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未来から異世界へ来た男  作者: 岸涯小僧(がんぎこぞう)
シャルドラと緑の巨人
20/26

楼閣を統べる者

 暖かい朝日を浴びながら縁側であくびをしてくつろいでいる俺。

 庭ではアーシアとチルダが真剣な顔で組手をして汗を流している最中だ。

 俺は頑張る彼女たちにスポドリを差し入れたりタオルを渡したりしながらのほほんと眺めている。

 この前の模擬戦が彼女たちの闘志に火をつけたらしく、最近は毎朝こうしてトレーニングしているみたいだ。

 そういえばこの前のバルドール戦の話に尾ひれがついて、巷では俺がSランク冒険者に快勝したみたいな噂が流れているらしい。

 まじで勘弁してくれと思う。

 そんなことを考えていると組手を終えたアーシアが近づいてきた。


「ご主人様、今日のご予定は?」

「うーん、今日は神殿かな?」


 ◇◆◇


 神殿は俺にとってバーバラ商会に次ぐ居心地の良いスポットになっている。

 なぜなら、美人神官セイレがすごく世話を焼いてくれるからだ。

 俺が眠そうな顔をしていたら膝枕を提供してくれるし、食事も用意してくれる。

 以前申し訳ないので遠慮したらものすごい悲しい顔をされたので、今ではもうされるがままに受け入れれいるのだ。

 アーシアとチルダが後ろに控えているのでちょっと恥ずかしいのだが、もう慣れた。

 好きにするがいい!


「ヤマト様、あーん」

「あーん」


 今日も今日とて俺はセイレのサンドウィッチをいただく。

 薄々気付いていたがこの人はこれしか作れないみたいだ。

 でもそれがどうした。

 美人の作るサンドウィッチに勝る昼食なんてねえだろうが。

 もぐもぐと口の中で咀嚼していると何やら神官たちがざわついていることに気づいた。

 どうやら来客みたいだ。


「あらセイレ、久しぶり」

「……なんのようですか姉さん」


 その人はセイレさんそっくりだった。

 違いは髪の長さくらいだろうか。

 セイレさんが胸のあたりまで伸ばした真っ直ぐな黒髪なのに対して、この人は耳を覆って肩に届かないくらいまでにセットしてありすこし癖がある。

 あとは雰囲気が随分ちがうな。

 セイレさんは清楚なかんじだがこの人は色気がすごい。

 服が黒のワンピースだからというわけではないが、唇の艶といい曲線の魅せ方といいものすごく大人の魅力を感じる。


「今日はセイレじゃなくてこちらのヤマトさんにようがあるの」

「……ヤマト様は今忙しいのです。帰ってください」

「えー? あなたのサンドウィッチに飽き飽きしたって顔してるけどー?」

「!? ヤマト様、飽きちゃったんですか!?」


 いやいや、飽きてないですよとセイレさんをなだめて俺はお姉さんに話しかけた。


「セイレさんのお姉さんですか」

「そうです。セイレの姉のフレアと申します」

「へー。初めましてフレアさん。ヤマトです」


 そう言って握手をするとフレアさんは妖艶に微笑んだ。


「妹が迷惑かけて申し訳ありません。この娘は初めて好きな人ができたみたいで空回りしているんですよ」

「――なぁっ!なに訳わかんないことを言ってるんですか姉さん!」


 うおっ。

 いつもおしとやかなセイレさんが声を張り上げたのでビックリしてしまった。

 文脈からするとセイレさんが俺を好きみたいな話だけどどうなんだろうか。

 エルフィスの使いと勘違いして崇拝してるようにも見えるのだが、もし好かれてるなら嬉しいな。


「と、というか姉さんが一体ヤマトさんになんの用があるんですか!」

「それはここでは言いづらいわねー」


 そう言ったフレアさんは俺に一枚の手紙を渡した。

 リップで封がされている手紙なんて初めて見たわ。


「もしよろしければ今夜そちらをもって北区の〈蜂蜜楼閣〉まで来てくださいな」


 そういったフレアさんは踵を返して颯爽と帰っていった。


「なんだったんだ? セイレさん、〈蜂蜜楼閣〉ってなんです?」

「……〈蜂蜜楼閣〉はシャルドラ一のしょ、娼館です」


 顔を真っ赤にしているセイレさんの回答はなかなか興味深かった。


 ◇◆◇


 その日の夜、俺は護衛をつれて言われた通りに〈蜂蜜楼閣〉までやってきた。

 その楼閣はなんというか場違いな建物だった。

 北区の歓楽街にあるのだが、今まで見てきた洋風の建物とはまったく趣きが違い、五層の黒い瓦屋根が連なった朱色の塔なのだ。

 明らかにここだけ日常と乖離していて、なんだか不思議な気持ちになってくる。


「娼館といえば昔からたくさんの情報が集まることで有名だからな! ここは訪れなければならんな!」


 なぜか言い訳じみたことをいう俺をアーシアとチルダがクスクス笑っていた。


 入口ののれんをくぐって入るとすぐ近くに受付があったので手紙を渡した。

 すると若い受付嬢は驚いて後ろに引っ込み、なにやら上司らしき女の人を連れてきた。


「ヤマト様ですね。お待ちしておりました。主がお待ちですのでご案内いたします」


 そうして連れて行かれたのは狭い個室だった。

 壁が朱色と黒で塗装されていておしゃれだ感じだ。

 なんだここはと思っていると案内の女が天井にぶら下がっている紐を引っ張った。


「おおっ、エレベーターか!」


 どういう仕組みか知らないが上に上昇しているらしい。

 しばらくすると止まったので、外に出てみるとそこにはフレアがまっていた。


「ようこそいらっしゃいましたヤマト様」


 黒い振袖のような衣装を身にまとった彼女は優雅にお辞儀をしたのでこちらも頭をさげた。

 そのまま渡り廊下を進み、右側のふすまを開けて中に案内された。

 靴は入口で脱いだ。

 中は畳になっていて、高級な和室のように花や調度品が飾り付けられている。

 俺たち三人はふかふかの座布団に座った。


「この度はご足労いただき誠にありがとうございました」


 フレアさんが深々と頭をさげるのでこちらもつい頭をさげる。


「それで、本日はなんの用ですか?」

「――単刀直入に申し上げます。我が楼閣の娼婦たちが患っている性病を治していただきたいのです」


 あーなるほど。

 それは娼館にとって切実な悩みだな。


「分かりました」

「無理難題を申し上げているのは分かっております。ですが……えっ」


 今なんて?と聞き返してくるので間髪いれずに「治します」と返答する。


「よ、よろしいのですか?」

「え? 問題あるんですか?」

「娼婦の汚れを神官様が癒すというのは普通は受け入れられないので……」


 あーそういうのがあるのか。


「あー俺は神官じゃありませんし。それに性病は汚れじゃなくてただの病気ですから」


 そういうとフレアさんは目を丸くしていたがやがて笑い出した。


「ふふふっ。神殿で治療してるのに神官じゃないの? あはは、何それ」


 なにがツボにハマったのか急に笑い始めたフレアさん。

 これが深夜のテンションってやつか。


 ◇◆◇


「この中に病人を集めています」


 俺たちが連れてこられたのはこの建物の2階にある奥のふすまの前。

 なにやら嫌な雰囲気がするしアーシアも顔をしかめている。

 黙って立っていても仕方ないので俺はふすまを開けた。


「うわあ……」


 むせ返るような瘴気と娼婦のうめき声を感じる。

 部屋にはところ狭しと布団が並べられており、なかなかの人数である。


「ヤマト、治せるの?」

「まあ、余裕だね」


 ジャネットさんに治せない病気はないのさ。

 俺は早速一人一人診察していき、それぞれの症状に見合った薬を処方していった。

 その効果は絶大で、顔中ニキビだらけだった人は綺麗な美白にもどり、視力がかなり低下していたひとも完全に回復した。

 全員を治療するのには2時間ぐらいかかった。


「ほ、ほんとに全員治ったわ……!」


 フレアさんは信じられないものを見たと驚愕している。

 涙を流しながら感謝の意を述べている娼婦にもみくちゃにされている俺をアーシアが助け出して、ひとまず先ほどの部屋にもどった。


 ◇◆◇


「この度は感謝してもしきれません。この恩は娼婦全員で返していきたいと思います」


 額を畳に擦り付けるフレアさんをなんとか落ち着かせて、俺たちはお茶を飲んでいる。

 なんでもあの娼婦の中には楼閣のNo.2とNo.3がいたらしく、この店にとっては緊急事態だったらしい。


「つきましては今からヤマト様を接待させていただきたいのですが……」


 そういったフレアはチラリと護衛をみた。


「ご主人様、私たちは外で警備していますね」

「ヤマトあとで感想聞かせてね」


 そういって空気を読んだ二人は外に出ていった。


 ――その日は人生で一番精を放った日になった。















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