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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第92話 実験室

 二階は一階より薄暗かった。しかもどこか湿っぽいし、薬品の匂いがする。階段を上ってすぐ近くに、頑丈そうな扉があった。扉は石でできている。さっきと同じように、俺とアークで頑丈な扉を開ける。かなり重いが、押し続ける。中に入るとそこは、実験室のようだった。


「薬品の匂いがしたのはこれのせいか」


「調べてみよう。何か見つかるかもしれない」


 俺達は、各自散らばって実験室を調べ始めた。頑丈な扉がゆっくりと閉まる音が聞こえる。

 棚には訳のわからない薬品名がびっしりと詰まっていた。ここで一体どんな実験が行われていたんだろう。部屋の中央には実験台と血痕が残っている。生臭い匂いも漂ってきた。

 ふと、壁に小さな窪みがあるのを発見した。手を伸ばして、中に何か入ってないかを確かめる。すると、小さくて冷たい物に触れた。俺はそいつを引っ張りだしてみる。……また鍵だ。だけど今度のは少し違う。見たことのあるような形だ。そう、どこかで。


「…………!」


 思い出した!これは、一年前の謂れ因縁の書の鍵と一緒だ。何故、こんなところにあるんだろう。まあそれはいいとして、これだけでも十分収穫だ。


「何か見つけた、デューク?」


「っ……、いや何も見つけてないよ、ミリーネ」


 クレアにはいいとして、この鍵は他の皆に見せることができない。生憎、謂れ因縁の書は騎士団に置いてきてしまった。帰ったら、確かめてみるか。


「それよりそっちは何か見つけたのか?」


 俺はポケットに鍵を隠して、ミリーネにそう言う。


「見つけたよ。それで皆に集まって欲しいんだ」


 実験台のところに俺達は集まる。ミリーネは、日記帳みたいなのを取り出した。


「これ、何かの実験のレポートみたい」


「本当か!?読んでみてくれ」


 ミリーネは、また表紙をめくって中身を見る。そして、五秒間くらい静止した。


「どうした?」


「……読めない。英語じゃない」


 英語じゃない!?それだったら、俺も読めないな。誰か他にいるのか?


「……貸して」


「あっ……」


 シャーランが強引に日記帳を取り上げる。彼女は日記の文章に目を通す。


「ドイツ語ね。これなら読めるわ」


「そうなの!?じゃあ通訳をお願いしまーす」


 そうミリーネが言って、彼女は日記の内容を言い始めた。


「ああむさ苦しい。一体いつまでこの実験を続けなければならなのだ?昔の科学技術を、今真似しようにも無駄だと言うのに。総帥が命令していると聞いているが、その総帥は脳なしのようにしか考えられない。けれど、命令された以上実験をやり続けるしかない。もう何十体の失敗作が出来上がった。これくらいいれば、戦力にはなるだろうというのに」


 実験の内容は書いていないが、どうやらここで行っていた実験は、総帥が命令したもので、失敗ばかり続いていたらしい。シャーランは続きを読んだ。


「三月八日、新たな被験者を連れてきた。虎獣人の少年のようだ。まだ三歳だから怯えている。あんなことをされれば流石に怯えても仕方ないがな。今度は今までの実験とは違った。様々な実験をあの虎獣人にやらせようとするのだ。言うことを聞かなければ、暴力を振るって、言うことを聞かせる。少年の目はうつろだ。悪趣味な科学者もいて、あの少年を痛めつけるのを楽しむ奴もいた。だが、自分は止める気など全くない。その方が言うことを聞いてくれて、実験をやりやすいからだ」


 虎獣人……リアムのことか。科学者、両親という言葉が一切出てこない。シャーランは日記のページをさらにめくっていく。


「十月三日、例の虎獣人が街で事件を起こしたようだ。警察によって沈静させることに成功したようだが……。今までの我慢が解かれたのだろう。帰ってきたら、死にたいくらいまで痛めつけてやろう。命令が下れば、あんな獣人を殺してしまいたい」


「殺す……」


 シャーランはページをめくっていくが、どうやらもう何も書かれてないようだ。日記はここで終わっているのか。


「待って、まだある」


 シャーランがそう言った。ページをめくりながら他に書かれている箇所を見つける。


「……リアムの観察日記になってるわ」


「……読んでくれないか?」


 シャーランは、その日記に書かれた内容を読み始めた。その内容は、俺達の想像を絶するものだった。

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