写真とアイスクリームと枕営業
トムが事件に関与している可能性がかなり高いようなのでバーニー達は警戒を強めている。
俺たちが暮らしている本部は魔術で警備されているらしいが、支店に在中している従業員などに注意喚起し、さらに警備の人員を増やすようだ。
しかしそれでも俺は心配なので、取り敢えず今日はチルダとアーシアに彼女たちの護衛を命じておいた。
犯行の裏付けがすめば、トムはお縄だ。
バーバラ商会は安泰だろう。
がんばれシャルドラの捜査員たちよ。
そして今日俺は魔術師ギルドに向かっている。
シャルドラに来た時にここで帰還の魔術の捜索を依頼したことを思い出したからだ。
手数料を払っているので何かしらの情報が欲しいところだが果たして……。
◇◆◇
「帰還の魔術を使用できる魔術師は当協会には登録されていませんでした。帰還の魔術という魔術自体の情報もまだ得られておりません」
「そうか……」
綺麗な白髪の受付嬢に告げられた言葉は俺の心にズッシリと響いた。
魔術師ギルドって名前からして魔術の専門家が集まってそうだから、その組織がダメとなるとこれはいよいよ手詰まりなのではないか。
そう思いどんどん気持ちが沈んでいくと不意に後ろから声をかけられた。
「……ヤマト、久しぶり」
声の主は以前声帯の治療をしてあげたキリリカだった。
金色の御髪を可愛いボブカットにしている女の子で、あどけない顔に眠たそうな瞳が似合っている。
相変わらず赤色を基調としたローブに施されている金色の刺繍がすごくかっこいいな。
そして顔はロリっぽいのに胸がそこそこあるのも男の子に受けそうだ。
「久しぶり、キリリカ。調子はどう?」
「……絶好調」
無表情な顔をしながら指をピースにするキリリカ。
魔術師なので声は大事なんだろうなあと思っていると、受付嬢が何やらプルプル震えていることに気づいた。
「こらー!」
「うわっ何だよ!?」
急に両手を突き上げて怒り始めた魔女っ子受付嬢に困惑を禁じえない。
「キ、キリリカ様になんて口の聞き方を!」
「キリリカ様?」
キリリカの方をちらりと見てみる。
もしかしてすごい人だったのか
「……別に構わない。ルシアは大げさ」
「大げさだぞルシア」
初めて知った受付嬢の名前を気安く呼んでみた。
どうもこいつロゼと同じキャラのような気がするんだよな。
「ヤマトさん! キリリカ様はですね、あの勇者アルベルトの仲間にして〈至高の魔女〉の異名を持つ英雄マリーベル様の血を受け継ぎし方なんですよ! キリリカ様は〈至高の魔女〉の一族の中でもとびっきり優秀なお方でして、ルックスもとてもキュート!! それにその華麗な魔術たるや……」
顔の前で手を組みながらクネクネし始めたルシアは完全にトリップしてた。
こいつはヤバイ奴だ。
でもこれは使える情報かもしれない。
「ルシアはキリリカのファンなんだな?」
「はいっ! それはもう、母親のお腹にいた時からファンです!」
「そうかそうか、じゃあキリリカ、ちょっとルシアの隣に並んでやれ」
「……こう?」
俺がそう指示すると、フッとキリリカが消えた。
「えっ!?」
「きゃっ!?」
俺はキリリカが受付カウンターに瞬間移動したことに驚き、ルシアはキリリカが隣にいるという事態に驚いていた。
これが転移の魔術というやつか。
まあいい、ルシアを餌付けする作戦開始だ。
(ジャネット、カメラとプリンターを頼む)
(イエス、マスター。カメラは高画質のポラノイドがあります)
(ポラノイドってなに?)
(カメラから直接印刷できます)
そんなカメラがあるのか。
そうして光の中からカメラを取り出した俺は撮影にとりかかった。
「キリリカ、ピースして」
「……ぴーす」
カチャリ。
撮影した画像は瞬時にカメラから印刷された。
ルシアは恍惚な表情で放心している。
「ルシアよ、これを見ろ」
「ふぇ、な、なんです?」
意識を取り戻した彼女は写真を認識すると目を見開いた。
「ふぉ、ふぉー! これはっ、これはー!!」
鼻息を荒くして興奮しているルシアはまるで宝の地図でも見つけた少年のようだ。
キリリカも写真を覗いて驚いている。
手に取ろうとしたルシアの手が届く前にヒョイと写真を高く持ち上げた。
「あっ! ちょっと! 届かないっ!」
ピョンピョン跳ねているけど背が小さいので届かない。
なんかウサギみたいだ。
「欲しいか?」
「く、下さいっ! 何でもします! 何でもしますからぁ!」
「帰還の魔術の情報が入ったらくれてやろう」
「えっ!? それまでお預けですか!?」
「そうだな。事前報酬としてキリリカのピン写真をやるか」
俺は、キリリカ一人を写真に収め、ルシアに渡した。
キリリカは写真に写るのが好きみたいで、楽しそうだった。
「家宝にします……!これは一生の宝です!」
「キリリカとのツーショットが欲しかったら頑張れよ」
「はいっ!」
ルシアの餌付けが完了した俺はキリリカがこちらをじーっと見ていることに気づいた。
「どうした?」
「……ヤマトと一緒にとる」
そういって俺の隣に彼女が来たので、ルシアにカメラを渡してとってもらった。
ルシアはものすごい悔しそうな顔をしていた。
◇◆◇
魔術師ギルドをあとにした俺はキリリカに誘われて一緒に食事をとることにした。
治療のお礼に奢ってくれるらしい。
案内された店はシックなカフェだった。
黒い木造の建物に吊るされた赤い看板がアクセントになっていて、客の目を引きそうだなと思った。
中に入ると木製の机や椅子がこじゃれた感じで配置されていて、奥のカウンターには店員と思われる青い髪の女の人が立っていた。
「あら、キリリカじゃない。いらっしゃい」
「……来た」
「こんにちはー」
俺たちは女の人の前のカウンター席に二人で座った。
近くで見るとなかなかの美人であることがわかる。
歳は30前後だろうか、熟した色気のある人で青い長髪を片側に流していて、毛先が軽くウェーブしている。
くっきりとした奥二重も魅力を引き立てている。
でもやはり一番目を引くのは胸。
エプロンをツンと押し上げる爆乳は神官セイレといい勝負だ。
「あら、イケメン。彼氏?」
「……違う。……声治してくれた人」
「えっ、あらそういえば喋ってるわ!?」
声が治っていることに気づいていなかったようだ。
たしかに元から無口そうだから気持ちはわかる。
とりあえず俺はミルクを頼んだ。
キリリカもミルクが好きだそうで、二人して同じものを頼んだ。
でてきたミルクを飲んで俺は少し驚いた。
「冷たい!」
「ふふ、驚いた?」
シャルドラの飲食店の飲み物でここまで冷えているものは無かったので驚いたのだ。
俺としては飲み物が冷えているのは普通のことだが、シャルドラでは新鮮である。
「……ミラは冷却の魔術が使える」
なんでもこれはミラさんの固有魔術だそうだ。
キリリカが才能を見出して、ミラさんが商売に活かしたらしい。
「へー。じゃあこのお店すごい人気なんじゃないですか?」
「今まではお陰さまでかなり儲かってたんだけどね。最近王都でものを冷やす魔道具が開発されたらしくて……。それがシャルドラに入ってきたら競争優位も終りね」
悲しそうに肘を机に付きながら手を頬に添えて微笑むミラさん。
む、胸が机の上に乗ってやがる。
俺的には今まで築いてきたブランドとミラさんの容姿があれば十分やっていけると思うがどうだろう。
「……ヤマト、何かいいアイデアない?」
キリリカがこちらを見つめてお願いしてくる。
うーん、冷却の魔術かー。
「ミラさんは水を凍らすことってできます?」
「うん、できるわよ」
「じゃあこういう道具があるんですけど……」
そう言って俺が出したのはかき氷機。
何でこんなものがアイテムボックスに入っているのかは知らんが目録のその他の所にあった。
「なーに、これ?」
「これはですね、ここに氷をいれて、下に皿を敷いて、レバーを回すと……」
シャリシャリシャリ。
かき氷が完成した。
レモン味のシロップをかけて、ミラとキリリカに出す。
ミラとキリリカは一口食べて、感心した。
「へえ、氷をくだいて果汁をかけるだけで料理になるのね」
「……なかなかいける」
二人は氷をそのまま楽しむというのが新鮮だったようだ。
でも俺、かき氷ってあんまり好きじゃないんだよなあ。
正直あんまり美味しくないし、アイスの方が好きだ。
(ジャネット。なんか簡単にアイスを作る方法知らない?)
(そうですね。レモンの果汁と蜂蜜を混ぜたものに冷やしながら卵白を加えて混ぜるというのはどうでしょうか)
ミラさんの隣に行ってジャネットに言われた通りに調理してみた。
冷やすのはもちろんミラさんにお願いする。
俺がどこからともなく卵や蜂蜜を出したことに驚いていたが、「固有魔術です」のマジックワードで切り抜けた。
「出来ました」
俺は完成したアイスクリームもどきを二人に進呈する。
彼女たちがそれを口に含んだ瞬間、顔がほころんだのが見て取れた。
「おいしいわー!」
「……最高」
なかなか好評のようだ。
二人はペロリと平らげておかわりを所望してきた。
俺はこれが本物のアイスクリームだと思われるのもなんなのでハーゲン○ッツをだした。
これには女性陣もたまらなかったようで、キリリカでさえ顔がだらけきっている。
キリリカは何度もおかわりを要求してきたが、あんまり舌が肥えるのも良くないと思って一度拒んでみた。
しかし頬を膨らませて怒るのが可愛かったのでついつい出してしまった。
「ミラさん、蜂蜜と卵って仕入れられるんですか?」
「蜂蜜は今も仕入れているから大丈夫よ。でも卵はどうかしらね」
たしかに卵は鮮度があるから仕入れるのも大変そうだな。
とりあえずは俺が提供してあげることにしようか。
そういうとミラさんはとても喜んでくれた。
あんまり流通にかかわるのもあれだけど、少しだけならいいだろう。
◇◆◇
翌日おれは卵を届けにミラさんのカフェを訪れた。
俺を出迎えてくれたミラさんは化粧をばっちりキメており、服も薄手のシャツにロングスカートと気合が入っている。
卵を納品しようとした俺はミラさんに呼び止められて、ニ階の奥の部屋に案内された。
その部屋は寝室だった。
部屋にはベッドしかない。
もう一度言う。
ベッドしかない。
これはもしかしてもしかするともしかするんだろうか。
ベッドの前で俺とミラさんが向かい合う。
「ヤマトさん。あのね、私これからもヤマトさんから卵を仕入れたいんだ」
「そうですか」
「それにね、ほかの店にも卸して欲しくないの」
そういうとミラさんはぐっと俺の方に体を預けてきた。
彼女の豊満な胸が俺の身体に密着し、アレが瞬時に反応した。
「ふふ、元気ね」
「ミラさん……」
俺は辛抱たまらず、ミラさんの弾力のある尻を鷲掴みにして下半身を押し付けた。
顔をギリギリまで近づけ、ミラさんに語りかける。
「旦那さんはいないんですか?」
「二年前に死んだわ……あっ」
その言葉を聞くやいなや、俺は彼女をベッドに押し倒した。
その日俺は現実で初めて「旦那より大きい」という言葉を聞いた。




