デレジ武具店
理解が追いついていない彼女達をなんとか落ち着かせて取りあえず飯にすることにした。
バーニー達は商談か何かで出かけているので奴隷と俺の3人での夕食だ。
そして俺が今焼いているのは最高級神戸牛。
気温の心地良い夕暮れ時、商会の庭にキャンプテーブルとイス、七輪を用意して目の前でこれ見よがしに炭火焼にしている。
「……ゴクリ」
「ヤ、ヤマト、まだか?まだダメか?」
2人の獣人はよだれを垂らしながら網の上の霜降り牛を見つめている。
時々チルダが手を伸ばすも、アーシアが叩いて阻止するという攻防が繰り広げられていて面白い。
「ご、ご主人様。奴隷の私達にはこの様な豪華な食事は文不相応でございます……ゴクリ」
「えっおいアーシア何言ってるんだ! ヤ、ヤマト、食べて良いよな!?」
俺は黙々と肉を焼く。
焼いている3枚のうち良い感じになっている分厚い肉にフォークをぶすりと刺した。
ゆっくりと持ち上げる。
ジュウと肉汁が七輪に垂れ、香ばしい匂いが広がった。
その様子を2人は無意識に口を開けてみている。
可愛い。
「あむ」
2人に見せつけるかの様にかぶり付いた。
スッと歯が通り、二、三回噛むと肉はもう蕩けて無くなった。
ジューシーな味わいが口いっぱいに広がる。
「んーうまい」
まるでグルメリポーターのように肉を喰らい、一枚を平らげた。
「食いたいか?」
チルダはコクコクと頷き、アーシアも肉に夢中だ。
「俺はお前らに身の回りの警護を頼みたいんだ。これから先俺の為に誠心誠意働くと誓うのならば食べてもいい」
「元よりそのつもりです!」
「誓う! 誓うから!」
2人の意思を確認した俺は頷いてフォークを差し出した。
チルダは目にも留まらぬ速さで肉に噛り付き、アーシアは少し躊躇したものの、俺が促すと食べ始めた。
「おいしい……!」
「……! ……!!」
すごい食いっぷりだ。
俺は取りあえずどんどん肉を焼くこと徹する。
ふっふっふ、心を掴むにはまずは胃袋からだ。
「ご主人様、何故この様な豪華な食事を奴隷の私達に下さるのですか?」
「それはもちろん、体調を万全にして護衛をしてもらいたいからだ。良いものを食べることで単純に力がでるし、仕事終わりに楽しみがあると活力になる」
「さすがヤマト、はふはふ、わかってるね、はふはふ」
チルダは猫舌なのか、はふはふ言っている。
「最高の環境を提供するから、最高の仕事をするようにしてくれ」
2人は俺の言葉に目を輝かせていた。
◆◇◆
「ふぃー」
「ご主人様、は、恥ずかしいです」
「ヤマトは大胆だね」
食事の後少し休憩した俺たちは庭で全裸になっている。
五右衛門風呂だ。
ちょっと小汚かった彼女達をシャンプーとボディソープで綺麗に磨き上げて、今は湯に浸かっている。
ちなみに素手で洗った。
「あーフニフニして気持ち良いー」
狭い湯船に3人なので身体が密着している。
俺は彼女達を両脇に侍らせて、腰に手を回し、自分の方に引き寄せている状態だ。
たまに胸も揉む。
「ふぁあ」
「あん♡」
完全に王様気分だ。
こっちに来てから法律などに縛られなくなったためか、かなり開放的にすごせていてその点では幸せだ。
アーシアは初めてみる男の体に顔を真っ赤にしているが、チルダは慣れているみたいで俺のモノを握ったりしてくる。
「にゃは、デカイね」
「チルダ、何が、ふぇえ!?」
でもアーシアには刺激が強すぎるな。
「それで、ヤマトは何者なの?」
チルダが先程部屋でした質問を再びして来た。
誤魔化す事もないので、俺がここに来た理由、帰還の魔術を探していることを丁寧に説明した。
「ご主人さまは居なくなってしまうのですか?」
アーシアが涙目でこっちを見てくる。
ワンコの涙目は心にくるものがあるのでやめていただきたい。
「帰還の魔術がどんなものか分からないからな。アーシアも連れて行けるんなら連れてくよ」
「約束ですよ?」
「私も行くー!」
治療と餌付けで随分慕われたな。
これで信頼の置ける仲間を作ることができた。
「そろそろ上がるか」
「ヤマト、それどうするの?」
チルダが俺のアレを見ている。
「もちろんベッドで鎮めてもらうよ」
開放的な気分の俺は気持ちの高ぶりを抑えられなかった。
その日の夜は獣の様に過ごした。
あれは愛し合うというよりも交尾に近かったと思う。
◇◆◇
「あー腰痛い」
今朝は昼近くまで寝てしまった。
2人は居ないみたいなので俺だけ寝過ごしたようだ。
リビングに行くとチルダとアーシアが近づいてきた。
「おはようございますご主人様」
「おはよーヤマト」
2人は着替えを済ませていた。
たしか俺は服を用意してあげていないので、たぶん帰ってきたバーニーたちが貸したのだろう。
そう思っているとドタバタと誰かが近づいてきた。
「ちょっと! いったい何枚シーツ汚すのよ!」
ロゼだ。
例のごとく顔が真っ赤だ。
「ごめんごめん、弁償するから」
「そういう問題じゃないでしょー!」
赤いポニーテールを揺らしながら怒っているのが可愛かったので、両の頬をつねって伸ばしてみた。
「やへろー!」
ロゼをからかうのはとても面白い。
そうこうしているとみんな集まってきたので、新しい仲間を紹介することにした。
「こっちの豹人族がチルダで、こっちがアーシアだ」
「よろしくなの!」
「ふーん」
「バーニーだ、よろしく」
もう挨拶は済ませてあったみたいだが、改めて俺から紹介した。
「アーシアです。この度ご主人に仕えることになりました。よろしくお願いします」
「チルダだよ。よろしくね」
チルダはマリーを肩車している。
いつの間にか仲良くなったみたいだ。
「すごく優秀そうな護衛じゃないか」
「元傭兵と戦闘民族らしいんだ」
「それはすごいな!」
バーニーは感心したように2人を見ている。
ロゼは何か不機嫌そうだが。
「それで今日は彼女たちの装備を整えたいんだけど、どこかいいとこ知らない?」
「武器屋なら西区がいいだろう。あそこは上級者向けの店が多いから」
「そっか、ありがとう」
西区かー。
初めて行くけど護衛もいるし安心だな。
早速行こうとして玄関に向かおうとするとバーニーが近づいてきて耳元で囁いてきた。
(手が早いんだな)
ゾクリ。
バーニーはニヤニヤ笑ってるからからかっているだけだと思うが流石にやりすぎたな。
世話になっている人の家に女を連れ込んで行為に及ぶのはよく考えたら完全にマナー違反だ。
反省しよう……。
◇◆◇
俺はアーシアとチルダを伴って西区へと繰り出した。
そういえば以前指を治療したデレジさんが鍛冶師らしいので、取り敢えず彼のところに行こうとする。
「リリ、案内を頼む」
《オマカセ クダサイ》
突然光の中からあらわれたリリに2人はビックリしていたが使い魔だと説明すると納得した。
リリについていくこと数分、周りの店とは明らかに規模の違う店の前で止まった。
「でかい」
「大きいです」
「おっきー」
店は2つに分かれていて恐らく1つは工房、もう1つは店舗だと思う。
工房と思われる長屋は煙突から煙を出しており、トンテンカンと気持ちの良い音が鳴り響いている。
取り敢えず俺たちは漆喰で綺麗に白く塗られた二階建ての店舗に入った。
カランカランとベルが鳴る。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
店の奥のレジらしきところにはデレジさんによく似たドワーフがいた。
「ん? 青目黒髪……ヤマトさんか!?」
「はい、そうです」
「ちょっと待ってくだせえ、おーい、親父!!」
ドスドスと店の裏にいく店主。
しばらくするとデレジさんを連れて戻ってきた。
「おお、ヤマト。ようきなすった」
「お久しぶりです。デレジさん」
「お陰様で快適に過ごせてますじゃ」
手のひらを嬉しそうに見せてくるデレジさんに、それは良かった、と言ったところで護衛の武器を探していることを伝えた。
「ふむ、どんな武器をお探しかな?」
「私はナイフとショートソードかな」
「私は……籠手が一番自分に合っていると思います」
アーシアとチルダはもう決まっているみたいなので、早速見せてもらうことにした。
◇◆◇
「このナイフはワシが打った〈デレジナイフ〉ですじゃ。こっちが〈デレジソード〉」
なんて安直な名前なんだと思いつつも鋭く光るきっ先に見惚れる。
持ち手の部分は皮のグリップになっていて持ちやすそうだ。
「えっ、デレジシリーズ!?」
「知っているのか?」
チルダが物凄い反応をみせた。
「デレジシリーズって、〈戦鍛冶師デレジ〉が打った最高峰の武器だよ! もう引退しちゃったからなかなか出回らないんだ!」
どうやら有名らしい。
この人がデレジさんだよと教えたらネコ目をこれでもかと見開いて驚いていた。
「これいくらですかね?」
「フォフォフォ、ヤマトから金は取れんよ」
「いやー、そういう訳にも行きませんよ」
「そうじゃの、じゃあ、あの酒をもらえんかのう?」
物凄い物欲しそうな顔でそう言われたのであらかじめ酒を狙っていたことが分かった。
「それなら全然いいですよ」
そういって俺はバーボンやウォッカといった度数の強い酒をいくつか渡した。
「おお! これじゃこれじゃ!!」
ものすごく嬉しそうに酒を受け取るデレジさん。
好きなだけ武器をもってけと言うのでお言葉に甘えてデレジナイフを50本とデレジソードを2本もらった。
「籠手はこれなんかがいいじゃろ」
バン、と机に置かれた籠手は暗めの赤色をしていた。
何でもヒヒイロカネをベースに炎龍の鱗で加工したシロモノらしい。
「こんなに良いものをいただいていいんですか?」
「この酒の対価にしては安いくらいじゃよ」
謙遜ではなく本気で言っているようなので、本当に酒が大好きなんだなと思った。
籠手をはめたアーシアはシャドーボクシングをしている。
しっくりきたようで、満面の笑みだ。
こうして俺たちは工房のドワーフ全員に見送られて、デレジ武具店を後にした。




