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未来から異世界へ来た男  作者: 岸涯小僧(がんぎこぞう)
シャルドラと緑の巨人
19/26

VSヒルダ&ダンガボルト

 バルドールさんの家は中央区の所謂高級住宅街にそびえ立っている。

 普通一般住宅に「そびえ立っている」なんて表現は使わないが、ことバルドール邸に関しては問題ないと思う。

 なんというか、縦にでかいのだ。

 おとぎ話のお城を小さくしたようなものと言えばいいだろうか。

 まあとにかく豪邸なのだ。

 そんなバルドール邸の前に俺は今立っている。


「ここがあの〈結界老〉の家かー」

「チルダはバルドールさんのこと知ってるのか」

「もちろんだよ。傭兵団の団長がよく話してたね。あいつには攻撃を当てることすらかなわんって言ってた」


 チルダはけっこう冒険者界隈の情報に詳しい。

 俺は最初冒険者というのはあんまりいい職業ではないと思っていたのだが、武功をあげれば有名になれるし、モンスターの素材も結構高く売れるので意外と人気の仕事らしい。

 かといってなろうとは思わないけどな。

 さて、取り敢えずあそこの門番に紹介状を渡すか。


「すいませーん。私、伊賀ヤマトという者なのですけれども――」

「! エルフィスの使い様ですか!」


 ものすごい反応を見せた門番は大きな男だった。

 前に治療した、歯がない人ほどではないが、筋肉で膨れ上がった身体に鎧を来ているのでやたらと威圧感がある。

 茶髪を短く刈り上げており、目がギラついているおっさんだ。


「お館様の目に光を灯していただいて、我々バルドール一門、心より感謝しております」

「いえいえ、バルドールさんにはこちらもお世話になっていますので」

「おお、謙虚なところも素晴らしいですな。では、どうぞ、お入りください」


 そういった門番は門の前で仁王立ちして、両腕に力を込め、足を踏ん張りながら門を押し始めた。

 ゆっくりと鈍い音を上げながら奥に開いていく黒い鉄門。

 どんだけ重いんだよ。

 なんとか開いた門を抜けて、玄関まで100mくらい歩いた。

 その途中の道の左右は庭になっているのだが、巨大な白い狼が放し飼いされており、こっちに向かってきたので急いで中に入った。

 鎖で繋いどけよ!


 ◇◆◇


 バルドール邸に入ってすぐ、家令のおじいさんが近づいてきて、バルドールさんの私室に案内してくれた。

 途中で使用人や兵士?らしき人が頭を下げてきたが、自分はそこまで人格者ではないのでものすごい恐縮だった。

 私室にはバルドールさんの他に見知った顔がいた。


「ヤマトじゃないか! よく来たね! こっちから会いに行こうと思っていたんだが」

「ヤマト!! この歯は素晴らしいぞ! わはは!」


 えーと、ヒルダさんと旦那さんか。

 キャラが濃かったのでよく覚えている。

 たしかヒルダさんとバルドールさんが昔の冒険者仲間だったっけか。


「お久しぶりです。元気そうで何よりです」

「おお、ヤマト。ちょうどいいところに来たな。まあこっちに来て座れ。獣人のお嬢ちゃんたちもな」


 バルドールさんに促されて、俺たちは赤いソファに座った。

 木製の机を挟んで対面にヒルダ夫妻、いわゆるお誕生日席にバルドールさんという配置だ。

 アーシアはそうでもないがチルダの様子がなんだかおかしい。

「うるわし」だか「きょつい」だか、ぼそぼそ呟いている。


「今日は何の集まりだったんですか?」

「今日はね、お前さんにやる報酬をみんなで考えてたんだよ」


 お団子頭の少女にしか見えないヒルダさんが笑いながら答えてくれた。

 報酬か。

 もらえるものはもらっておきたい。


「それはありがたいです。何をいただけるんですか?」

「私たちは昔パーティーを組んでいっしょに旅してたんだけどね、その時ダンジョンやら何やらでいろいろアイテムを手に入れてんだ。その内の1つを進呈するよ」


 はー。

 ダンジョンのアイテムか。

 確かにお金よりそういう俺が持ってない便利な道具の方が嬉しい。


「どんな道具が欲しいとか希望はあるか?」

「そうですね……。あっ俺馬に乗れないんで何か移動するアイテムとかありませんか?」


 これはいつも感じていたことだ。

 これから先シャルドラを出たりするとどうしても馬に乗る必要があるが、あれは俺には無理だ。

 ケツが痛いし疲れるし、危ない。

 ロゼには笑われたが無理なものは無理だ。


「ほう、移動か。それならいいものがあるぞ」


 バルドールさんが指を鳴らすとどこからともなく家令が現れて何かをもってきた。

 対応が早すぎて怖い。

 どうやら大きめの布のようだ。


「こいつは〈天糸の絨毯〉というアイテムだ。簡単に言うと空飛ぶ布よ」


 空飛ぶ布。

 いかにも魔法のアイテムって感じの代物だな。


「取り敢えず乗ってみろ」


 そういってバルドールさんが布を放り投げると、空中に広がって静止した。

 藍色の生地に白い羽根をかたどった刺繍が大きく施されている。

 恐る恐る上に乗ってみた。


「よし、それでなんとなく感覚で操作してみろ」

「なんとなく!? わ、分かりました……」


 えーと。

 上にいけ~。上にいけ~。

 なんとなく上に上がるようなイメージをすると本当に絨毯が浮上しはじめた。


「おー! すごい!」


 コツがつかめた俺はバルドールさんの私室を縦横無尽に駆け巡ってみる。

 魔法の力なのか全然振り落とされず、風の抵抗も感じない。


「おーうまいもんだ。多分お嬢さんたちを乗せても大丈夫だと思うぞ」

「ホントですか!?」


 おれはチルダとアーシアを乗せてみた。


「きゃー!」

「すごいです!」


 うーん三人で乗ってもすごく安定している。

 これはいいものだ!

 俺は上からバルドールさんに話しかけてみた。


「こんなにいいものいただいちゃっていいんですか!?」

「俺はそんなもんいらん。だってほれ」


 そういったバルドールさんは軽く2mくらい垂直跳びしたかと思うと、落下することなく空中で止まった。


「え!?」

「俺の固有魔術〈結界箱〉だ。空中に透明なブロックを出現させて自在に操ることができる」


 どうやらバルドールさんの下には見えない足場があるらしい。

 それをバルドールさんは操っているので、空中で直立したまま移動しているようにみえる。

 そりゃ絨毯いらんわな。


 めちゃくちゃ便利なものを頂いた俺はホクホク顔だ。

 やはり持つべきものは権力者の知り合いだな。

 そう思っているとヒルダさんが思いもよらない提案をしてきた。


「そっちの子達は豹人族に闘犬族だね。どうだい、あたしたち夫婦と一戦交えて行かないかい?」

「えっ」


 その言葉を聞いた俺はちょっと不安になったが、アーシアとチルダはどうやらやる気みたいだ。

 たしかに俺はこの二人が戦っているのを見たことがないのでいい機会かもしれない。


 ◇◆◇


 急遽模擬戦をやることになった俺たちは場所をかえて庭に出てきた。

 周りには見物の兵士らしき人もちらほら集まってきた。

 初戦はチルダとヒルダさんの名前似てるコンビが戦う。


「まさかヤマトの奴隷になって初めて戦う相手が〈麗しのヒルダ〉とはね」

「おや、あたしのこと知ってるのかい」

「戦う女であなたのことを知らない人はいないですよ」


 どうやらヒルダさんは戦う女達の中で有名人らしい。

 神殿で旦那を吹っ飛ばしたときには只者じゃないと思っていたけど……。


 二人が距離をとって戦闘態勢になったところでバルドールさんが開始の合図を告げた。


「はじめっ!!」


 ――告げた瞬間、庭に台風が来た。


「うおっ!」


 ものすごい風圧をうけて俺は腕で顔をおさえた。

 なんとか前を見ると、黒い影が猛スピードでぶつかり合っている。

 ときどきヒルダさんが芝生を足でえぐりながらスピードを殺すときに現れるが、チルダは常に動いていて目で追いきれない。


「ほれ」

「――!」


 ヒルダさんが止まり、豪速で襲いかかるチルダを待ち伏せて掌を打ち出した。

 すんでのところでチルダが勢いを殺したことでようやく目視できたが、今度はチルダの目の前にいたヒルダが消えた。


「どこ!?」

「上だよ」


 いつの間にか上空にいたヒルダはかかと落としの体制だ。

 これはよけられないと防御の姿勢をとるチルダだがそれは悪手だったみたいだ。


「おりゃ」

「がっ!?」


 かかと落としの体制だったヒルダはもうそこにはおらず、チルダの背後から回し蹴りをかましてきた。

 完全に決まった蹴りに豹人族のチルダは敗れてしまった。


「そこまで!」


 バルドールさんが終了の合図を告げて、二人はこちらに集まってきた。


「チルダと言ったね。アンタは強いよ。アタシ相手によくここまで耐えた」

「げほっげほっ。いやー、噂に違わぬ強さでした。完敗です。ヤマト、無様な姿を晒してごめんなさい」

「俺には何が何だかわからなかったがよくやったチルダ」


 もう相手が悪かったとしか言い様がない。

 チルダの豪速に追いつける人なんてこの人以外にはいないだろう。


「あれって固有魔術ですか?」

「そうさ。転移系の魔術で、ちょびっとしか移動できないけどある程度連発できる」

「〈麗しのヒルダ〉がすごいのはそれだけじゃないよヤマト。足を強化する魔術を使うあたしに生身で対応するんだからこの人」

「わはは、それに加えてヒルダは怪力だからな。最後の蹴りが本気だったら臓物が吹き飛んどるわい」


 そういった夫に対して「余計なこというんじゃないわよ」と蹴りを食らわせて吹き飛ばしたヒルダさんは確かに怪力だった。


 ◇◆◇


「はじめっ!!」


 続いての試合はヒルダさんの夫ダンガボルトさん対闘犬族のアーシアだ。

 流石に体格が違いすぎると俺は抗議したが、闘犬族にそんなものは関係ないらしい。

 開始直後、数秒お互い睨みあった二人。

 方や色白で顔に幼さの残る女の子。方や身長2m超の筋肉ダルマ。

 その両者はゆっくりと近づき合い、相対した。


「わはは、闘犬族とやるのは久しぶりだ。先に来い小娘」

「……行きます」


 アーシアは今回篭手なしの素手で戦っている。

 なにが始まるのかと思ったら、アーシアは正拳づきの構えをとり、渾身の打撃をダンガボルトの腹にぶち込んだ。

 やあ!という掛け声とともに放たれた剛拳は風を切り、筋肉だるまの腹をえぐるように打った。

 ビリビリとした振動がこちらまで伝わってくる。


「ぬううううう!」


 一切防御の姿勢を取らなかったダンガボルト。

 両足で踏ん張るも芝の地面が耐え切れず、10センチほど土をえぐってどんどん後ろに後退した。

 ――しかし倒れず。


「……だめでしたか」

「見事な拳。次は俺の番だ」


 地面を踏み鳴らしながら元の位置に戻ってきた彼はとても楽しそうだ。


「ゆくぞ」

「はい!」


 ダンガボルトは足を相撲の四股のように開き、右腕をゆっくりひいた。

 十分に引かれたその丸太のような腕がまるで巨弓のように打ち出された。

 張り手だ。


「あああああああ!」


 アーシアの腹筋に打ち出された手はまるで館を震わせるかのような衝撃を放った。

 先ほど後退したダンガボルトよりも倍以上後ろに行くアーシアだが足は根性で踏ん張り抜いて決して吹き飛ばされなかった。

 ようやく止まったアーシア。

 なんとか堪えようとしたが、ついに膝をついてしまった。


「そこまでっ!!」


 俺は急いでアーシアに駆け寄った。


「大丈夫かアーシア!」

「……ご主人様っ……ごほっ」


(ジャネット、どうだ!?)

(大きなダメージを受けたようですが急速に回復しています。大丈夫です)


 よ、よかったー。

 闘犬族がどれほどのものか分からない俺には冷や汗ものだった。


「わはは、大丈夫かアーシア」

「は、はい。もう大丈夫です。ありがとうございました」

「やはり丈夫な体だな、闘犬族は」


 そういってポンポンと肩をたたくダンガボルトはものすごい爽やかな汗をかいていた。

 きっとお互いパワーファイターとして通じるものがあるのだろう。

 俺も柄にもなく感動してしまった。

 周りで涙を流している兵士ほどではないが。


 ◇◆◇


「最後は俺とヤマトだな」

「えっ!? 俺もやるんですか!?」


 まさかの指名だ。

 おいおい、エルフィスの使い(他称)に何をさせるんだ。

 でも周りも期待しているみたいなので仕方なく受けることにした。


「大丈夫だ。一秒で終わるのでな」

「むっ」


 Sランク冒険者め。

 調子にのってやがる。

 ダンガボルトさんが始めの合図をしたので、俺はとりあえず突っ込んだ。


「おりゃあああ、痛っ!!?」


 ゴンと何かにぶつかった。

 これはあれか、結界か!


「ヤマトを結界の中に閉じ込めたのでな。もう出られん」


 くそー!

 このジジイ、ただ能力自慢したかっただけかよ。

 一泡吹かせてやる!

 そう思って俺はありったけの力を込めて見えない壁に蹴りを食らわせた。


「おら!」


 俺の最大の一撃は無情にもバルドール結界にカキンと弾かれた。

 ふっ万策尽きたぜ。


「……驚いた。これは俺の負けだな」

「はい?」

「俺の結界にヒビが入っている。お前を侮っていた俺の慢心が招いた結果よ」


 よく見るとたしかに少しヒビが入っていた。

 ヒビが入ったところで俺は出られないのだが、バルドールの矜持に傷を付けれたらしい。

 よく分からんが、俺の勝ちだ。


 ヒルダさんとダンガボルトさんに「よくやった!」と褒められ、アーシアとチルダに尊敬の眼差しで見られた俺はかなり気分がよかったが、バルドールさんは修行に行くといってどこかに行ってしまった。


 その後は家に帰りチルダとアーシアに高級焼肉を振舞ってぐっすり眠った。

 なかなか充実した一日だった。





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