エピローグ 祭り
巨人狩りの夜から約2週間が経過した。
損害を受けた建物などの修理も土魔術を用いた修理であらかた完了し、街は日常を取り戻しつつある。
そんな中、シャルドラでは少しの変化が起きていた。
まず、街を小さな可愛い銀髪の魔女っ子が手紙の入った袋をぶら下げながら飛び回るようになった。
その愛くるしい姿と遠方に手軽に連絡できる利便性から既に根強いファンを獲得している。
リリの箒の後ろにたまにギルド長が座っているのは幻覚だと思いたい。
そしてそれに関連することだが、シャルドラの飛行魔術を使える者たちの間で箒が爆発的に流行し始めた。
中でもキリリカが載っているモデルが一番人気であり、箒屋は予想外の需要を獲得した。
郵便局は既に人を雇い始め、バーバラ商会運営の元活動を開始している。
俺はトムの奴隷だった双子の姉妹、ミリルとエリルをエルフィスの使い特権を行使して受付に抜擢した。
見た目もそこそこいいし、悪くない采配だろう。
二人は泣いて喜び、一生がんばると言っていたが、そこまでブラックな経営ではないので程々にしてもらいたい。
たまにハリベルさんが冷やかしに行くと彼女たちはガタガタ震えて泣いてしまうそうだ。
ハリベルさんはそれを見た後に、満足した顔をして帰るらしい。
こう言っちゃ何だけどあの人頭おかしいよな。
そして巨人に止めを刺した俺はいよいよ神の使い認定を受けて住民に若干崇められている。
近しい人達にはちゃんと人間であることを説明しているのだが、その他の人間は適当にあしらうことにした。
神殿に行くとセイレさんはもちろんその他の女神官もこれでもかというくらい甘やかしてくるので、エルフィスの使いも捨てたもんじゃないと思っている今日この頃だ。
そんなこんなで今日は巨人の討伐を祝うお祭りが開催されている。
俺はアーシアとチルダを連れて街を散策することにした。
◆◇◆
「まずバーバラ商会の出店に行くか」
「そうですね!」
「賛成!」
バーバラ商会は南区で俺が教えたお好み焼きを販売しているらしい。
リリ(金髪ver)案内の元歩いていると、人だかりの奥に見慣れた赤毛の女達が見えてきた。
彼女たちの出店だ。
その列に並び、順番を待つこと約10分、漸く俺たちの番が来た。
「よう」
「お、ヤマト達か。いらっしゃい」
鉄板を火の魔術で熱しながら、お好み焼きを焼いているのはバーニーだった。
頭に手ぬぐいを巻いていて、なかなか様になっている。
「バーニーが調理してるのか? 下っ端にやらせればいいのに」
「ああ、私たち一族以外だと火力が足りないんだ」
なるほどな、と思いながら取り敢えず3つ注文した。
「どーぞ、なの!」
「特別に無料にしてあげるわ」
受け渡しはロゼとマリーが担当している。
エプロン姿が似合っていて可愛らしい。
お好み焼きは木の板を皿替わりにして提供しているみたいだ。
どれひと口……。
「ん、うまい」
「美味しいです!」
「お酒が欲しくなるね」
邪魔になりそうなので裏手に回り、マリーの隣に来てペロリと一枚平らげた。
お祭りの雰囲気の中で食べるお好み焼きはいつもより美味しく感じる。
「お前ら休憩とかないの?」
「ん、バーニー姉が朝から焼きっぱなしだからそろそろロゼ姉が交代なの!」
「ふーん。じゃあバーニー借りてってもいい?」
「おっけーなの!」
そういうわけでバーニーを連れ出すことに成功した俺たちは取り敢えずバーバラ商会に戻ることにした。
汗をかいたから着替えたいらしい。
俺はせっかくなので3人に浴衣を提供することにした。
この時ばかりは着付けを教えてくれた母さんに感謝だ。
三人を裸にひん剥いて、少し遊んだあとに、それぞれ好きなものを選んでもらった。
アーシアは水色に金魚の絵が刺繍されているやつ。
バーニーは黒地に鮮やかな花柄の定番。
チルダは薄いピンク色の浴衣を気に入ったようだ。
みんなよく似合っている。
三人が感想を求めてきたので、俺は黙って親指を立てた。
◆◇◆
周囲の視線を集めながら適当にブラブラ歩いていると、ある出店の前にキリリカを見つけた。
「よーキリリカ」
「……ヤマト、よー」
よく見ると手にかき氷を持っている。
ああ、この屋台はミラさんが出しているのか。
「あらヤマトさん、いらっしゃい」
「ミラさん久しぶりー。かき氷四つください」
「はいはーい」
うーん、改めてミラさんを見るとその乳のでかさに驚く。
きっといろんな男があの胸に憧れているのだろう。
それを好きにできているという今の俺の状況に改めて興奮する。
「ヤマト、どこを見ている?」
「えっいや、どこも見てないよ、うん」
「……」
バーニーがかき氷を食べながらジト目で見てくるので、バツが悪かった。
「ヤマトさん、その赤毛ちゃんの家から引っ越してうちに来ない?」
「えっ?」
「おいミラ! ふざけたことを言うな! この淫乱バツイチが!」
そういえばこの二人幼馴染だったっけ。
淫乱バツイチってあながち間違ってないけど酷いな……。
「はぁ? 昔男が居たのは関係ないでしょ? その年まで処女だったアンタが異常なのよ、売れ残りちゃん」
「ぶち殺すぞ……」
かき氷の入ったカップを握りしめてワナワナ震えているバーニー。
このままでは店に放火しかねないぞこの人……。
俺は傍観を決め込んでいると、クイッと俺の袖をキリリカが引っ張った。
「どうした?」
「……私もあれ着たい」
そういってキリリカが指をさしたのはアーシアの浴衣だった。
「いいよ、どこで着替える?」
「……私の家まで転移する」
その言葉を聞いた時には俺は既にキリリカの私室にいた。
ぬいぐるみがたくさん置いてある、女の子らしい部屋だ。
「……よろしく」
キリリカがバンザイの姿勢をとる。
可愛いロリ巨乳と部屋で二人きりでバンザイでよろしくとは……。
いやいやいやいや。
無垢な少女になに邪な気持ちを抱いているんだ俺は。
その後はひたすら無心でキリリカに浴衣を着せた。
赤い生地が彼女の金髪によく似合っていた。
「おー可愛いな」
「……ありがと」
キリリカが写真を取りたいというので2人で記念撮影をしたあとに、さっきの場所へと戻った。
「ご主人様!!」
戻ってきたとたんアーシアが抱きついてきた。
急にいなくなって心配させたようだな。
「よしよし」
「うー、急に居なくなるからビックリしました」
ワシワシと頭を撫でてやる。
愛いやつよ。
そうしてキリリカを仲間に加えた俺たち浴衣の一行は、何処か座れる場所を求めて移動を開始した。
◆◇◆
中央区まで来ると、なにやら騒がしい場所があった。
冒険者ギルドの前にテーブルがたくさん並べてあり、大勢の客が酒を飲んでいたのだ。
ビアガーデンね。
なかなか繁盛してるので、俺たちも一杯やることにした。
みんなで席につくと、店員がすぐさま駆けつけてくる。
「しゃちょー!!」
「しゃちょー! お疲れ様です!」
おっ我が社の従業員であるミリル&エリルじゃないか。
「なんでここで働いてんの?」
「「ギルド長に手伝えって言われました!」」
えーあの人何してんねん。
そういうのは社長である俺を通してもらわないと困るなあ。
そう思っていると当の本人がフラフラと飛んできて俺の頭に止まった
「ヤマトー! よく来たわねー!」
「プリムさん、うちの従業員勝手に使わないでくださいよ」
「細かいことは気にしない! さあ、飲むわよー!」
そう言ったプリムさんはもう出来上がってるみたいで顔が真っ赤だった。
仕方ないので双子たちも座らせて皆で乾杯するか。
「えーそれでは、シャルドラの勝利を祝って……」
「「「「カンパーイ!」」」」
そのあとは2時間ほどみんなで騒いだ。
途中でハリベルさんもやってきて双子が悲鳴を上げた。
ハリベルさんは双子を花屋で雇いたいと打診してきたが、2人が涙目で何かを訴えてくるので丁重にお断りした。
一瞬許可したら面白そうだなと思ったのは内緒だ。
「このあとはどうする?」
「そろそろ炎の舞が始まるころね! 移動しましょう!」
「炎の舞?」
「そうよ。炎の巫女が勝利を神に報告する儀式があるの」
プリムさんによると毎年セイレさんが民の前で演舞を披露してお祭りが締めくくられるそうだ。
それは是非見てみたいな。
「場所は東区の広場だから、そろそろ行きましょう」
◆◇◆
そういう訳でプリムさんとハリベルさんといっしょに俺たちは東区にきた。
そこは既にものすごい人だかりが出来ており、ちょっと出遅れた感がある。
バーニーがロゼとマリーを見つけたので、皆で演舞が始まるのをまっていると、前方の特設ステージの左右にものすごい火柱が立ち昇った。
「うおっ」
「はじまったみたいだな」
すると奥の方から、普段とは違う衣装を身にまとったセイレさんが出てきた。
炎をモチーフにしているのであろうその衣装は、天使の羽衣のようにヒラヒラとたなびいている。
その姿に見とれていると、荘厳な演奏とともに、セイレさんの演舞が始まった。
彼女に合わせて、炎が周りを踊るように飛び交い、神秘的な舞が繰り広げられる。
炎が龍の形に変化したと思えばセイレさんが刀でそれを成敗する芝居があったりと、見ていて飽きない。
クライマックスに入ると、セイレさんの周りの炎が集まり始め、一気に天に向かって飛んでいった。
これが、神への報告になるそうだ。
観客の盛大な拍手とともに、セイレさんの演舞は幕を閉じる。
その光景を眺めていた俺は良いことを思いつき、リリの箒にあるものを取り付けた。
◆◇◆
俺はみんなを連れて北区に向かった。
演舞を終えたセイレも時間があるということなので、いっしょに連れて行く。
みんな浴衣が似合っていて非常に趣がある。
プリムのサイズは流石になかったのでちょっと怒っていたが仕方がないよ。
しばらく歩いて、ようやく目的地にたどり着いた。
――高級娼館〈蜂蜜楼閣〉である。
「え、ここ!? なんて所に連れてくるのよ!!」
「まあまあ」
おそらくここが最適だろう。
俺は迷うことなく中に入っていった。
「こんばんは、フレアいる?」
「ヤマト様! 少々お待ちください!」
何度か通っているのでもう店の女の子全員と顔見知りである俺であった。
女性陣の視線が厳しいが気にしない、気にしない。
ちょっと待っていると、フレアさんがやってきた。
「あらヤマトさんいらっしゃい。お祭りで滾っちゃったかしら?」
「いや、そういうわけじゃないです」
彼女は自然な感じで俺の腕に絡んでくる。
「あらそうなの? 残念。あっセイレもいるじゃない。お疲れ様」
「……どうも、姉さん。ヤマト様から離れてください」
セイレの演舞を姉が労った所で俺は本題に入った。
「ここの屋上って貸出してもらえます?」
「屋上? 別に構わないけれど……」
楼閣の主から許可を得た俺はフレアさんも連れてエレベーターで最上階までやってきた。
そこから階段をつかって、屋上に登る。
「おー高いなー」
流石はシャルドラで最も高い建物。
そこからは城郭都市を一望することができた。
「ちょ、ちょっと怖いんですけど! 帰りたいんですけど!」
ロゼが高いところが苦手というのは誤算だったが、柵もちゃんと付いてるし大丈夫だ。
「ヤマト、ここで何をするんだ?」
「あっちの空をみてて」
俺は東の方角を指差して、手に握っているボタンを押す。
すると、口笛じみた音が鳴り響き、夜空に大輪の花が咲いた。
その一発をかわきりに無数の花火が星空に打ち上げられ、みんなの顔を様々な光が照らした
火薬ではなく立体映像なのだが、本物にしか見えない。
「わー綺麗!!」
高所の恐怖は何処へやら、ロゼは飛び跳ねて喜んでいる。
みんなも言葉を失ってキラキラと輝いては消える花火を見つめていた。
プリムは花火に向かって飛んで行ってしまったようだ。
花火を見ると思い出すのは幼い頃に母さんに連れてもらった花火大会だ。
行きいたいと泣き叫んだ俺を無理して連れて行ってくれたあの人は今何をしているだろうか。
「これはヤマトの故郷の文化なのか?」
「そーだよ」
「……やっぱり、帰りたいか?」
「うん。でも皆と出会えて本当に良かったと思ってるよ」
「そうか……」
憂いた顔をしたバーニーはそっと俺の手を握った。
こちらに来た時はこれからどうなってしまうのか不安でいっぱいだったが、今ではこの生活も悪くないと思っている自分がいる。
今まで漠然と生きていた俺だが、最近ひとつ新たな決心が芽生え始めていた。
地球に帰ったら、一生懸命勉強して、〈時の女神号〉を調べよう。
そしてこっちの世界にいつか戻ってこよう。
俺にとって一番「楽」な生活は、きっとその先にある――。
これで一章は終わりです。
二章を投稿するのは少し時間がかかると思います。
村開発の話にしようと思っているのでお楽しみに!




