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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第87話 一方

 イデアルグラース、ヴァイス・トイフェルを裏から操り、この世界を脅かす組織。そして今、再び奴らが動き始めている。コンラッドの裏切り、刀の偽装……計画は、一年前から始まっていた。


 場所は、イデアルグラース本拠地。一人の男が仮面の男と対話をしていた。コンラッドとスドウである。

コンラッドはあのお方を待たせてはならないと思い、数十メートルを急ぎ足でスドウの部屋に向かった。そのため、多少息切れをしている状態で話も途切れ途切れであった。手には刀、破邪の利剣だ。


「スドウ様……デューク・フライハイトが所持していた刀を……持ってきました」


「ご苦労様です。ゆっくり喋っても結構ですよ」


 スドウはそう言いながら、彼が持ってきた刀を手に取った。目で刀の先まで丹念に見る。


「これが……破邪の利剣……」


「はい。まだ確信はありませんが恐らくそうでしょう」


「科学者の私からしてみれば、ぜひともこれを調べてみたいものだ」


 彼らが何故、これを破邪の利剣だと思ったのか。それは、コンラッドが騎士団に潜入をして、デュークが持つ刀の正体を探るよう、スドウが命令したからである。スドウは、一年前のカルロスとデュークの戦いで、ある仮説を立てた。デュークの刀の振り、身のこなしがあまりにも完璧な部分があったからだ。もちろん、黒の騎士団なら当たり前かもしれないが、あまりにも綺麗すぎる。


 スドウは彼を僅かながらも危険視した。今はよくても、いずれ成長してしまえば強大な存在になるのではないかと。そこで、騎士団の情報と彼の強さの秘密を探るために一年前、偽装の信頼を固めておいたコンラッドを送り出した。そして、見つけたのだ。彼の秘密を。正確に言えば、彼の刀の秘密を。


 報告を受けた時、彼は半信半疑だった。この世界に、幻と呼ばれる三種の神器があるだなんて思えなかったからだ。だが彼は、その報告を信じて、あらかじめ用意しておいた刀で破邪の利剣を持ってくるように命じた。そうして今、スドウの手元に破邪の利剣がある。


「もう下がっていいぞ、コンラッド君。しかし君は実にいい働きをしてくれる」


「ありがとうございます」


「そうだ。ついでだからリアム・テルフォードの様子も見てきてくれないだろうか?彼は今回の作戦の重要人物だが人見知りでね……君なら少しは心を開いてくれるだろう」


「……かしこまりました」


 コンラッドはスドウの部屋を出て、真っ直ぐとリアムがいる部屋へと向かっていく。彼はいわば、スドウの持ち駒にすぎない。成果を出さなければ位が下がり、いずれは見捨てられてしまう。そうならないためにも、彼だけでなく他の者も必死だった。


 リアムがいる部屋のドアの前に、彼は立つ。二秒もたたない内に扉が左右に開いた。リアムは部屋の中央にある台に座っていた。さっきまで寝ていたのである。


「目は覚めたか?安心しろ、お前に害は加えない」


「……」


 彼は無言でコンラッドを見つめる。何も言わなければ、何もしない。


「お前がここに来た理由が分かっているんだろうな?」


「……今回の作戦に……参加するため……」


「その通りだ。それも、ただ参加するだけじゃない。作戦の要の部分を担えるんだよ」


 僅かだが、彼の頬が赤くなった気がする。それだけに、彼はとても嬉しかったのだ。やっと、認めてもらえた、と。ところが、コンラッドはリアムに一気に近づき、彼の首を絞めつけた。リアムは必死に抵抗するが離してくれる気がない。先程彼は、害は加えないと言った。彼にとっての害とは、殺す殺さないの害なのだ。コンラッドはリアムの耳元でこう言った。


「だけど勘違いするな。決してお前の存在を認めた訳ではない。お前は化け物、それは永遠に変わらないのだ。人にも獣人にも避けられ、気味悪がれる。そんなお前を誰が受け入れる?どこにもない、ここしかないんだ。分かったな、化け物」


「ぐっ……ガハッ……」


 コンラッドはリアムを離した。咳をして、苦しげに喘ぐ。彼は部屋を出て行った。取り残されたリアムは自分の手の中を見つめていた。


 彼は思った。あいつは騎士団を裏切った。だが、この俺こそが真の裏切り者なんじゃないかと。自分の秘密を一番信頼できる人物にも話していない。怖くて、嘘をついて、傷つけてしまった。一番の裏切り者は、この俺だ、と。



 コンラッドは部屋を後にした。ドアにもたれかかり、さっきの自分の行動にほくそ笑む。彼は人が見せる恐怖が好きなのだ。


「駄目ですよ。逆に怖がらせては」


 スドウがコンラッドの元へとやって来た。というのも、リアムの部屋には防犯カメラが設置されており、スドウはずっと二人の様子を監視していたのだ。


「……すみません。ああいう子はやっぱり苦手でして……」


「まぁ……あれくらいの緊張感があればこっちもはかどるのでよしとしましょうか。コンラッド君、君には今回の作戦の資料を渡しておきますから、それまでゆっくり休んでて下さい。何せ、失敗は許されないのだから……あの方のためにも」


「はっ……」


 二人の男はそれぞれ別の場所へと向かって行った。世界の人々は知らない。これから、何が起こるのか。そして、破滅へのカウントダウンが、徐々に迫っていることを……世界の人々は、まだ知らない。

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