冒険者ギルド&魔術師ギルド
馬車でバーバラ商会まで向かう途中に街並みを眺めていると、いろいろな種族がいることに気がつく。
地球人やコットランドみたいなホモサピエンスが多い印象だが、動物の耳やシッポを持ったものや、見るからにトカゲだろというような種族もいた。
様々な種族が入り乱れているのが新鮮で夢中になって見ていると、アッと言う間に商会に到着した。
建物は商店街から少し離れたところに佇んでいて、見た目は店と言うよりかはオシャレな洋館といった印象をうける。
「へえ、立派な建物だね」
「ああ、立地も中央区に近いし、かなりの優良物件だよ」
バーニーとはしばらく一緒に行動することになるのでお互いタメ口で話すことになった。
敬語はあまり得意ではないのでありがたい。
「中で少しまっていてくれ。馬を置いてくる」
そう言ってバーニーは馬車を馬小屋の方へ運んでいった。
「あの馬ってお前たちのなんだな」
「そうよ。みんな兄弟だったんだけど、残ったのはあの2頭だけ」
ロゼは悲しそうな顔で馬の後ろ姿をながめていた。
◆◇◆
「どうぞ、なの」
マリーが慣れた手つきで紅茶を淹れてくれた。
ハーブティーだろうか、スッとする香りがする。
「ありがとう。やっと一息つけたよ」
森で化け物に襲われてから今まで気が張り詰めていたので安心もひとしおである。
「美味しい」と感想をのべてカチャリと紅茶を机の上に置いた。
「これから行く冒険者ギルドってどこにあるの?」
対面で同じくハーブティーを嗜んでいるロゼに聞いてみた。
「中央区よ。ギルドは出先の機関が各区画にあるのだけれど、今回は本部に行くからね。魔術師ギルドも近くにあるわよ」
「それは都合が良い」
ならば冒険者ギルドで身分証を発行した後にその足で魔術師ギルドにいって帰還の魔法についての情報を仕入れるとするか。
「冒険者ギルドでは揉めそうか?」
女の商人だから舐められて面倒なことになるのではないかと少し心配だ。
「大丈夫よ。門のところでナジムに証明してもらったし。伝書鳥がすでにギルドにいってるわ」
「おお、仕事が早いんだな」
あの好対応といい、なかなか優秀な門番たちである。
「…それにしてもムカつくわあの腐れ冒険者ども。最初は色目つかってきてマジでキモいと思ってたけど実力はあるから我慢してやってたのに。いきなり強盗しやがった挙句、マリーに傷を……。絶対に許さないんだから!」
手に持っているコップがカタカタ震えてるし俺の気のせいで無ければ中のティーが沸騰している。
ここの姉妹は怒らせたらヤバイな。
「ぶち殺す、なの」
マリー、お前もか……。
◇◆◇
その後バーニーが戻ってきたので少しだけ休んでから冒険者ギルドに向かった。
ギルドは木造のいかにも冒険者!といったいでたちだ。
入口の上には剣がクロスしたエンブレムが掲げられている。
入口には職員らしき男が立っていた。
「バーバラ商会の皆さんですね。お待ちしておりました。ギルド長が席を設けてますのでご案内致します」
メガネをかけた知的な青年だ。
「分かった。よろしく頼む。こちらの男性は身分証を発行するそうだ」
「畏まりました。それでしたら受け付けカウンターの一番左に座っている女性にお声がけください」
ここからは俺1人ということか。
ぶっちゃけバーニーが付いてきてくれると思っていたので急に緊張してきた。
「ではヤマト、私たちはギルド長のところに行ってくるから。おそらく時間が掛かるだろうし魔術師ギルドにも先に行っていてくれ」
まじかー!手続きとか苦手なんだけど、大丈夫かなぁ。
一抹の不安とともに俺はギルドに乗り込んだ。
中にはあんまり人が居なかった。
上の方が騒がしいがどうやら二階が酒場になっているみたいだ。
数人の荒くれ者たちの視線が一斉に俺に集まった。
止めてくれ。
なんとか無視して一番左に座っている金髪のねーちゃんに話しかけた。
「あの、すいません。身分証の発行をお願いしたいのですけれども……」
「畏まりました。ではこちらの用紙に必要事項をご記入ください」
「はい」
えーと、名前、伊賀ヤマト。
住所はバーバラ商会に居候っと。
産まれはコットランド星。
特技は昼寝。
あとは…。
すべての項目を適当に記入して受け付けに渡した。
「承ります。えーと、はい、はい…はい、読めませんね」
「ですよね」
全部適当に解釈して第三銀河公用語で記載したけどやっぱりだめだった。
周りにある文字が理解できないもんな。
なんで口語は理解できているのかが疑問だ。
その後、代筆をお願いしてシートを埋めた。
「ではギルドカードを発行します。銀貨1枚を手数料としていただきますが、宜しいですか?」
「はい」
あらかじめバーニーからもらっていた金を渡した。
「確かに頂戴しました。発行されるまでの間、当ギルドについて説明致します」
その後ランクがどうだとか指名依頼がどうだとか説明されたがすべて聞き流して受け付け嬢の谷間を眺めていた。
要するに冒険者はフリーターでいろいろやります。
だんだんランクが上がってモチベーションも上がりますみたいな感じだが、俺は依頼を受けるつもりはサラサラないので心底どうでもいい。
ジメジメした森の中を汗水たらして歩いて命がけで化け物倒して、気味の悪い死体を解体するなんて俺には別世界すぎる。
リスクに対するリターンも見合ってないように感じる。
「……ヤマト様、聞いていますか?」
「はい、聞いてます」
受け付け嬢が訝しむような目で見上げてきたので、とっさに目を背けた。
「ギルドカードが発行されましたので、ご確認下さい」
カードにはでっかくFと書かれている。
このアルファベットが変わることはないだろう。
そう思い、冒険者ギルドを後にした。
◇◆◇
「こんにちはー」
ギルドカードを受け取った俺はすぐさま向かいの魔術師ギルドに向かった。
一刻も早く帰還の魔法についての情報を集めて、一刻も早く地球に帰る。
この目標をけして見失ってはならない。
魔術師ギルドのなかは黒を基調とした内装で、格式高い上品な造りになっている。
床には魔法陣のようなものが描かれているが、果たしてホンモノなのだろうか。
「こんにちはー。本日はどうされましたか」
その気の抜けた声は、受け付けに座っている黒いローブを身にまとった白髪の少女から発せられた。
「帰還の魔術というものを探してかあるのですが、何かご存じでしょうか」
「帰還の魔術ですか。聞いたことないですねー。転移の魔術とは違うのですか?」
聞いたことがない、という言葉に愕然とするも、粘り強く質問する。
「転移の魔術とはどのようなものなんですか?」
「転移は、術者が一度訪れた場所に移動する魔術ですよ」
…それだと魔術師側が地球に行っていなければならないな。
「俺が習得することってできますかね」
「残念ながら、無理です。固有魔術は生まれつきなので後天的に会得はできまん」
……はぁ、やっぱり簡単には見つからないか。
人生はままならないなぁと遠い目をしてしまっている俺を魔法少女は心配しているようだ。
「あのっあのっ、魔術師ギルドの登録者にそのような魔術の所持者がいないか調べて見ますし、ギルドに登録していない魔術師もたくさんいます。そもそも固有魔術に気がついていない人もいるので、世界のどこかには必ずありますよ!」
ありがとう、魔法少女。俺の周りの魔女っ子は優秀なのばっかりだぜ。
「手数料は銀貨2枚です!!」
ホント、優秀だぜ……。




