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就活サボってたら死んでしまった

 ブーブーブーブー。


 これで何度目だ?


 充電器が差さり、床上に置かれる携帯電話は毎日決まった時間。ほぼ決まった回数。振動する。

 その主は分かっている。


 「ふぁ~ぁ。もう、朝か‥」


 薄暗い部屋。辺りにはカップ麺。空になった弁当容器。空き缶。タウンワーク誌が幾数枚。コンビニ袋に脱ぎ放られた衣服が数々。

 まぁ、ようするに汚い。


 そんな部屋。目前ではボンヤリとテレビから薄らとした光が漏れる。ファンタジックなそこにいるのは俺一人。つい先刻。ラスボスである敵を撃破した。

 外で小鳥の囀りと共、エンディングロールが部屋に鳴る。


 「‥腹減ったな。」


 ボサボサな頭を掻き毟り、コントローラをその場に置く。

 

 「うわっ‥」


 閉め切ったカーテン。それを開放。時刻は既に朝ではなく昼に指し変わろうとしていたらしい。予想外の陽の光に目が奪われる。

 目が慣れること数秒。充電器から携帯を引き抜く。


 不在着信三件。


 俺はそれを確認することなく消去のタグを押す。

 

 散らかった部屋。毎回思う。片付けなければ。と。

 まぁ、それが実行されることなど見れば分かるだろうが一度もないのだが‥


 「五百二十三円か‥。」


 小さな机に置かれた財布を取り、それを開けると中身は分かっていたが乏しい。両親から送られる金額は三万。後は昔やっていたバイトで貯めた貯金でやり取りをしているのだがそろそろ限界だ。

 銀行に行けば後、一万はある。だが、それは砦。手を出すわけにはいかない。

 仕送りは後、二週間。つまるところ五百二十三円で二週間をやりくりしなければならないとそうなるのだが‥。


 「無理だろ。」


 悲観的な想いと共に財布を閉じる。


 両親には頼めない。お金を貸してもらうような友人も、それに見合った人物もいない。打つ手など一つしかない。

 

 「‥バイトするか。」


 そうと決まれば行く所はコンビニだ。新しいタウンワーク誌。それと次いで、食料を手に入れなければならない。

 携帯とほぼ無いに等しい財布をポケットに突っ込み、日が眩しい外へと身を投じる。

 

 コンビニで買い物をしたら財布の中身は二百円程となった。

 

 生きるって本当に辛い。まだ二十数年しか生きていない俺だったがそう思わずにはいられなかった。

 俺はこの世界で負けた。云わば放浪者‥。いや、かっこよく言うのはよそう。世間で言うところの就職浪人というやつだ。


 ****************


 昔、大学を出さえすれば何もかもが上手くいくと思っていた。大学に行けば彼女ができ、大学に行けば自然、友達ができる。大学を出れば就職ができ、結婚。何もかもが引かれたレールに沿ったような人生。そうなると何の疑いもせず。思っていた。


 が、現実は違った。女などできず、寄ってくる者も利用してくるような奴らばかり。勉学に精を出しても何一つ、プラスとなるものはなかった。

 そんな下らなくもつまらない日々だったが逃げることだけはしなかった。スタートが駄目だったんだと自分に言い聞かせて、次のステージではしっかりするぞ。と。一人で生きた。

 

 程なくして大学は卒業の日を迎えた。

 が、俺は焦っていた。


 内定が貰えていない。周りの人間は次々に決まっているといのに自分だけは‥。

 焦りや嫉妬が胸を苦しめた。遊んでいた奴らでさえ何食わぬ顔で決めている。

 

 だが、そんな想いは深呼吸して呑み込んだ。自分の理想が高いだけだ。今に見てろと。そうプラス思考に考えを改め、数々の大手企業に乗り込んだ。

 

 不採用の通知の束がポストを。携帯の受信ボックスを埋める毎日が続いた。始めはそれでもと。身を前に取り組んだ。はじめこそ不慣れだったスーツの着込みも数を増すごとに普段着を着るくらいの時間となった。

 毎度掛かる両親からの電話に元気を貰って。涙する日も多くあった。

 バイトに就活。家での諸々。

 大学を卒業して俺の生活スタイルはそうなった。


 そしてそんな日々は実に一年続いた。

 そこで俺もようやく気付いたわけだ。自分は何をしているのだ?と。


 一年。

 その時間があればどれほどの事ができただろうか?同学年の奴らはとっくに採用先で成果を出しているというのに。自分は‥。

 そんな思いが頭に過るとどうも働くという意識が薄いものとなった。

 馬鹿みたいに取り組んでいた就活も。慣れてきたバイトも。どうも行く気にはなれないでいた。


 考えは変わり。毎度のように掛かってくる両親からの電話も無視をした。

 

 それから約半年。俺は部屋からほぼ出ずにゲームやらアニメやらを見たり、したりの生活を楽しんだ。

 綺麗に整えられた部屋はいつしかゴミ屋敷と化し、髪型もボサボサなままが固定となった。


 俺は悪くない。悪いのはこの世界だ。真面目に生きていた筈なのに。


 

 ―


 「では、さっそく明日からお願いしますね。」


 「はい。お願いします。」


 つい先刻。バイトすることとなったコンビニでの面接が終わった。時刻は夜。真夏の夜は昼間とは違い、少し涼しい。とは言え、熱いことには変わりないのだが‥。

 

 「‥腹減ったなぁ。」


 思えば今日、一日何も食べていない。理由など分かっていよう。お金がないのだ。

 とくに考えることなくバイトを決めたのもそれが理由だ。そこそこに近ければなんだっていい。とにかく早くと。

 深夜コンビニバイトは時給もいいし。まぁ、大変だろうがそれはお金の代償だと思えば頑張れる。

 考えていないと言いつつも実は結構考えていたりして。


 とにもかくにも明日からバイトだ。今日くらいは何か食べたい。一応、砦である一万の中、千円をおろした。全部をおろさなかったのは携帯代を考慮してだ。

 だが、まぁ。千円あれば何とでもなる。少し贅沢してファミレスでも行くか。

 

 そんな久方の食事に心ウキウキ。足をスキップさせていると、背後。爆音にも似た轟音が耳に響いた。


 「はっ!?」


 瞬時、後ろに首を向ける。そこでまた大きく口を開けることに。

 

 「は‥?」


 家が。電信柱が。道路が。明日から勤務する筈のコンビニが。その全てが無いモノとなっている。


 「何が起きた?どうしてこうなった?」


 天パル頭。

 宇宙人の襲来?外国が核ミサイルでも打ち込んできた?それともこれは夢?


 数々の馬鹿げた考えが頭を埋め尽くす。


 と、そんな時だ。


 「なっ、目撃者?っち。迂闊。結界の中に紛らせたか‥」


 黒のローブに身を隠していた為に詳細は分からない。ただ、見えた目元。それと声から女性のものと判断できた。


 「‥星?」


 突如、空から舞い降りた人物の言葉など右から左。そんなことよりも目元にあった三つの星マークに意識がいった。


 ドッ。ドッ。ドドーンッ。


 疑問符を浮かべる時間も間もなく、左右の家々が破砕される。

 

 「ちっ‥仕方ない。」


 闖入者が荒い舌打ちを鳴らす。


 「こうなった以上、私にも責任がある。あなたこっちに。」


 「‥へ?え?何が‥」


 つい先刻、破壊された家々。それに現状。理解が追い付いていない。混乱を通り越して逃避。考えること事態を止めていた。

 と、そんな自分にだ。謎の人物は声を通し、腕を握った。

 華奢な腕。小さな手では考えられない程の力に脳は現実へ引き戻される。


 「とにかく、あなたをここから引き出す。後の事はどうとでもなるわ。」


 「だから何が‥」


 「説明はしない。どうせ無駄だから。」


 ありえない身体能力の元、俺の体は空を駆けるも同然の移動をしていた。向かい風が痛いの何の。

 

 「は?そんなのありかよ‥」


 ようやく慣れつつあった俺は、目前で誘導する人物に文句の一つや二つ言ってやろうとした。

 が、そんな言葉は最後まで続くことはなかった。


 「‥へ?」


 見える尖った刃先。そこには誰の血か赤く染まっている。


 「なっ‥しまっ。」


 次の瞬間。俺の手を引いていた謎の人物の体は横に吹き飛ばされる。そのせいで俺の体も同様。勢い早く、既に荒地と化した瓦礫の中に放られる。


 「くっ‥奴のスキルはシャドウスキルか‥。って、そんなことより。」


 さっきの勢いでローブのフードが取れたらしい人物は思い出したように、急いで俺の元へ駆け寄った。

 

 「回復は間に合‥。ううん。間に合わせないと大変な事になる。光の精霊よ我が手中に集まりたまえ‥」


 ボンヤリとする視界。遠くなっていく聴覚。

 誰かが何かを言っている。誰かの顔が近くにある。

 腹が熱い。


 明日はバイトなのに‥。これじゃぁ、初日から欠勤か?


 そんなことより‥


 俺、死ぬのか?


 ボンヤリとする思考。何があったのか?何がどうなっているのか?現状は何一つ分からない。けれど一つだけ確かな事があった。自分は死ぬ。自分の事だ。分かる。

 

 女の子とデートしたかったな‥。少しでも親を楽にしてあげたかった‥。やりたいこと。やらなきゃならないことまだあったのに‥。ここで終わりか?こんな終わり?

 いつしかやったゲームのエンディング。それが頭で流れ始める。


 もう、声は完全に聞こえない。視界は完全に闇に包まれていた。

 そして、いつしかエンディングは終わる。


 俺のゲームは。人生は幕を閉じた。


 ‥筈だった。


 「‥へ?」


 目が覚めた。あった筈の痛み。熱さはない。だが、その代わり違うものが目の前にはあった。


 フシューッ。


 ソイツは何を思ってか鼻息を鳴らし、俺の髪を浮かせた。

 そして次の瞬間―


 「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァー。」


 怒声なのか?威嚇なのか?それとも両方?

 いや、この際どちらでも構わない。


 とにもかくにも目を開けたその前には見るからに友好的ではない飛龍。その幻とも言える生物が俺を睨んでいたのだった。

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