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未来から異世界へ来た男  作者: 岸涯小僧(がんぎこぞう)
シャルドラと緑の巨人
16/26

墓穴(ぼけつ)

 

 窓から射す日差しが俺の顔に当たり、目が覚めた。

 のそりと起き上がり、欠伸をして辺りを見渡すと、両隣にチルダとアーシアが寝息を立てている。

 昨日はバーニー達に配慮して激しい行いはなかったものの、声を殺しながらの触れ合いを楽しんでしまった。

 美人2人といっしょの部屋にいて何もしないというのは健全な男子には無理だ。

 不可能。

 チルダの褐色の艶やかな肌とアーシアの雪のような柔肌には逆らえません。

 そう自分に言い聞かせながら、外の空気を吸いに出かけることにした。


 庭に出ると、馬小屋の方から水を撒くような音が聞こえたので、誰かいるのかと覗いてみた。


「あらヤマト、早いわね」

「ロゼか。何してるんだ?」

「馬小屋の掃除よ。今日のアンジーとペータの世話は私なの」


 ロゼは小屋の中に井戸から汲んできた水をまいてブラシで擦っているようだ。

 水を運ぶだけでも重労働だろうに。


「手伝おうか? 水なら出せるし力仕事なら役に立てるぞ」


 いくら楽がモットーの俺とはいえ、ロゼのような少女が一生懸命働いているのを黙って見ている神経は持ち合わせていない。


「あらありがとう。じゃあお願いしようかしら」

「任せろ」


 俺は水を馬小屋にぶち撒けて汚れをはき出す作業を担当した。

 その間ロゼは藁で馬を丁寧にブラッシングしている。

 馬に楽しそうに話しかけながら仕事をしているロゼを見ていると心が和んだ。

 早起きしてよかったな。


 ◇◆◇


「いつもこんな大変な作業をしているのか?」

「こんなの大変の内に入らないわ。前はあと2頭いたけどへっちゃらだったもの」


 馬周りの仕事を終えた俺たちは縁側に座ってひと息ついている。

 冒険者に強奪された愛馬を思い出しているのか悲しげな表情をして空を見上げるロゼに心が痛んだ。


「馬が好きなんだな」

「家族みたいなものよ。一緒に育ったし、大事な荷物を運んでくれる大切な存在」


 確かに、馬たちはロゼにすごく懐いているみたいで、ブラッシングされていた時はどこか幸せそうな顔をしてるようにみえた。


「私が戦えたら荷物もアッシュもガルドも盗まれなかったのに!」


 足をバタバタさせながら悔しがるロゼ。

 アッシュとガルドとは馬の名前だろうか。


「相手は冒険者だろ? 下手に攻撃したら手痛い反撃を喰らってしまうよ」

「知らないわよ! ていうかあんなの冒険者じゃなくて犯罪者よ、犯罪者!」


 最後には泣き出してしまったロゼを慰めながら、俺も何だか彼女達を襲った犯罪者にはらわたが煮えくり返ってきた。


 ◇◆◇


 みんなで朝食をとり、今日は家でダラダラして過ごそうと決めていたら、バーバラ商会に珍しく来客があった。


「やあバーニーにロゼ、それにマリー! みんな無事でよかった!」


 やってきたのは少し太った男。

 白いシャツに黒のスラックスを着ている赤い髪の中年だ。

 七三分けが恐ろしく似合っていない。


「トムおじさんですか……」


 バーニーの反応を見るとあまり歓迎されていないみたいだ。

 でも一応客は客なので、応接間に通して紅茶を振舞っている。

 トムとやらは紅茶の香りを楽しむこともなく一気に飲み干した。


「塩を護衛に奪われたんだって? 大変だったなぁ」

「はい……本当に大変でした……」


 俺は小声でロゼに「この人誰?」と尋ねると「お母さんの兄」という答えが返ってきた。

 伯父さんね。


「私に何か手伝えることはないかね?」

「いえ、自分達で何とか乗り切ってみようと思います」


 キッパリとそう言うバーニーに対して、トムは腕を組みながら諭すように語りかけてきた。


「強がりはよくないよ、バーニー。塩がないんじゃ利益どころか違約金で借金地獄だろう。このままじゃ大変なことになってしまう」

「いえ、バーバラ商会の緊急用の倉をあけましたので、塩はなんとか間に合いました」


 そうバーニーが返すと、トムは苦虫を潰したような顔をした。

 喜ぶところなのでは?


「緊急用の倉? 聞いたことないぞそんなものは」

「誰にも言うなと母から言い聞かされていて……。ご心配をお掛けしました」

「……しかしだね! これからもこういうことがあったら命がいくつあっても足りないだろう。私のところに来るのが賢明だと思うがね」


 うーん。

 確かに女3人で心配なのはわかるけど、このオッサンの所には行かないほうがいいだろう。

 こいつの目は保護者の目ではなく、完全に飢えた男の目だ。


「伯父さん。心配してくれるのは有難いのですが、やっぱり私たちは自らの手でこの商会を運営したいと思っていますので……。この話はもうしないでください」

「ふぅむ……」


 顎を指で弄りながら何かを考える動作がいちいち気持ち悪い。

 するとトムの視線が俺の方を向いた。


「ところでこの男は誰だ」

「ああ、彼はヤマトと言います。たまたま行商の帰りに拾いまして、恩があるので客間を提供しています」

「初めまして。ヤマトです」


 とりあえず挨拶した。

 絶対このオッサン俺のこと嫌いだろう。

 すごい睨みつけてくる。


「ふん、エルフィスの使いだか何だか知らないがね、私はこの男が一番怪しいと思うよ」


 ええっ!?

 何故?

 突然の暴論に部屋にいる全員がポカンとしている。

 アーシアは牙を剥いて怒りを露わにしていた。


「だってそうじゃないか。何でマリーが怪我をしたタイミングで偶然治癒魔術師が現れるんだ? 大森林の近くに何の用事があって1人で居たんだ?」


 な、なるほど。

 意外としっかりした理論に少し感心してしまったが、反論は簡単だ。


「ナジムさんの前で何でも質問に答えますよ」

「……ちっ」


 馬鹿野郎が。

 シャルドラには最強の門番がいるんだよ!

 トムはバツが悪くなったのか「また来る」と言い残して出て行った。


 二度とくんな!!


 ◇◆◇


 馬鹿が帰った後、俺たちは円になってあいつの悪口を言いまくった。


「七三分け似合ってねーんだよ!」

「うざすぎる」

「マリーあいつ大っ嫌い」

「死んでほしいわね」

「ぶん殴ろうかと思った」

「ご主人様に在らぬ疑いをかけたとき殺しそうになりました」


 何でもあの男は金貸しをしているらしい。

 昔はなかなか悪どいことをやっていたらしくバーニーは両親から「あいつには関わるな」と言われていたそうだ。

 悪口大会もなかなか盛り上がった所で俺は最初から疑問に思っていた事を口にしてみた。


「あいつが今回の事件に関与してるんじゃない?」


 そのことはみんな思っていたようで、その可能性は高いという意見で一致した。


「ナジムさんの力って借りれないの?」

「彼の能力を使うには犯人である証拠が十分に揃ってないといけないんだ。ただトムが怪しいことはすでに伝えてあるから現在あいつは特捜にマークされている」


 となると時間の問題か。

 この街の特捜とやらの調査能力がどんなものかは知らんが一刻も早く逮捕してほしい。


「それにな、トムは今回下手を打ったんだ」


 バーニーがニヤリと笑ってそういった。

 どういうことか尋ねると彼女は心底愉快そうにこう答えた。


「ヤマト、私はな、マリーが怪我をしたことをまだ誰にも伝えていないんだよ」


 ……あっ!!







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