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未来から異世界へ来た男  作者: 岸涯小僧(がんぎこぞう)
シャルドラと緑の巨人
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赤毛の御者

「意外と遠いな……」


 空から見た映像では出口は近場にあるように思えたのだが、かれこれ20分くらい歩いているのに、まだ森の中を歩いていた。


 〈アト ニジップン クライデ ツキマス〉


 先頭を飛行するリリがアナウンスしてくれた。

 20分かぁ。キツイな…。

 こんなに長時間歩くのも久しぶりなのに増してや悪路だから、体力の消耗が激しい。身体にまとわりついてくる草木や虫は不愉快だし、何かの獣の雄叫びが俺の精神をすり減らしてくる。

 早く帰りたい。


 一心不乱にリリの後ろを歩いていると、彼女と俺の間を何かがすごいスピード通り抜け、風圧を受けた。

 ガッという音が鈍く響く。

 斧だ。

 何者かが投擲した斧が木に刺さったのだ。


「ひっ!?」


 自分の目の前を掠めたものが人を殺めるものだと理解できた途端に、身体が動かなくなってしまった。

 死。

 死がすぐ近くまで迫っていたという事実。

 鉄が肉体に刺さるという想像もつかない出来事の半歩前に自分はいたのだ…。

 今まで感じたこともない度し難い恐怖が身体をねっとりと包み込んだ。

 斧が飛んで来た方向を見ると、木の影から化け物が覗いている。


 醜悪な豚の顔。

 口元は下品に笑っている。

 でっぷりと太った泥まみれの肉体は汚い緑色をしているが、贅肉ではなく筋肉のような印象を受ける。

 古典ファンタジー小説のオークとはまさにこいつのことを言うのだろう。


「うぁっ」


 あまりの恐怖に腰が抜けてしまった。

 慣れない森で弱っていたところに突然襲いかかるおぞましい感覚。

 身体も頭も正常に働かない。

 そんな俺を見た豚の化け物はまるで嘲笑うかのようにのしのしとこちらに近づいてきた。


『マスターの精神状態に異常を感知。危機的状況と判断。対処可能性のある武器を出します』

「た、頼む!」


 あまりの出来事に自分がいまジャネットを持っていることも失念していた。

 アイテムボックスから彼女が取り出してくれたのは〈光線銃スピカ〉。

 オモチャのような形をした可愛らしいシロモノたが、強いエネルギーをもつ光線を放ち、対象を貫く立派な殺傷兵器である。

 その威力は……。


「死ねええ!!」


 ガクガク震える手から放たれる光の線はなかなか命中しなかったが、3発目にしてようやくデカブツの脳天を捉えた。

 自分より明らかに弱いと思っていた相手から放たれた突然の攻撃に対して全く対処できないまま、頭に綺麗な円形の風穴を作ることになったオーク。

 そのまま前にドシンと倒れ、事切れた。


「ふーっ、ふーっ」


 斧が放たれてから今まで1分もかかっていないが、これまでの人生をすべて濃縮しても足りないぐらいに濃密な時間だった。

 もうたくさんだ。

 この森にいたら命がいくつあっても足りないと確信した俺はがむしゃらに歩を進めた。


 ◆◇◆


 街道にむけて直進すること数分、草木をかき分けると、車輪の跡のようなものがある広い道に出ることができた。


「ようやく森をぬけたか。これで一安心といったところだな」


 そう思ったのも束の間、ガタガタという音が聞こえることに気がつき、とっさにそっちの方を振り向く。

 馬がこちらに向かってきていたのだ。

 目視できるのは貨物をひく二頭の馬と、それを御する赤い髪の女だ。


 人間、だよな?


 明らかに知能をもっているであろう存在との突然の接触に緊張が走った。

 と、とりあえず会話を試みてみよう。


「すいません!!ちょっといいですか!!」


 茂みの方から声をかけた俺に女はめちゃめちゃ驚いてみせた。


「だれ!!?」

「あのーわたくし、伊賀ヤマトと申します。ちょっとお尋ねしたいことがあるのですけどよろしいでしょうか?」


 この女からいろいろ情報を聞き出せればよいのだが。


 女の見た目は肩まで伸ばした赤い髪が特徴的だ。年齢は20代後半だろうか?

 顔はなかなかの美人であり、ちょっと切れ目ぎみの瞳の下のホクロがセクシーだ。


 しかし美人なのだか、いかんせん髪がボサボサなのと、ところどころに泥が跳ねていて小汚い印象を受ける。


「イガヤマト?妙な名前だな。何者だ。まさか盗賊の斥候じゃないだろうな」


 女からものすごい敵意を感じる。

 しかしとりあえず言語は通じるようだ。


「えっと、俺はその、気がついたらこの森に飛ばされて……。ただの学生です!!」


 自分でも支離滅裂なことを言っている自信がある。

 頭のおかしいやつだと思われるだろうか。


「学生? 魔術学校の生徒か? お前、治癒の魔術はつかえないか?」


 ……なんだこの女は。

 何を言ってるんだ。

 魔術学校?本気でいってるのか?


  しかしこの女相当にあせっているな。

 なにやら治療をもとめていることは理解できた。

 ここはひとつ、恩を売って協力してもらう作戦でいこう。


「怪我を治す術ならあります。どこかけがをしているのですか?」

「本当か! 妹が重症なんだ!!荷馬車に乗っている、助けてくれ!」

「とりあえず見せてください」


 女は御者台から降りてきて、俺を荷馬車の中へと案内した。


 荷馬車のなかはけっこう広いのに商品らしきものを入れておらず、なかにはポニーテールの赤毛の少女と、そばに血だらけで横たわるショートヘアーの赤毛の幼女がいた。


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