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 バスの車窓から外を眺めていた。

 桜の並木道。だが頭上を彩るのは鮮やかな緑だ。茂る枝葉が、遮った陽光で不規則な斑模様をアスファルトに映し出している。

 バスが低い駆動音と共にゆっくり走り出す。

 景色が後ろに流れ始める。

 唐突に、視界が開けた。

 日射しが直に降り注ぎ、僕は思わず眉根を寄せて目を細める。だけどそこに広がる光景に思わず息を呑み、つい今しがた細めたばかりの目を見開いた。

 海が広がっていた。

 その青さたるや、以前僕が住んでいた東京の海とは比較にならない。この海が、あの曇天のような海と繋がっているなんて到底思えなかった。水面が日光を反射して、まるでスパンコールでもあしらったかのようにキラキラと眩く輝いている。深いエメラルドブルーと、透き通るようなライトブルーの晴天が織り成す水平線は、無限に続いているようにすら思える。その向こうに(そび)える入道雲が、この町にも夏が訪れている事を告げていた。

 その景色に見惚れる様にぼーっと窓の外を眺めながら、バスに揺られる。

 しばらく海沿いの道を走り、ようやく目的地が見えてきた。

 海から道を一本挟んだ場所に建つ、白い校舎。バスの中からだとその全貌を確かめる事は出来ないが、臨海部という立地だと云うのに校舎の外壁は驚くほど傷みが少ない。話に聞いていた通り、まだ歴史の少ない学校であることが窺い知れた。

 そう。こここそが今日から僕が通う高校。

 学校前の停留所にバスが停車する。空気が抜けるような音を立ててドアが開いた。始業前に職員室やら事務室やらに寄らねばならないので、少々早めに家を出た。おかげで始業まで結構な時間があり、バスを降りる生徒もほんの数名程度しかいない。彼らに続いて一番最後に降車する。

 その貝殻のように白い校舎を見上げながら、深く息吹(いぶ)いた。

 きっと、僕が僕でなかったならば。

 新しい土地、新しい生活、新しい出会い。これらを素直に楽しみにしてこれからの高校生活に希望を見出していたんだろう。

 だけど、僕の心には依然として、重い何かが居座ったままだった。


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