。そうだろ?」


視界の端で金猿が ニヤリと笑う。

しかしそちらを見やる余裕もない。サンの顔は今や息のかかる距離にあった。


「いっそ殺してくれと叫んでも届かない孤独の境地で

地を這って誰かを求めたことがあるかい」


「ちょっとサン、怖がらせすぎ―」

メイトがペロペロキャンディをなめながら、たしなめる。


サンは犬耳をピンとそばだて鼻をならすと、蛍の顎を引き寄せていった。


「波動とはすなわち心の叫びだよ、

闇の深さが魔力のでかさだ。


さあ

あんたの魔力を見せてもらおう」


サンの形のいい唇が、蛍の額に触れる。

その瞬間――――――――――


「グッド・ラック!」


遠くでジョニーの声が聞こえたかと思うと同時に


蛍は気を失った。


=============


キィィイ......


風に揺られ、ドアがきしむ音がする。


蛍は真っ黒な廊下で、見覚えのある大きな扉の前に立っている。


扉からかすかに漏れる光の先には

懐かしい部屋がある。


コツコツ

ポタポタ.........


誰かがいる.....?

雫が垂れる音のような.......


蛍はその扉に手をかけて

部屋をのぞいた。


「涼風兄さま.......?」

ファン待望の例のシーンまで五秒前

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