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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第88話 故郷に着く

「着いたな」


 電車を降りると何故か、レモンの香りがした。霧が少しばかり発生している。しかし、これはヴァイス・トイフェルが生み出したものではないようだ。気温はそれほど寒くなく、ちょうどいい感じだ。


「あたしについて来てー!街を案内するから!」


 ミリーネを先導に、俺達は駅から出る。駅の外にはすぐに橋が架かっていた。橋の向こう側に街が広がっている。その周りは、自然で溢れかえっていた。山の斜面を利用しているため、坂がたくさんありそうだ。山のてっぺんに……塔みたいなのがある。


「ミリーネ、あの山のてっぺんにある塔みたいなのは何?」


「あー、それは後で説明するからまずはあたしの家に行こうー!」


 そう言って、ミリーネは橋を渡っていく。ギシギシと音がした。木でできてはいるが、安全ではあるかな。

 街に入ると人々が絶えずに通りを歩いている。いくつか出店があって賑わっていた。


「案外、賑やかな街だね」


「そうでしょークレア。でもね、市場の方はもっとすごいんだから!」


 街の家はほとんどがレンガで造られていた。田舎に住んでた俺からしてみれば、特に珍しい光景ではないのだが、それでも久しぶりに見ると懐かしい感じがする。

 だが田舎とはいえ、こんなに広い街だ。車がいくつか通る光景が見られた。観光客らしき人も見かける。ここは、観光地でもあるのだろうか?


「ミリーネ、この街は観光地でもあるのか?」


「うん、そうだよ。この街の風景が売りなんだ!」


 そうなのか。まあ、街並みはとても綺麗だし、一つ一つの風景を守っている感じが見えてくるな。


「あれ、ミリーネちゃんだよね?」


「あっ、おじさん久しぶりー!」


 出店を開いていた男性がミリーネに声をかけた。


「あらミリーネちゃん、いつ帰ってたの!?」


「マリナおばさーん!会いたかったよー!」


 ミリーネが見知らぬ(俺達からしてみれば)女性に抱きついた。次々と彼女に声がかかっていく……。あの様子だと、相当この街でも目立っていたんだろう。

 俺達は人混みをかき分けて、ミリーネを回収すると、即座にその場から去った。そうしないと埒があかないのだ。


「ちょっとー!離してよー」


「ミリーネ……気持ちは分かるが、俺達の目的は里帰りではない。挨拶くらいはいいがほどほどにな」


「ぶー!」


 ミリーネは頬を膨らませ、怒ったような表情をした。その後も何人か彼女に挨拶をする人がやって来た。年配の人、同年代の人と幅広い。なんでも、ミリーネはこの街では結構有名人だったらしい。その明るい表情が街の元気の源とも呼べていたという。


 一つ、気になったことがあった。この街の人々は誰もリアムのことを気にかける人がいないのだ。騎士団でも同じように、ミリーネほど目立っていたとはとても思えないが、だとしてもだ。ミリーネと一緒に騎士団に入団したということで、わずかながらも話題にあがるはずなのに……。この街でのリアムは一体、どんな人物だったんだろう?


 ミリーネの家はこの街から少し離れたところにあった。彼女の両親にはすでに、俺達が泊まる連絡を受けている。昨日電話してしまったために、彼女の家内は準備をするのに暴れまわったらしい。こっちもいきなりで少し気まずい部分があるが……。


 ミリーネはドアをノックした。中からドタバタと音が聞こえてくる。次の瞬間、ドアが一気に開いた。母親としては若い女性だ。年齢がまだ四十歳を超えていない気がする。


「まあ、まあ、まあ!おかえりミリーネ!元気だったー?」


「ママただいまー!元気だよー」


 母と娘が玄関で抱き合った。彼女の元気は絶対に母親似だろうな。それから十数秒、二人はずっと抱きしめ続けていた。


「紹介するね!右からデューク、クレア、アーク、シャーラン!」


「どうも……」


「お邪魔します」


「あらこんなに!いらっしゃい皆、ゆっくりしていってね!」


 ミリーネの母親の案内で俺達はそれぞれの部屋に通される。この家は案外大きいんだな。部屋数も多そうだし。そう思いながら部屋に荷物を置くと、ミリーネがやって来た。


「ねぇねぇ、皆で公園に行かない?」


 公園か……。ここは彼女の故郷でもある。少しはゆっくりさせてもいいかな。そう思った。


「いいよ」


「よし!じゃあ皆呼んできてね、下で待ってるからー!」


 そう言ってミリーネは、ドタバタと階段を駆け下りていった。この街に着いてから、彼女のテンションが数倍高くなったような気がしてならない。正直言って、今の彼女のテンションについていけないと思う。それでも、俺は皆を呼んで下へと集まった。


「じゃあ行こうー、公園へ!」


「いってらっしゃい、皆」


 彼女の母の見送りに見守られて俺達は行く。


「ところで、公園ってどこにあるの?」


「ここからもっと離れたところ!そこで話せるから……あたしと、リアムの関係を」


 ミリーネは真顔でこちらを振り向いた。さっきまでのテンションとは大違いである。俺達は……彼女に連れられて、公園へと向かった。

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