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#05 彼の望み

 その日、僕はマリンモールの入り口付近にあるベンチに座って目の前を行き交う人々をぼーっと眺めていた。マリンモールとは僕が通い始めた高校からほど近い場所にある大型商業施設の名称で、自宅からは自転車で10分といったところだろうか。

 何故、僕がこんな所にいるのか。

 それは、(くだん)の買い物の約束のためである。

 クラスメートの成海鳴子(なるみなるこ)――唯一、僕が心を見ることが出来ない少女。彼女と買い物の案内をしてもらうという約束をしているのだが、しかしそれは、正直ただの口実に過ぎない。

 僕は言った。彼女と友人になる際に“君の事をもっと知るために”と。

 今日もそれが本当の目的であり、買い物も確かに目的の一つではあるがそんなのはいつでも来れる。

 腕時計に目をやり時間を確認する。それから足を組み直しつつ溜め息を吐いた。

 それにしてもやはり人の多い場所は疲れる。こうして見ていると、誰も彼もが考えている事と口にしていることに大きな差異があって、突っ込もうとすれば限が無い。

 例えば、建物内にあるすぐそこのファストフード店で、ドリンクを飲みつつお喋りをしている女子高生の二人組はどうだろう。


『こないだ球技大会あったじゃん? 井上さん? だっけ、あいつマジウザかったんだけどー。髪引っ張ってくるとかホントあり得ないわ。っつーかバスケごときでマジ過ぎだっつーの』

『あーそうだよねー』


 と文句を垂れる一方の女子だが、もう片方は然して興味なさげに相槌を打つ。その心内はこうだ。


《いや、あんたも他人のこと言えないでしょ……。チームメートがミスした時、顔真っ赤にして怒ってたのはどこの誰www》


 僕は思わずガシガシと頭を掻きながら深く嘆息する。

 人間なんてどうせこんなものだ。上っ面だけで仲良さげにしていても、(ふた)を開けてみれば実際には何も無い。表面上だけで(つくろ)っている人間関係などどうせ空虚で、軽薄で、うすら寒いものでしかない。

 だが僕は今、それを欲している。

 共に喋り、共に遊び、そして共に笑うことに憧れてしまったのだ。

 それには手が届かないと思っていた。なぜなら僕にとってそれは、表面などではなく、上っ面でもなく、紛れもない本質だから……。僕は知ってしまっている。真実を包み込む嘘を知っているからこそ、それを許容できない。

 だが彼女だけは違った。

 たとえ成海がどれだけ嘘で取り繕おうと、僕には知り得ない。初めて友人というものを理解できる気がした。彼女を知る事で何かを見つけられる気がしたのだ。

 マットが敷かれた床の一点を見つめながらそんなことを考えていると、サンダルを履いた一組の足が目の前でピタリと止まった。続いて鈴の鳴るような明るい声が耳に届く。

「柏野くん、お待たせ!」

 顔を上げると、そこに成海がいた。ピンクを基調とした裾が短めのワンピースに、編み込みバッグを肩にかけている。腰まである亜麻色の髪が、入口から吹き込む海風でふわりと舞った。

「ごめん、待たせちゃったよね。どのぐらい待った?」

 僕の顔を覗き込むように、不安げに尋ねてくる。今日も変わらず彼女の頭上には何も見えない。そのことに微かに安堵(あんど)しつつ立ち上った。

「10分ぐらいかな……。だけどそれは僕が早めに来た所為だから気にしないで良いよ。今が丁度11時だ。それじゃあ早速、日用雑貨の店に案内して」

「うーんと、確か二階の向こうの方だったと思うよ」

 言いながらセンターコートのエスカレーターへ向かって歩き出す。

 大丈夫だ。方向は間違っていない。

 というのも、既に構内案内図を見て確認済みなのだ。だが案内してもらうのを口実にしている以上、あまり口を出すのも良くないだろう。なので取り敢えずはしばらく彼女に大人しく付いて行く事にした。

 歩きながら、成海がふと顔を横に向ける。その視線の先にはあのファストフード店がある。

「あ、そうだ。今日のお昼はワックで良いかな? あたしあそこのチーズバーガー好きなんだー。こうやって友達と出掛ける時ぐらいしか行く機会ないから……」

 僕が反対するとでも思ったのか、最後の方だけ自信なさげに尻すぼみになってしまう。

「ああ、それでも構わない」

 何気なしに答えたつもりだったのだが、意外にも言葉尻を捉えて訊き返してきた。

「それでも、ってことは他に食べたいものとかあった?」

「いや、2時前には帰れるだろうと思っていたから……」

 今が11時なので、僕の買い物に30分、成海の買い物に2時間かかると見積もっても余裕がある。だが成海は何か思う所があるのか、納得いっていない様子で頭を抱えていた。そして何かを数える様に指を折る。

「……終わるかなぁ」

 今のやり取りのどこに謎に思う部分があったんだろうか……。やはりよく分からない。

 ともあれ、せっかく提案してくれたのだ。それに断る理由もない。

「でも君があそこで食べたいと言うなら、僕は一向に構わないよ」

「だけど柏野くん、もともと帰るつもりだったなら、家の人がお昼ご飯作って待っててくれたりするんじゃないの?」

 僕からすれば随分と的外れな、無用な気遣いだった。

「いや、それはないよ。そもそも食事を作るのは僕の役目だから。父親には昼食はどこかで適当に済ませてくれと言ってあるから心配ない」

 僕が出掛ける時はいつもそうしているので当然の事のように話したのだが、どうやら成海の目には異なって映ったらしい。ほえ~っと感心したようにこちらを見ていた。

「柏野くんって料理も出来るんだ、すごいね!」

「料理ぐらい普通に出来るだろう……」

 若干呆れ交じりに言うと、成海はとんでもないとでも言いたげにぶんぶん首を振った。

「全然だよ! あたしなんか、この間お母さんが味噌汁作ってるの手伝おうとして、お豆腐切ろうと思ったらぐちゃぐちゃにしちゃったもん。料理出来る人って結構簡単そうにやってるけど案外難しいんだよねー」

 あはは……と少し困ったような笑みを浮かべて頬を掻く。僕はそんな彼女の様子をじっと見つめていた。

 傍から見れば特にどうってことないような会話に見えるだろう。けれどその時の僕は――


 こんな当たり障りのない会話をして、一体何を考えている?


 なんて、知らず知らずのうち、その態度や言動から成海の裏を読もうとしていた。仕方がないと言えば仕方がない。僕の経験則に基づくと、たいてい多くの人はこういうどうでも良い会話をしている時は内心、別の事を考えているものなのだ。

 そして気付いた。その上で、幻滅してしまった。

 成海が相手であっても全く変化のない自分にだ。人間の性格や癖なんかはそんな簡単に変わるものじゃないらしい。

 自然と俯きがちになる。視線の先には、チェス盤のように交互に色の違うマットが敷かれた床がただあるだけだ。

 僕が黙ってしまった所為で、彼女との間に沈黙が下りる。もしここが放課後の教室や屋上みたいなひと気のない場所であれば、きっとその静寂は耳に痛かったかもしれない。だが幸い、通りすがる家族連れやカップルの楽しげなやり取りがそれを和らげてくれた。

 気付けば生活用品コーナー。日用雑貨→の吊り看板が天井から下がっていた。

 ふと顔を上げた成海もそれに気付く。

「あ、ここみたい。じゃああたし、そこの本屋さんでちょっと時間潰してるね」

 言って日用雑貨の店の丁度向かいにある書店を指し示す。

 僕は小さく首肯すると日用雑貨のコーナーに入っていった。


 それからおよそ30分と少し経って、会計を終えた僕は書店に足を踏み入れた。本棚の間の通路を一つ一つ捜して行く。すると少年コミックスの棚の前で中腰になって、並ぶ漫画の単行本をキラキラした目で眺める成海の姿があった。

「成海」

 呼び掛けるとこちらに振り向く。それから少し驚いたように、大きな目をぱちぱちと瞬かせた。

「柏野くん、もういいの!? 随分早いね?」

「そうでもないだろう」

「いやいや早いよー! だってあたし、買い物するときいっつもどれ買おうか迷っちゃって、一つ買い物するのに1時間以上かかっちゃうこととかよくあるし。結局買わない事もあるし!」

「それは衣類やアクセサリー類を選ぶときの話だろう? 日用品を買うのにそこまで時間がかかるなんて僕は聞いた事ない」

「あ、そっか」

 もしも成海がこんな頭の悪い会話を自然にしているのであればかなりの重症だ。ああ、こういうのを確かアホの子と言うんだったか。

 ともあれ、僕の用事は済んだことだ。次は成海の買い物に付き合う番である。ぶっちゃけてしまうと面倒くさくはあるが、約束してしまったものは仕方がない。

「それで、成海は何を買いたいんだ?」

「あたしのは一階だよー。多分この真下あたり」

「じゃあ行こう」

 踵を返して書店を後にする。エスカレーターに向かって歩いていると、とててっと後ろから追い付いてきた成海が横に並んだ。興味深げに袋の中を覗いてくる。

「それにしても結構買ったね~。何買ったの?」

 などと言っているが、実際は対した量ではない。ただ物が物だけに嵩張(かさば)ってしまうのだ。特に鍋とか。

「そんなに大した物は買ってないよ。洗剤に柔軟剤、あと詰め替え用シャンプー、ラップ、トイレクリーナー、食器洗い用スポンジ、箱ティッシュ、アルミホイル、キッチンペーパー、脱臭炭……」

「お母さんみたいだ!?」

 成海が目を丸くして驚きの声を上げる。

 いや、それは言い過ぎだろう。因みに僕の母親がこんなものを買って来た覚えはない。我が家が少々特殊な事は承知しているが、なるほど、こういう役目は他の家庭では母親が担うものなのか。

 しかし今口に出して思ったが、やはり少し買いすぎたかもしれない……。

 と、その僅かな後悔が顔に出ていたのか、成海がふふっと楽しげに微笑んだ。それからいつの間にか一階まできていたエスカレーターからステップを踏んで降りると、ふわりとワンピースを翻す。こちらに手を差し出してきた。

「片っぽあたしが持ってあげるよ」

 その好意はありがたいが、僕もそこまで図々しくはない。

「いや、それは流石に申し訳ない。それより成海の買いたいものって何」

 続いてエスカレーターから降りた僕は言いつつ、ぐるっと首を廻らす。先ほど成海は、自分が行きたい店は書店の真下だと言った。ならあちらの方か……。

 と思っていると、既に彼女がそちらの方向へ歩き出していた。

 続いて後を追おうと足を踏み出そうとした所で、その先にいた数人の女子集団が目に留まり、ぴたりと足を止めた。

 自慢じゃないが、僕の記憶力はそこそこ良い。殊に、他人の名前と顔を覚えることに関しては。

 そこにいたのはクラスメート達だった。女性用水着売り場の前に(たむろ)して、きゃいきゃいと何やら楽しげに談笑している。時折手元の水着を手に取っては、また笑い声を上げた。

 そこに成海が駆け寄っていく。

「みんな! 偶然だねー!」

 そう呼び掛けた事で彼女らはそこで初めて成海に気付いたらしい。声のした方を向いて、驚き交じりに彼女の名前を呼んだ。

「あ、鳴子! どしたのこんな所で?」

「水着買いに来たの! みんなも?」

「そーそー。ならさ、鳴子も一緒に選んでこーよー」

 成海は水着を買いに来たのか……。

 いや、そんなことはどうでも良い。ただ、その様子を少し離れたところから眺めていて、僕は思わず感心してしまった。成海が集団に溶け込んでいく、その早さにだ。

 だが更に驚くべきは、彼女らの誰もが成海に悪感情を抱いていない事だった。5、6人が集まっていれば、一人ぐらいその人物に対する不満を持っていても良さそうなものだが……。もしかしたら、そういった点に成海が他の人間と違う事についてのヒントがあるのかもしれない。

 そんなことを考えていたからだろうか。我知らず彼女らを凝視してしまっていたようで、女子の内の一人が僕に気付いた。

「あ、柏野くん」

 すると成海以外の女子全員が僕の方へ目を向ける。僕の姿を確認すると、一様に顔を輝かせる。だがその表情はすぐに(かげ)りを見せた。

「えっと……」

 皆、戸惑いの籠った目で僕と成海を交互に見比べる。


《鳴子と柏野くんにほぼ同時に会うなんてさすがに偶然じゃないよね……? この間は二人とも何でもないって言ってたけど、やっぱりそういう関係なんじゃ……》


 多少の差異はあれど、共通して、女子たちはだいたいそんな事を考えていた。

 なるほど。たとえ友達同士であっても男女が二人でいるとそう解釈をされるのか。次にこういう機会があった時は気を付けなければ。とはいえ、成海はそんなふうに思われたままでは色々やり辛かろうし、この誤解された状態のまま放置しておくわけにもいくまい。

「成海とはついさっき偶然そこで会ったんだ。……それじゃあ僕はこれで失礼するよ」

 軽く会釈をし、彼女らに短く別れを告げる。成海は、何故そんな事を言うのか訳が分からないといった様子で小首を傾げるが、急に何かに思い至ったらしく、ぽんっと手を打つと胸の前で小さく手を振った。

「あ、うん! またねー」

 何をどう納得したのか多少心配ではあったが、まぁいい。

 それに続くように他の女子たちも、「じゃーねー」やら「また今度ねー」など言って僕を見送る。去り際、僕は彼女たちの頭上を一瞥(いちべつ)した。


《あー。やっぱり付き合ってなかったんだー……って何でホッとしてんだろわたし》


 誤解が解けていることを確認して、僕はふっと短い溜め息を吐いた。すぐそこに出口はあるが、自転車を停めているのは反対側の駐輪場だ。こちら側へ来た時は二階を通って来たが、今度は一階をそのまま行く。

 歩きながら考えていた。

 正直、あの手の勘違いにはうんざりだ。

 人間とはなんて面倒なんだろう。ほんの些細な感情の揺れですれ違いが生まれ、溝は次第に大きくなり、そしていずれ気付くのだ。その溝がもう埋められぬほど深く、越えられぬほど広くなっていることに。

 僕は今までそうして崩れた関係を幾つも見てきた。

 もしかしたら僕が勝手に思い上がっているだけかもしれないが、きっと先ほども、僕が取り持たなければそれは呆気なく瓦解(がかい)していたんじゃなかろうか。

 そこでふと思う。

 僕は何故、彼女らの関係性を保たせようとしていたのだろう、と。

 僕とは完全にかけ離れた場所にある、無関係なもののはずなのに。少なくとも、彼女達がどうなろうと僕に及ぶ影響が皆無な程度には遠い。

 だけど僕は手を貸した。それは何故か?

 その答えを、僕はもう知っている。

 欲するものは近くにあって、それでも未だ届かない。だからせめて、今あるそれを大切にして欲しかったのだ。

 きっとそれは、自己満足に近しいものなのかもしれない。



*********************************



「はああああ!? お姉ちゃんそれ本気で言ってんの!?」

 妹の瑠美子(るみこ)が、あたしの部屋で驚愕に叫ぶ。あたしが何をそんなに驚いているんだろうと首を傾げると、瑠美子は更にいきり立って喚いた。

「いや、水着を選ぶのに男友達と一緒に行くとかあり得ないでしょっ!! しかも二人きりって、いったい何考えてんのっ!! お姉ちゃんのバカ! アホ! マヌケ! コイキング!」

「それ言い過ぎ……」

 とめどなく浴びせられる罵倒に抗議しようと口を開きかけるが、それすらも遮られてしまう。

「これでも全然言い足りないぐらいだよ! ホントどういう神経してんの!? 昔っから、お姉ちゃんって男っ気が無いなぁとは思ってたけど、こんな事が分からないぐらい疎かったなんて思わなかったよっ!」

 最後の方はもうほとんど嘆くように言って、瑠美子は頭を抱えて座り込んでしまった。そんな妹の背中をぽんぽんと叩く。

「さっきからどうしたの? いきなり騒ぎ出して……」

 すると(しか)め面で顔を上げた。頬を膨らませてあたしを(さと)すように言う。

「いい? 考えてもみなよお姉ちゃん……。男子って案外単純だから“これって俺の事好きなんじゃね?”とか思ったりしちゃうんだよ! 彼氏でもない男子と買い物に行って、お姉ちゃんはそういうこと微塵も思ってないかもしれないけど、相手がそうとは限らないんだよ?」

 ぬ……言われてみればそうかもしれない。だけどちょっと待って。そもそも誘って来たのは柏野くんの方であたしじゃない。

「でも誘って来たのは向こうだよ?」

 と反論。これに対して瑠美子がどんな反応をするかと思っていると、思いほか態度を変えずにビシッと指を突き付けてきた。

「普通の買い物ならまだ良いのっ! 私が言ってるのは、目的が水着だったこと! じゃあ聞くけどお姉ちゃん、まさか水着姿を見てもらって意見貰おうとか思ってなかった?」

 問われて、うっと言葉に詰まった。いや、思っていたわけじゃない。けど思ってなかったわけでもなかった。つまり“そういうの全然考えてなかった!”っていうのが本音なところなのだ。

 少々の間を開けて答える。

「……思ってなかった」

「説得力無いよ!」

 瑠美子がまたしても、うわぁぁぁんと床に突っ伏してしまう。しばらくの間「お姉ちゃんがビッチになっちゃったよー!」と嘆いていた。うん、変な誤解を生んじゃうからそういうことを大声で言うのやめようね?

 しかしそう考えると、あそこで偶然みんなにあったのは実は結構助かっちゃった……? うわぁ、無計画って怖いね……(他人事)。

「結局、途中でミキちゃん達と会ったから柏野くんは途中で帰っちゃったんだ……。たぶん、まだ馴染めてない感じがあるから同じクラスの人はまだ苦手なのかも」

 瑠美子に目をやると、突然むくっと体を起こした。不機嫌そうな表情は未だ変わっていない。呆れたように溜息を吐いた。

「はぁ……もういいや。お姉ちゃんはお姉ちゃんだもんね、私はもう諦めたよ。そいで? いったいどんなのを買ったのさ」

 さっきまでとは打って変わって期待の籠った眼差しで、ほいっと手を差し出してきた。まったく調子良いなぁ。

 だけどあたしも今言われるまですっかり忘れていたので、ぽんと手を打ってバッグを開いた。買う時に試着して以来、まだじっくり見ていない。水着を買ったお店のマークがプリントされたレジ袋を引っ張り出すと、口を留めてあるシールを取って中身を取り出した。

「これだよー。みんなは結構似合ってるって言ってくれてたけど……」

 と前置きをして瑠美子に渡す。

 満足げに頷くと、躊躇(ちゅうちょ)なくその場で広げた。

 買ったのは、ブラがホルターネックになっているパンツタイプのセットビキニ。薄いピンクを基調としたボーダー柄のものだ。

 うん、改めて見てみると結構可愛いかも。と思って瑠美子を見る。しかし瑠美子は何とも言えない微妙な表情をしていた。

「うぅぅ~~ん、もうちょっと露出度高くても良い気がしないでもないんだよね……。でも、お姉ちゃんとしてはこれで妥当なところかも……」

 顎に手を当てて何やらブツブツ言っている。一見するとちょっと危ない子だなぁ、外では気を付けて欲しいなぁ。なんて姉目線で心配していると、何を思ったのか瑠美子が小さく首肯した。

「うん、まぁ合格かな。これなら私も安心だ! 存分に海を満喫してくるが良いさ!」

「あ、ありがと……」

 取り敢えずお礼を言ってしまったけれど、よく考えてみたら何であたしの水着なのに妹の許可が必要なの……。そして何で上から目線。

 今度はあたしが呆れ交じりの溜め息を吐く番だった。

「……それじゃあ、そろそろ出てってくれる? 月曜日までに提出のテスト直しがあるんだから」

 瑠美子を無理矢理立たせて部屋の外へ押し出す。するとちょっと可哀想な人を見るような目を向けてきた。

「お姉ちゃん、それまだ終わってなかったの? ――あ、そんなに成績が……」

 そのちょっと色々察してるような視線に、思わずぶわっと涙が出そうになった。どうしてこの妹はこうも痛いところを突いてくるんだろう。

 なんだか姉妹の立場が逆転してるみたいだなぁ、などと他人事のように思いながら瑠美子を部屋から閉め出すのだった。



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