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第二の世界

 魔王と名乗るシルエ。見た目幼女。その彼女から話を聞くところ。この世界の名はゲネスと言うらしい。

 ゲネスに住む種族は大きく分けて四種族。

 まず一に人族。

 次に魔族。

 三に獣族。

 四に妖精。

 言わずもがな。俺が始め出会ったエルフは妖精に含まれ、今、共に行動している魔王を名乗る幼女は魔族に値する。

 

 ここで一つ。シルエの受け売りだが種族に関しての概要を簡単に説明する。

 人間は魔法。武器を使った戦闘。共に選べるバランス型。ただ、一つを特化させるには相当の修行が必要。 

 魔族はその名の通り。魔法に特化した種族。ただ一つ。魔法しか扱えない為に武器での戦闘の心得がない。

 獣族は魔法は使えないがその戦闘力に特化している云わばアタッカー。種族の中で一に戦闘に特化している種族とも言える。

 そして最後に妖精だがこれは四つの種族の中で最弱の種族と言われる。魔法は使えるも魔力が乏しい。武器の扱いも筋力がそこまでない為に扱うのは難しい。

 ただ、妖精には特殊能力があるとのこと。例えばエルフなら耳。聴覚が特化している。その性能は心の声まで読むと言われているので驚きものだ。


 そして一つ。この世界には分かるだろうが王が四人いる。

 人間の民等を治める人の王。

 魔の者を治める魔王。

 獣の民を治める獣王。

 妖精の民等を治めるオベロン。


 この世界はそんな王等四種が存在して成り立つという。


 後は、幻想種。ドラゴンだか、グリフォンだかも多く存在するらしいがとりわけ四種族が世界の均衡を保っているという。

 

 でだ。


 「この世界の事は理解した。だが、根本的な問題が解決していない。俺をここに連れてきたであろう人物。そいつは何者だ?見たところ人間ぽかったが‥」


 ここに住まう協力者は正直、心強い。そんな理由から俺は魔王こと。シルエの頼み事を聞くことにしたのだ。

 まぁ、その頼み事というのもまた面倒なのだが‥。背に腹は変えられん。

 そんな彼女と俺は今、絶賛森の散歩中。いや、迷ってるかもしれない。


 「狂夜さんの世界にいたんですよね?‥そして何者かと戦っていた?」


 「あぁ。そうだ。後、なんか目元に星のマークが書かれてた。三つあったかな‥」


 と、言葉を漏らすと何故かシルエはもの凄い速さで足を後退。後ろに植わる木に背中を付けた。


 「星のマーク!!そ‥それは。そんな方と‥」


 酷く慌てた様子を見せる彼女が不審で堪らない。


 「何だよ?どうかしたのか?」


 「あっ‥はい。すみません。あまりに衝撃的な言葉だったもので‥。」


 落ち着きを取り戻したシルエ。だが、本当にコレが魔王とは‥。何だが他の王もがっかり感が予想できる。


 「えぇと。狂夜さんが言っている方は多分星騎士の方の一人です。」


 「へ?聖騎士?」


 「はい。ご説明しますと。星騎士とは種族バラバラに構成された神にも等しい存在の方々です。人数を言いますと十二人いるとのことです。詳しく存じませんが星が多い程、その強さは上になると‥」


 なるほど。となると少なくともアレより強い奴等が後、九人はいるのか‥。人であるかどうかは別として。


 「で、そいつが何で俺の世界で戦ってたんだよ?」


 「はい。星騎士様の仕事はあらゆる世界の揉め事を鎮圧することにあります。恐らくその方も仕事の為、狂夜さんの世界に参っていたのかと‥。」


 「ふ~ん。」


 にわかに信じがたい話ではあるがシルエが嘘を言っている風には見えない。それに情報がないコチラとしては否定的な意見を述べることなどできはしない。


 「じゃぁ、死んだ筈の俺がこの世界に来た理由は?」


 納得こそ半分程だったが次の質問に移行する。これ以上の情報をシルエが知っているとも思えなかったし。

 

 「‥多分ですけど。」


 前置きにボソリ。そう付け足したシルエは話の続きをし始める。


 「狂夜さん、その方に治癒魔法たるものを掛けられたと?そう申しておられましたよね?」


 「あぁ。」


 「なら、恐らくその方はこう判断したのでしょう。その世界で生かす事は不可能。何故なら狂夜さんには魔力がない。だが、魔力を与え、全ての細胞を作り変え内部から回復することができたら。と。」


 「は?そんな事が可能なのか?第一、それならこの世界に送らなくても俺の世界でも出来たんじゃねぇのか?」


 シルエの言葉を聞き、思わず声を大きくしてしまう。シルエが言う事が本当ならソイツは命の創世まで可能と。そういう話になる。

 

 「いえ、狂夜さんの世界ではソレは不可能だったのです。」


 「何で?」


 静かに首振るう幼女に即、言葉を突きつける。が、シルエはそんな俺の言葉に動じることなく言葉を再開させる。

 

 「魔力というものは自然、体に入ってくるものなのです。ですから狂夜さんの世界では魔力を狂夜さんの体に蓄積することはできません。それはどんなに高度な治癒魔法を掛けても水を零すだけになってしまいます。外部の傷を治すものならさて知らず、内部となるとやはり狂夜さんに魔力が必要だったんです。」


 「水を零す‥内部に魔力。」


 「はい。ようするにその方は予め治癒魔法を狂夜さんに掛け、それから転送魔法でここに飛ばしたんでしょう。そうなれば後は自ずと狂夜さんの体に空気中に浮遊する魔力が体へと入り、掛けられた魔法が発動すると。そういった仕組みです。」


 「‥な、なるほど。」


 とても馬鹿げた話ではあるが筋は通っている。


 「詳しいのな?」


 「え?」


 「あぁ、いや。見てもいないし、俺なんかのこんな断片的な情報でよくそんなに分かったなと‥。」


 「あぁ。はい。そうですね。」


 素直に賞賛するような言葉だったのだがシルエは何故か落ち込んだような姿を見せる。不審に思い、再度言葉を。


 「どうした?素直に凄げぇなって思ったんだが?」


 言うとシルエの顔が上がり、苦笑いした顔がこちらに振り向く。ちなみに俺は魔剣が重い為、どうしても歩くスピードが遅くなってしまっていた。ほんと、なんなん?この剣?


 「はい。分かってます。狂夜さんが私をお褒めになってくれていることは。‥ただ。」


 またも歩くスピードが落ち、顔が下に向く。


 「ただ、やはり魔王‥。いえ、王という存在は攻守。サポート。全てにおいて並以上の強度を要求されるものなのです。ですが、始めに申したと思いますが、私はサポート魔法たる魔法は自分でも言う事ないのですが攻守。それれらを満たす魔法ができないのです。」


 「‥あぁ。」


 確かに始め。シルエは言った。第一、全ての魔法が特化した者であるならば魔王直々に。俺なんかにそんな頼みごとはしない。

 シルエの頼み。

 それは魔王城への護送。それともう一つ。魔王城に入る為のパスワードを忘れた際の条件に協力することだった。

 てか、パスワードって何よ?近代的すぎるだろ。何やらあちらこちらの世界の文化。技術を取り入れているようだが‥。

 魔王にセキュリティーシステムとかいるのか?

 

とは言え。

 

 その条件というのが非常に厄介。俗に言う。魔王の幹部を倒せ。となんともまぁ、王道RPGにありがちな展開を要求されたのだ。そこに誤差。この場合はバグかもしれないが‥。が、あるとすれば、魔王は既に仲間になっているというところだ。そしてその魔王には攻撃の術。守りの術が無いという役立たずもいいところだって話。

 何やらその幹部共には魔王城開閉における防衛魔法が古来より掛けられる風習らしく、その幹部共を倒せば一人でに門が開き、城に入れるとのこと。

 セキュリティーシステムが搭載されてからはそういった情報は薄くなっていたようだが‥。


 「ところで今更だが本当にいいのか?」


 前でトボトボ歩くシルエに構わず、俺は自身が気になる質問をばんばん投げる。

 だって一応、魔王だし。気遣いとかいらんでしょ。

 

 「はい。何がです?」


 予想通りの顔がこちらに振り向かれたのを確認。頭に浮かんだモノを言葉にする。

 

 「いや、お前は魔王なんだろ?なのにその幹部をその‥殺すような事をして‥。本当にいいのか?」


 幹部を倒すというのはそういうことなのだ。気絶させるとかそういったことではなく消す。抹消すると。そういう話になる。魔王だからといって同種をそんな馬鹿げた理由で殺すとか少しどうかと思えた。

 ‥のだが。当の魔王は実にあっさりしていた。


 「‥はい。まぁ、幹部と言いましても私、全く存じない方々ですし。一度死んで貰うだけなので‥。その良心が傷むとかそういった心配はございません。」


 「一度死んで貰うって‥。一度死んだら生き返るなんて無理だろ?」


 なんだよ。それ?一度家に帰って貰います。みたいな軽い物言い。

 とかなんとか思い、呆れた声を吐き出したのだが。どうやら魔王シルエが言った言葉は本当に言葉通りの意味を含んでいたらしい。


 「いえ、その‥申し上げた筈ですが私、サポート魔法ならかの星騎士様にも劣らぬ自信がございます。ですから、リスクはありますが蘇生魔法も可能と言えば可能なのです。」


 事、恥ずかし気に言う幼女。何をそんなに恥ずかしがる必要が。

 まぁ、魔王なんて存在は命を奪うのが主流で命を救うなんて認識はほぼ無いに等しい。少なくとも俺がいた世界ではそういった認識だ。だから、まぁ。恥ずかしがる。というか自慢気げに話せるものでもないのは頷けないこともない。

 だが、しかし。


 「‥マジ?」


 コクリ。小さな顔が、小さく動く。どうやらそんな奇跡とも思える所業は本当に実現できるらしい。頼りない魔王だが、その実はとんんでもない奴だったりして‥。

 今更ながら魔王というその存在のデカさが思い知らされる。


 それはそうと。


 「ところで、あのさ‥。さっきから思ってたことなんだけどさ。俺を見て何とも思わない?」


 息を切らし、前方の幼女に自らをアピール。

 が、どうやら分からなかったらしく。きょとん。小さな首は横に傾けられた。


 「いや、コレ。この剣。すっげぇ、重いんだよ!魔王だかなんだか知らんがそう言った気遣い?少しでも歩行スピードを緩めるとか?そういった優しさ?持てないわけ?」


 さっきからズルズル引きずっていたのだが、そろそろ体力の限界。ニートの体力。筋力。舐めんなよ。もう既にスタミナは赤ゲージだっての。


 「あ、あぁー。すみません。全く、気付きませんでした。かの魔剣を抜いた方。あの飛龍を倒したお方。そのような心配はないかと軽視していました。すみません。すみません。」


 落ち込んだ顔は酷く焦ったモノに変わり、シルエは何度も頭を俺に下げる。魔王が頭、下げるとか色々ツッコミたいところであるが今はそういった余裕はない。


 「ところで。この剣ってなんなんだ?魔剣?やっぱ、伝説の剣とかそんな感じなのか?」


 ファンタジーフィクション一で培った一般常識たるものを口に出してみるとコクリ。シルエの首が縦に動く。


 「はい。その剣はここの世界の者には決して抜く事のできない代物でして‥。スキルやパラメーターなどのそう言った情報はなく皆、気味がっていたんです。」


 「えっと‥その伝説の勇者。選ばれた者しか抜くことができないとかそう言った物とかじゃないの‥?」


 なんだか雲行きが怪しくなってきた。この剣は俺に唯一、舞い降りたこの世界を攻略する為の代物。云わばレアアイテムなのだ。それがもし違っていたとでも言うのなら‥。


 「はい。そう言った情報は昔の者に多く伝わっている云わば風習ですね。中々に抜けないもんだから伝説の剣でしたり、選ばれた者にしか抜けない剣だとか‥。」


 「えぇと、つまり。この剣はぶっちゃけ、未だ何一つ分からないただ突き刺さっていた剣かもしれないと?」


 「‥はい。そういった見方も少なからずあります。あの村に住まうエルフ達は年老いた者等が多かった為に伝説の魔剣と重宝していましたが。何分、情報がないので‥。ですが、狂夜さんはその剣で飛龍を倒したのですよね?ならばあながち間違いではないのでは?」


 俺の落ち込みを遅くなった足取りで察したのだろう。シルエは極めて明るい声を振舞ってくれた。


 「‥あぁ。そうだといいな。だが、重いのは確かなんだ。何とかしてくれとまでは言わないが休憩くらいしてもいいか?」


 実際、飛龍を倒したのも奇跡に近いし、もろソレだ。ブレス吐かれてたら死んでたし、ただ重く斬れる剣であるなら伝説なんて代物に値するかどうかも怪しい。所詮はハイレア程度の代物かも知れない。いや、下手したらノーマルかも知れない。

 落胆の想いが隠せれず、思わず溜息が溢れる。

 

 「あぁ‥。えぇっと。そうですね。勿論、休憩という意見には賛同です。ですが、その剣をどうにかしたいのであれば少し待ってください。」


  すっかり逆転してしまった。さっきまで落ち込んでいた筈のシルエが俺を励まそうと必死だ。なんだこの魔王は‥。

 

 「剣が重いのですよね?」


 「あ‥あぁ。」


  俺の元へ近付いたシルエはふむと頷く。そして何を思ってかは知らないが剣に小さな手を乗せ、何事かを呟く。


 「我が名は魔の王シルエ。地の精、ノーム。我が名の元に参りたまえ。グラビィティー ワン。」


 「お‥。おぉー。」


 何か厨二臭いこと言っていたと思ったら、手に感じていた馬鹿みたいな重みが消えた。


 「重力魔法です。剣の重さを減少させました。完全に無くすと浮いてしまう恐れがありますので‥。」


 シルエが補足して教えてくれる。思わず魔法ってすげぇと感じてしまう。


 「悪い。助かった。」


 先程の暗い気持ちなど剣の重さと同じく、どこらかしこに消えてしまった。礼の言葉を素直に言うとシルエは照れ笑いを顔に浮かべた。


 「いえ‥。私の方こそ気付かず、すみません‥。」


 「あぁ。その事なら気にするな。と、ところでシルエ。」


 「は‥はい!」


 照れていたと思ったら今度は肩を浮かす程に驚きの様子を見せる。感情豊かだなこの魔王。


 「どうした?」


「あっ‥いえ。今、初めて名前で呼ばれましたので。その‥」


 「あぁ‥。」


 んだよ。この魔王は一々、可愛い仕草をしやがって。調子が狂う。

 とは言え、話を進まねば。


 「魔法を使う際に言うアレ。一々、言う必要あんのか?」


 思えばここに送った人物。あっちの世界でローブの者も何か言っていた。記憶薄いので何とも言えんが。

 

 「はい。実は魔法というのは私達、個人の力では出す事ができないのです。」


 「というと?」


 「見ることはできませんが精霊。それに神霊と言った。その者等の力を借りるのです。ただ、力を借りるのにもタダとは言いません。それ相応の魔力を与え、初めて魔法が形となるのです。」


 「つまり、お金を払い、物を買う。そんな感じか?」


 「まぁ、そうですね。ただ、魔法にも系統があり、サポート魔法ならばその色に合わせた魔力を持ち合わせてなくてはなりません。ですから、攻守。サポート。全ての魔法を操れる方というのは相当、稀有な方でして俗に言う天才と呼ばれます。」


 そこでまたしてもシルエの肩がガクリ落ちる。自分は天才ではない。そう言っているのが言わずとも分かる。

 

 「まぁ、理屈は分かった。つまり前置きみたいに言う台詞は精霊やらを呼び出す呪文のようなもので、魔力が無いと魔法が撃てない。そういうことだろ?」


 「‥はい。」


 相変わらず声が暗い。俺が元気を取り戻したと思ったら今度はソッチとか。俺達は磁石か何かかよ。

 とは言え、剣の問題を無くしてくれたのも事実。放っておくのはフェアじゃない。


 「まぁ、なんだ。王ってのは弱者の気持ちも分かってこその王だろ?天才で暴君だったら国は破滅するのがオチだ。それにお前だってすげぇだろ。サポート魔法なら自信あるって自分でも言ってたろ?」


 「きょ、狂夜さん‥。」


 「それよりもお前、この道合ってんだろな?さっきから相当な距離歩いてると思うが全く、景色変わんねぇぞ?木々ばかりだぞ?」


 気恥ずかしい思いを誤魔化すべく、話を逸らす。

 まぁ、事実。道に迷ってるのでは?と、不安な気持ちがあったのだから誤魔化すとかそういった理由だけではないのだが‥。

 

 「えぇと、そうですね。少し待って下さい。今、誘導魔法を使いますから。」


 下がっていた肩をグイッと上げ、シルエはまたも何事かを呟く。


 「我が名は魔の王シルエ。風の精、シルフ。我が名の元に参り、その道を導き出せ。ブリザー リンビテェション。」


 そう台詞を口にしたシルエ。体周りを微小だが光に包むと次、木々が揺れ、その木の葉を地面へと落とす。

 

 「お、おぉ‥。」


 さっきと全く同じ反応。道に一直線に出来た木の葉はどう見ても道を示している。


 「コレを辿れば森を脱けれるんだな?」


 あった筈の体の疲れなど今となっては無い。この森を脱ければ小さな町だというが町があるのだ。そこには宿屋があるらしいとの情報も前もって入手済み。テンション上がらない訳がない。


 「えぇ。はい。すみません。もっと早くに気付けばこんな無駄足なさることはなかったのに。」


 確かに示す道は俺達の後ろを示している。回れ右して元来た道を戻れというのは明白だ。


 「まぁ、気にするな。道、分かっただけでも十分だ。俺、一人だったら多分、この森脱けるだけでお疲れさいならだ。」


 蘇生され、目の前に飛龍がいた時はクソの運命と思ったし、目前の幼女が魔王と名乗った時はどうしたもんかと頭悩ました。レアアイテムだと思っていた剣がただの切れ味ある重い剣かもしれないと通達された時は馬鹿じゃねぇのと叫びたくなったが。

 

 それでもようやく一段落できるところまでは持っていけれた。


 当面の目的は魔王を城に帰す為、幹部を倒すという訳の分からないクエスト内容だが目的が無いよりかはいい。


 「ところでシルエ。」


 「はい。」


 「お前に協力することは今更、手は引けない。だが、一つ。こっちからも要求していいか?」


 「‥はい。私にできることならば。」


 その台詞を聞いて俺は一つ首を動かしてソレを切り出す。


 「正直、帰りたくもないが後残りがある。俺は元いた世界に帰りたい。だから、その為にここへ連れてきたという星騎士に会いたいんだ。お前の目的が達成できてからでいい。協力を頼めないだろうか?」


 帰りたくもないクソみたいな世界。だが、それでも俺はあの世界こそ自分の世界だと知っていた。就職もできぬまま。女もできぬまま。両親からの電話さえ最後の最後まで出なかった。死んでいたらそれも仕方ないと諦めたかもしれない。だが、俺はまだ生きている。ならばだ。


 「星騎士様に‥。分かりました。魔王城には探索に特化した水晶がございます。それを使えばかの星騎士様でも捜し出すことが可能かもしれません。」


 「本当か!!」


 やはりシルエに始め会っていて良かった。そういえば何でシルエはあの村にいたのだ?


 「なぁ‥」


 「はい。事情はよく分かりませんが詮索するのも無粋です。ですが、何も知らない私に協力して下さると言った狂夜さんの頼みを無下にできる筈がございません。魔族一同、全力で狂夜さんのお力添えさせて頂きます。」


 「はい?」


 出掛けた質問はシルエの言葉に重なってしまったが、今なんて?


 「魔族一同‥?」


 「はい。」


 天真爛漫。輝くような笑顔を見せてくれる幼女は魔王というよりも天使に近いと思った。

 シルエが何で城を離れ、あの村にいたのか?その質問はそっと呑み込んだ。

 あちらも詮索はしないと言ったのだ。なのに俺が質問してはフェアとは言えない。


 とにもかくにも俺と魔王の旅路は始まったばかりだ。

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