表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
93/173

第91話 塔の中にある家

 中に入ると、最初はあまりの暗がりでよく見えなかったが、徐々に目が慣れると、そこにあったのはエレベーターと階段だった。上を見上げれば、天高くに天井があるくらいしか分からない。


「どうする?階段かエレベーターか」


 アークが聞いてきた。普通にエレベーターを選ぶと思うが、この高さだと。


「エレベーターでいこう。時間があまりない」


 誰も反対する人はいなかった。俺達はエレベーターのボタンを押す。ドアが開いて中に入る。一見なんの変哲もないエレベーターに見えるが……。

 俺は最上階と思われる2と書かれたの行き先ボタンを押した。エレベーターのドアは自然に閉まり、上に上がっていくのが感じられた。


「このエレベーター……一階と二階しかないんだね」


「その間に長い距離があるのか……」


 殺風景な箱の中に閉じ込められている気分だった。あまりにも壁が何もないほど真っ白なのだ。


「なあミリーネ、リアムの父親は本当に見たことないのか?」


「うん。以前、この塔を訪ねたときはインターフォンの声からしか聞かなかったから。それがどうかしたの?」


「いや……なんでもない」


 リアムの父親、俺の予想が当たっていればその人は……。だけど、まだ分からない部分がある。

 ……。それにしても長いな、このエレベーターは。そろそろ着きそうな気がするけれど。

 そう思っていた時、音もなく、エレベーターのドアが開いた。

 確かめながら出てみるが、何もない。外へ続く階段があるだけだ。


「到着したみたいだな」


 俺達は、一段ずつ階段を上っていく。外はもう雪が降り止んでいる。月が丸く光っていた。階段を上りきり、外へ出た俺達が見たものは――


「庭園?」


 そう、規模は小さいけれど美しい花々が咲いている庭園があった。水車もあって、絶えず水が流れている。そこに積もった雪が重なって、さらに幻想的な風景を生み出していた。


「これは、リアムのお父さんの趣味なのかな?」


「分からないなぁ。リアムのパパに会ったことないから。それよりあれを見て!」


 ミリーネが指差した方には一軒の家が建っていた。家というより屋敷に近い。そうか、ここは塔という形作っているだけなんだ。この屋敷がリアムが生まれ育った場所……。

 ところで一つ気になったことがある。それは、この庭園が整備されていることだ。誰か住んでいるのか?


「屋敷の中に入ってみよう。もしかしたら誰かいるかもしれない」


 大きな扉がそびえ立ち、俺とアークで扉を開ける。少し重いが大したことではない。……中は豪邸のようだ。どうやらリビングのようで、置いてあるソファやカーペットは高級品に見える。上にはシャンデリアまであった。


「ついさっきまで、誰かが住んでたみたい……」


 クレアの言う通りに、この部屋も綺麗に整っていた。たとえ今いなくても、二、三日前は使っていた感じだ。

 部屋の奥に古びたドアがあった。俺は迷いもなくそのドアを開ける。先ほどまで豪華だった部屋がメルヘンチックで、でもどこか怖い、そんな部屋だ。年齢は三、四歳ほどの部屋で証拠に幼児でも届くほどの高さしかない本棚に、あまりにも小さすぎる椅子とテーブル、おまけにぬいぐるみや人形が天井から吊るされていて、なんとも不思議な空間だった。


「誰の部屋なんだろう……?」


「リアム以外考えられないでしょ」


「そうなんだろうけど……中学生までこの部屋だったなんて考えるとちょっとね」


 クレアが言い淀んだ。この部屋が彼の物だったとすれば、彼の心境は一体……。窓もないし、これでは外の様子を見ることができない。部屋に閉じ込められた気分になる。


「ねぇ皆ー、この絵本を見て」


 ミリーネは、本棚から一冊の絵本を取り出してきた。題名は、『さらわれた王子様』。手描きだ。リアムが作ったのだろうか?


「読んでみるね」


 ミリーネは表紙を開き、書かれている文字を読んだ。


 ――むかしむかし、ある国に一人の王子様がいました。王子様にはお金があるというわけではないですが、優しいお父さんとお母さんがいて、毎日が幸せに包まれていました。

 ある日、遠くから来た悪者が王子様をさらっていきました。両親はいろんな方法で王子を助けようとしますが、どうしても相手は取り繕ってくれません。

 五年が過ぎました。十年が過ぎました。両親の国はいつの間にか廃れていました。王子を助け出そうとして、財力を使い果たしてしまったのです。それでも両親は、王子を取り戻そうとします。そんな時、悪者は 王子を返すと言ってきました。向こうに言われた通りの時間と場所に両親がいたら、悪者がやって来て王子を見せました。両親が見たのは、痩せ細り、哀れな姿で死んでいる王子の姿でした。悪者は、

「お前の国の王子は、死んだ」と言いました。

 その後、両親を見かけた者はいません。噂によると、両親は森の中へと消えていったそうです。おしまい。


「……」


「悲しいお話だね。この絵本、リアムが作ったのかな?」


 ミリーネも言っていたが、確かに悲しい話だ。だが問題はそこではない。この絵本は中学生くらい書かれたものだろう。その理由として、難しい漢字をいくつも使っている。絵本というより、短編小説に近い。このバッドエンドな小説を書いたということは、彼の心の闇は相当深いか、あるいはこれを書いたぐらい出来事があったかぐらいだ。あるとすれば、ミリーネが言っていた人を斬り裂いた事件、あれと何か関係しているのかもしれない。

 この部屋を調べてみたが、絵本以外は特に何も発見がなかった。俺達はリビングに戻る。


「二階があるな……」


 アークが指摘した。上へ続く階段がある。暗い。何も見えない。この部屋が明るいだけなんだろうけど。

 俺達はさらなる探索をするために、二階に上がっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ