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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第89話 ミリーネの話

 十数分くらい歩き続けた。俺達は森に囲まれた公園にたどり着く。人っ子一人いない。ベンチとゴミ箱があるだけだ。ミリーネはそのベンチに座り、真っ白な息を吐いた。


「はあ……やっぱりここは寒いな。別の場所にするべきだったかも」


 ミリーネは目をつぶり、あたかも瞑想しているかのようになる。目を開けた時、彼女は決心をつけた様子だった。


「本当はこんな話したくないんだ。でも、事実はちゃんと伝えないと……ね」


 ミリーネはもう一度白い吐いた。


「それじゃあ話してくれ。お前とリアムの関係を」


「うん。今から約十二年前になるかな、あたしが幼稚園生だった頃に、リアムに出会ったの。彼はとても内気な子だったんだと思う。そのせいでよくいじめられていた。この街には獣人があまりいないんだ。その事もあって、差別を受けていたの」


 いじめられていたんだな、あいつ。ミリーネは尚も話を続ける。


「あたしは最初、いじめがあるだなんて気づかなかった。気づいた時にね、あたしはいじめっ子にやめろって言ったんだよ。そして、彼を助けた。何も言わなかったけれど、感謝しているのはすぐに伝わった。やがて、一緒に話す仲になっていったの。今思えば、あの時が輝いていた時期だったんだと思う。……いじめは、小学生になってもあった」


 ……。彼は無口な理由な大体分かってきた。人間関係というものが最初から、彼には難しかったんだと思った。


「小学生になって、いじめる子が増えていった。集団いじめって言うのかな。教師も、リアムを一切助けなかった。理由は獣人だから。あたしが聞いたら、先生は口々にそう言ったの。あたしはずっと、彼を助け続けた。友達だったから、そうしないと、どこかに行ってしまいそうな気がしたから……。本来、いじめっ子を助けたらいじめられるのは当然だって知っていた。でも、あたしには何故かいじめてこなかった。それどころか、友達になりたいなんて言う人が多くなっていった。正直言って、その時は少し怖かったの。なんで、リアムだけいじめられるのか、ずっと疑問だった」


 彼女は身震いをした。当時のことを思い出したんだろう。雪が降り始めた。少しばかり寒くなる。


「ある日、リアムはあたしにもう助けなくていいって言ってきた。あとは自分で決着をつけるって。あたし馬鹿だったから、承諾しちゃったの。今でも後悔してる。リアムは決着なんてつけていなかった。ずっと耐え続けていたの。今までもずっとそうだったな……。あたしは、約束した以上助けることができなかった。それに、女性として誤解されたら恥ずかしいなんて思ったの。馬鹿だよね、そんな理由で助けるのをやめるだなんて」


 別に馬鹿じゃない。それも理由の一つだ。たとえ助けたとしても、本人にやめてもらう気配がなければ、意味のないことなのだから。他人が頑張り過ぎるのも、よくない気がする。


「中学にあがると、いじめはエスカレートしていった。小学校の時も暴力を振っていたんだけど、中学ではさらにひどくなって刃物まで扱うようになった。服とか毛を切られまくって……見てるこっちも、痛々しかった。彼の体は日を増すごとに傷痕が増えていったの。あたしは、リアムをずっと気にしていたんだけど、何も出来なかった……。そして、事件が起きた」


 雪がさらに激しく降る。黒い雲が空を包んでいた。さっきまで、快晴だったのに……。話を聞き終えたら、急いで戻った方がいいかもな。


「今までずっと我慢をし続けていたリアムがついに、爆発したの。今まで溜め込んでいたものが、全て……。包丁を持って、いじめていた生徒を一人一人、斬りつけていった。止めようとした先生達も斬られた。警察まで呼ぶ事態まで発展したの。あたしはその時、校内にいた。そんなことが起きているだなんて全然知らなかった。あたしが校庭に出ようとした時、あたしの友達に、刃物が向かっていくのが見えた。体全身が危険だと察知して、無我夢中で友達を助けたの……。その時、刃物は肩を思いっきり斬りつけた。血がブワッて噴き出していったのを覚えてる。悲鳴も聞こえた。あたしはゆっくりと、犯人の顔を見た。そこにいたのは、呆然と佇む、リアムの姿だったの」


 そして、彼女は肩を見せた。よく見ると、肩に傷が走っていた。見るだけでも痛々しい。彼女は肩の傷を隠し、話を続けた。


「あれ以来、リアムは学校に来なくなった。彼の家に行っても、会わせてくれなかったの。あたしは一人でリアムのことを聞きまわった。そこで分かったのは、リアムは街の厄みたいに思われていたの……。どうして皆そんな酷いことを思うのか、分からなかった……。リアムが高校に行くと聞いて、あたしはその学校名を聞いた。対白魔騎士団、あたしの進路は決まった。一人ぼっちな彼を、見捨てたりしたくない。せめて、大人になるまで見守りたい。そう決心したの。そして、騎士団に入ってリアムと再会して適度な距離を置きながら助けていたの……」


「それが、ミリーネが騎士団に入った理由……」


 ミリーネは頷いた。リアムのことを聞くと、これは相当やばいかもしれない。そういえば、彼が持ってた写真に写っていた頃には、別にどこにでもいそうな獣人だった。だけど、今回のを聞くと大体幼稚園の頃に目が死んでいったんだろうな。俺はミリーネに聞いてみた。


「ミリーネ、リアムは幼稚園の頃に目は死んでいたのか?」


「うーん、気付いた時にはすでに死んでた気がする。なんかずっとうわの空でさ。生気が始めから感じられなかったなぁ」


「よく、そんな子を助けようなんて思ったね……」


 幼稚園の頃からすでに……でも、あの写真はそれくらいの年頃のはず……。何かあったのか?彼の身に、一体何が……。


「結局、分かるのは彼が相当いじめられていたってことね。彼の家はどこなの?」


「リアムの家は、山のてっぺんにある塔だよ、シャーラン」


 あの塔が、彼の家……。あそこに何かあるのだろうか。彼の秘密とかが。


「取り敢えず、一旦戻ろうよ。ミリーネのお母さんも心配するだろうし」


「うん……賛成!」


 ミリーネがいつもの調子に戻った。俺達は公園から出て、ミリーネの家へと戻った。この時はまだ知らなかった。彼の身に何が起きたのか、そしてこれから起きる悪夢のような出来事を……俺達はまだ、知らなかった。

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