プロローグ
「おかえりなさい」
パタパタと羽をはばたかせるように、蛍は軽い足取りで玄関の扉を開けた。
水色の髪が、揺れる。碧色の瞳に、光が戻る。
群青色の影を纏った王子様が帰って来たのだ。心が弾まないわけがない。
毎晩繰り返すこの時間が、蛍はたまらなく好きだった。
外では、強い風が唸っている。
姫魅は深くかぶっていたフードを抑えながら顔を上げた。
「ただいま」
「おかえり」
蛍がもう1度笑う。
早く入って、寒いでしょう。
蛍に手を引かれ、姫魅は黄昏色の灯が籠る部屋の中にはいった。
「今日はどうだった?」
「いつも通り」
「いつも通り、授業をして、見回りをして?」
「うん」
「街はどうだった?」
「平和になったさ」
姫魅が細く骨ばった指をくるりと回すと、天井からぶらさがるシャンデリアの色が
仄かに明るい桜色へ変わった。もう一度指を回すと、机上のレコードが回りだして優しい音楽が流れ始める。
今日の屋内授業で、生徒に教えた魔法だ。
「そうだね、随分平和になったね」
蛍は、ピアノの音色に耳を傾けながらクククと笑う。
「街も変わった。貴方も私も、変わったね」
それが嬉しいの。
声にならない想いに応えるように、姫魅は手を伸ばす。
後ろから抱きしめると、蛍の髪に唇を当てて目を閉じた。
愛しい匂いがする。
回された腕に手を添えると、蛍も目を閉じた。
「貴方に会えて、良かった」
「それ、昨日も聞いた」
「昨日も言ったもの。明日も言うわ」
「蛍、ネルに似てきたね」
「あら、それはつまり貴方に似たのよ」
蛍は頭一つ高い姫魅の顔を見ようと身を捩る。
二人の身長差は、この数年で随分と大きくなった。
姫魅は、蛍の耳元で「昔から、そんなに素直だったら良かったのに」と呟く。
「それは貴方もでしょう」
「僕は昔から素直だよ」
「どこが」
二人は、身体を寄せ合ったまま笑った。
応えるように、風が木彫りの窓枠をガタガタ揺らす。
それは、かつての恩師を思わせた。大きな白い歯を、カラカラ鳴らす人だった。
「あの日も、こんな夜だったね」
「あの日?」
「君と出会った日だよ」
黒い窓にぼんやり映る二人の姿を見ながら、
姫魅は10年前はまだ少女だった妻の顔を思い起こした―。
【さのすけ→ゆのすけ】
とりあえず、諸々終わって落ち着いてから数年後…とかの状態。
出会ったのが15、16とかにすると、そこから10年…的な。
次の1話から、出会いにすればいいかなとか。今さら出会いから始めなくてもいいんだけど。笑
にしても、しょっぱなからノロケで
「ハイハイおまえら」って感じ。
…こんなにラブラブにするつもりなかったんだけど、勝手に暴走した~~
と、いうことで
こちらもサプライズ(?)プレゼントでした。