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未来から異世界へ来た男  作者: 岸涯小僧(がんぎこぞう)
シャルドラと緑の巨人
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見知らぬ森の中での決意

 身体に浮遊感を感じた直後、ドカンという音と共に強い衝撃が走しり、機械の動作が停止したことを確認した。


 自分の身に何が起きているのか全く分からないまま、シートベルトを外し、慌てて入り口まで走って外に出た。するとそこに広がっていたのは、


 森。


 見渡す限りに草木が生い茂っている。真っ暗な夜の森を月明かりが照らし出し、光る虫のようなものが飛び交っている。鳥だかケモノだかわからない声がキィキィと遠くで響いている。


 よく言えば幻想的、悪く言えば不気味。


 草地に足を踏み入れて振り向けば、自分が乗ってきたタマゴ型の装置が鎮座している。これはいったい……。


「……ログアウト! ログアウト! 終了! メニュー! コンフィグ! ログアウト!」


 ……VRMMOにしてはリアルすぎるよな。

 いくら叫んでも何も起きないし、だいたいもうこれが現実だって事ぐらいは察しがついている。

 肌に感じるほのかな風や草の独特な香り、こんなに繊細に表現できる技術があったら人類はとっくに電脳世界に移住している。


「スカイ、ここはどこだ!」

『……インターネットに接続出来ません。位置情報不明』


 右腕に埋め込んである情報端末〈スカイ〉も、ネットに繋がらなければ出来ることが限られる。


 今自分にできることはこの装置を調べる以外に無さそうだな。そう思い、俺は再びタマゴの中に入っていった。


 ◇◆◇


 中を散策していると、デスクのタッチパネルに「ジャネット起動」というボタンが出現していた。ジャネット?なんだろう。


 どうしようか少し悩んだが、これ以上状況が悪くなることはないだろうと思い、押してみた。パソコンの起動音のような軽快な効果音がなったかと思うと、モニターに付いているスピーカーから声がした。


『初めましてマスター。私はジャネットと申します。よろしくお願いします』


 無機質な女性の声だ。


「お前はなんだ?」

『私は、マスターの知識をサポートする簡易人工知能のジャネットです』


 おお、どうやらこいつに聞けば何かわかりそうだな。


「そうか。じゃあ、さっそく質問がある。ここはどこだ?」

『申し訳ございません。位置情報の把握は私には出来ません』


 は?駄目やん。


「じゃあお前何がわかるんだ?」

『はい。私に内蔵されている機能は3つあります。一つは、2300年7月13日における地球のインターネットデータベース情報が全てコピーされており、ネット環境がない状況でも瞬時に疑問を解決できます。二つ目はアイテムボックス検索です。検索または入力していただいた品物をアイテムボックスから取り出します。最後の機能は〈診察〉です。対象者の健康状態を診断し、それに見合った薬をアイテムボックスから取り出します』


 うーん、理解できない言葉が混じってるなぁ。あの映像のおっさんもなんか言ってたけど。

 てか2300年て古すぎるだろうが。


「アイテムボックスってなんだよ」

『はい。アイテムボックスに付いてご説明します。その前に私からマスターにご質問がございます。マスターは診察機能ありのウェアラブル端末はお持ちでしょうか』

「ん?あるよ、ほら」


 俺は腕を前に出してモニターに〈スカイ〉を見せる。モニターが彼女の本体じゃないだろうけど。


 診察機能の付いてない端末はあんまりないと思う。


『畏まりました。ではそちらの端末に私を移したいので、お手数ですが〈ジャネット〉をダウンロードしていただけないでしょうか』

「了解。スカイ、ジャネットをダウンロード」

『了解。ジャネットダウンロード開始。……ダウンロード完了』

「ジャネット、起動」

 

 ……。


(おはようございます、マスター。お手数おかけしました。)


 声が脳内で再生された。


 俺は地声派だけど、〈スカイ〉は考えるだけでもやり取り出来るようになっている。


「音声で」

『畏まりました。それでは遅ればせながら、アイテムボックスについてご説明します』


 正直アイテムボックスとやらよりも、帰る方法聞くのが先だよなと思いつつ、興味深々の俺である。


『まずはこちらを腕にはめてください』


 ピッと音がなると、デスクの下から小さな引き出しが飛び出た。近づいて中を覗くと、そこには金色の腕輪があった。趣味悪いな、と思いながらも左腕にはめると、腕にフィットして、色が肌の色と同化した。


「うお、すごい、見えなくなった」


 腕輪をつけている感覚もないので、普通の状態と変わらない。


『では、〔アイテムボックス、林檎〕と言ってみて下さい』

「アイテムボックス、リンゴ」


 すると目の前に白い光が現れて、カッと弾けたかと思うと、手のひらに真っ赤な林檎が落ちてきた。


 ……すごいな。大掛かりな装置もなしに空間から物体が出現するなんて、信じられない。


 シャクリ。


 林檎をひとかじりして見る。おいしい。


「どういう仕組みなの?」

『……申し訳ございません。地球のデータベースでは該当する情報がありません』


 まぁそうだよな。


「まあいいや。これって何が出せるの?」

『目録がございます。ご覧ください』


 するとスカイからホログラム画面が出現した。


 画面には


 ・食料

 ・飲み物

 ・調味料

 ・衣類

 ・食器

 ・医療品

 ・楽器

 ・建物

 ・文房具

 ・生活必需品

 ・武器

 ・その他

 ・収納したもの


 というカテゴリーがあった。試しに食料を押してみる。


 ・穀物

 ・動物性食品

 ・植物性食品

 ・加工食品

 ・嗜好食品


 細かいな。


「黒毛和牛ある?」

『500㎏ございます。出しますか?』

「いや、いいわ」


 めっちゃあるじゃん!

 まあクローン技術で牛なんて簡単に作れるとはいえ、なかなかの量だ。


「すごいな〜。これは良いものだ!」


 てかこれ持って帰ればすっごい便利だぞ……。

 興奮してきた。


「収納したものってカテゴリーが目録にあるけど?」

『はい。ではまずスカイを林檎に向けて、〔サーチ〕と言ってください』

「サーチ」


 するとスカイから赤外線のような光の線が伸びて林檎を捉えた。


『では〔収納〕と仰って下さい』

「収納」


 するとまた白い光現れて林檎を包み、今度は中心に光が一気に収束して、林檎とともに消えた。


 目録の〈収納したもの〉を押すと、〈かじりかけの林檎〉と文字で表示された。


「わお」


 便利極まりない。


「これを作ったのはあのポールとかいうじいさんだよな?何者だよ」

『ポールに関する情報は全て削除してあります』


 はああぁ?なんでやねん。


「ちなみに、元の場所に戻る方法とか分かる?」

『わからないですが、ポールのメッセージから察するに、”帰還の魔術”というものが必要なのでは無いでしょうか』

「あぁ…そんなことも言ってたな。あの俺を転移させた機械はもう使えないの?」

『はい。私、ジャネットの起動を最後に、〈時の女神号〉は全ての活動を停止しました』


 まじっすかぁ。てかあれそんな名前だったんかい。


「……なあ、これから俺どうしたらいいと思う?」

『マスター、私は唯のデータベースであり、判断を下すことができません。ただ、古い大衆小説の中に似たような状況に陥る物語が1000件以上ヒットしました。その中では、森を抜けて人里に向かい情報を集めるという選択が多くなされています』


 1000件って多いな!


「……よし、嘆いても状況が良くなるわけじゃないし、元いた場所に戻るために効率よく行動していくか」

『イエス、マスター』


 未だに状況を飲み込めていないが、とにかくここに居ては何もできない。


 ごめんな、爺ちゃん。蔵の整理途中でほっぽりだして。


 帰ったらいいもんもって帰るから、まってろよ!


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