ニホンジンのドローン
俺は〈時の女神号〉の中の椅子の上にあぐらをかいて思案している。
どう森を抜けるかを、だ。
森なんかで遊んだこともない俺が、闇雲にあるいて上手くいく訳もない。
「ジャネット、目録に乗り物はないのか。ホバークラフトとか」
『乗り物の類はいっさいありません』
そっかあ。
空が飛べれはこんな森すぐに抜けてやったのにな。
『しかし、その他の項目に、飛行撮影が可能なドローンがあるようです』
おっ良いじゃん良いじゃん。
森を上から撮影すれば、最短ルートで移動することが可能になる。
「ドローン出して」
どうやらいちいち「アイテムボックス」と唱えなくても良いらしい。
『かしこまりました』
そして、眩い光と共にそいつは舞い降りた。
黒いローブに魔女の帽子を見に纏い、青い瞳は真っ直ぐ前を見据えている。箒に跨ったその少女は空中で静止しており、帽子から溢れるサラサラの金髪は何故かキラキラとたなびいている。
『魔女っ子特急便 リリ
(税込み398000円)です』
「なにこれ!?」
ドローンって聞いたからすごいメカっぽいものを想像していたので虚をつかれた。
めっちゃ人間に見えるじゃん。
小っちゃいけど。
『このドローンに手紙や小物を載せて行き先を指定すれば、確実に届けてくれるそうですね。物質転送装置の登場によって贈り物が味気なくなってしまった時代。この子の登場により人々の渇いた心に一時癒しを与えたそうです』
ほんとかよ。
絶対これ考えたのニホンジンだな。
「撮影もできるの?」
『はい、可能です』
まあ、撮影できるなら魔女っ子でも何でもいいけどよ。
「えーっと、リリちゃん?ちょっとここら辺の森全体を撮影して来てくれない?」
《アナタガ マスターデスカ》
「そうだよ」
《カシコマリマシタ!》
そう元気に返事した魔女っ子特急便リリは勢いよく部屋を飛び出し(扉は開けてやった)、いなくなってしまった。
「大丈夫かな」
『少し、不安ですね。ちなみに銀髪バージョンも1つあります』
「えぇ……」
◇◆◇
《タダイマ モドリマシタ!》
おっ。あれから30分くらいか。
その間に俺は武器の項目を確認していた。
武器は残念ながら3つしか入ってなかったけれど、どれも有効そうだ。
《トウエイ シマスノデ オヘヤノ デンキヲ ケシテ クダサイ!》
俺は指示どおりに消灯した。すると、リリの箒の先がプロジェクターのように光を出して、壁に映像を映し出した。
森、森、森。
……めちゃくちゃデカくないか?この森。
しかし幸いなことに、どうやら俺たちが着陸したのは森の端の方だったようで、出口はすぐ近くにあったようだ。街道のようなものが見える。
《ウエニ イクト カゼガ ツヨクテ ウマク イキマセンデシタ》
それはしかたないよ。小っちゃいもん。
「お疲れさん。じゃあ、リリを収納」
十分働いたリリをアイテムボックスにしまう。
よし、移動は明日して今日はもう寝るか。といっても時差ボケで全然眠くないけど。
「寝袋かなんかある?」
『ベッドがありますよ』
やったね。
至れり尽くせりとはまさにこのことよ。
「お湯とかだせる?」
『出せます。あと五右衛門風呂もあります』
何で五右衛門風呂なんだよ!?
普通の風呂でいいのに!
その後、森の真っ只中で入浴するという超貴重体験を済ませて、床についた。
「お休み、ジャネット。これからよろしくね」
『お休みなさい、マスター』
◆◇◆
「うーん、いい朝だ」
チチチチという小鳥のさえずりが耳に心地よい。
降り注ぐ日光に照らされる植物はキラキラと輝いて見える。
昨日は結局眠れずに、目録をポチポチ確認して夜を明かした。
「リリを出してくれ」
『イエス、マスター』
光の中からドローン魔法少女が降臨した。
「リリ、街道までの案内ってできるか?」
《オマカセ クダサイ!》
よし、今日でこの森を抜けて、速攻で街に行って、パパッと情報収集して、サッサと元の世界に帰ろうか。
〈時の女神号〉をアイテムボックスに収納した俺は、リリを先頭にして歩き始めた。