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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第77話 お茶会(クレア視点)

今回、とにかく長いです。

 なんとか、カフェに、たどり着いたー……。

 可愛いロゴのデザイン、ミリーネにここのココアはおいしいって言っていた。少し楽しみだな。外は北風が吹いたりして寒いけれど、中は暖房がきいていそうだった。

 今いる場所は、先程いた森からさらに離れ、近くにある街にいる。この街は毎日賑やかでいつかここに来るのも楽しみにしていた。外出許可は数日前に予約をしていたので問題はない。

 ただやはり冬並みの寒さ!外に出ている人は上着を着たりして寒さをしのいでいた。早く中に入ろう……。


ドアを押して入ると上についている小さなベルがチリンと鳴った。その音に店員さんが気づく。


「いらっしゃいませ。一名様ですか?」


「いえ、すでに待っている人がいるので……」


 わたしはミリーネとシャーランが座っている席を探した。コーヒーのいい香りがする。カウンターでお湯を沸かす音、そして沸かされたお湯がカップに注がれていく。その温かい空気にわたしの心はそれだけでわくわくした。


 シャーランの後ろ姿を見つけた。窓際の席にいる。もう一人いるけれど……ミリーネじゃない。

 わたしは席に近づいた。席に座っていたのはシャーランと……


「シーナ?」


「こんにちは!さぁ座って、あなたを待ってたんだから!」


 シャーランとシーナは隣同士の席に座っていた。わたしは言われるがままに二人の向かいの席に座る。注文をする時に押すインターホン(?)の音が聞こえた。それより、なんでここにシーナがいるんだろう?


「ミリーネは?」


「あの子は用事ができちゃって来られないんだって。その代わりに彼女があたしを呼んだわけ」


「そうなんだ」


 ミリーネに用事か……。あんまりどうでもいいような用事だと思うけど。それより何か注文したいな。折角だから、ミリーネにお勧めだって言われたココアを頼もう。

 わたしはインターホン(?)を押した。ウェイトレスがやってくる。早速ココアを注文した。


「それじゃあ、あたしトイレ行ってくるから」


 シーナが言った。席を立ち上がり、シャーランを通って通路に出る。トイレに行こうとしていた時、彼女はわたしに近づき、耳元でこうささやいた。


「シャーランのこと、頼むわよ」


 そして、彼女は行ってしまった。ちょっと!何を頼めばいいの?わたしが聞こうとした時にはすでに遅く、彼女は遠くに行ってしまった。

 わたしはシャーランを見た。窓の外の景色を見ながらコーヒーをすすっている。飲んでいるの、ブラックだ……。苦くないのかな?

 な、何か話さないといけないよね。このままじゃ彼女も退屈だろうし。でもわたし……そんなに会話力ないからなぁ……。まずは身近な話題からいってみよう。


「シ…シャーラン」


 わたしが名前を呼ぶと彼女は振り向いた。う、ちょっと緊張してきた……。彼女の顔は時々見たことがあるのに。


「最近、寒くない?そろそろ冬物コートを着ないとまずいよね?」


「……そうね」


 ………………。め、めげないめげない。まだまだ。


「ここのカフェ、ココアがおいしいってミリーネが教えてくれたよ」


「……そう」


 ………………。駄目だ、会話が成立しない。わたしも人の事言えないけれど、ここまで来るとな、ちょっと……。もっと他の話題がないかな……。


「……悩み事って、何なの?」


「えっ」


 突然、シャーランがわたしに聞いてきた。悩み事って?


「ミリーネから聞いたの…。相談にのってもいいわ」


 ミリーネ……から?……悩みってデュークの事かな?それしか思いつかないけれど。

 ……そうだね、デュークの関係で少し考えていたし。相談にのってもいいって言われているなら、言おうかな……。別に大したことじゃないけどね。


「シャーランは、恋とかしたことある?」


「ないわね」


 そ、即答だ。わたしは思わず苦笑いを浮かべてしまった。ないなら仕方ないな。


「……わたしの友人でね、わたしに恋しているんじゃないかって思っている人がいるの。でも、その人は自分が恋しているのが気づいていないような状態で、そのせいでわたしも話そうにも話せない状況なの。……わたしは生半可な恋愛なんてしたくない。そこは真剣に行いたいから。……そうなんだけど、わたしとその人とはちょっと複雑でね……」


 これは間違いなく、わたしの本音だ。今、わたしのちょっとした悩みに相談してくれる人がいる。それが正しいかどうか分からないけれど、とにかく言ってみるしかない。


「わたしと彼ともう一人他の人物がいたの。わたし達三人は友人で特にわたしともう一人の人物とは恋愛関係だった。おかしくなり始めたのは五月の頃、その人がヴァイス・トイフェルに食べられてしまったの」


 ヴァイス・トイフェルという言葉に彼女は少しだけ目を見開いた。何かを思い出したのかな?


「わたしと彼はその日以来、二度と話すことはなかった……。わたしも混乱して彼に八つ当たりしてしまって。そして、対白魔騎士団でわたし達二人は再会したの。わたしと彼は仲直りしていつもの関係に戻れた。……正直言って、とても怖いの。親友以上の関係を持ったらどうなるんだろうって、それにもし、似たような悲劇が起きたらと考えるとキリがなくて――」


「戦士としては致命的ね……」


 シャーランがそう呟いた。コーヒーをもう一口すする。


「話を聞いている限り、あなたには甘えを感じるわ。その甘さが戦いに反映されたら、悲劇どころでは済まない。あなたは恋愛を真剣に行いたいって言ったわよね。煮え切らないだったら最初からそんな恋、やめればいい」


 確かに、シャーランの言う通りだ。わたしは甘えている。結局は結ばれることしか考えていない気がするんだ。リックの時もそうだった。わたし……とことん駄目だな……。何も変わっていない。

 わたしは、デュークのことをどう思っていたんだろう?やっぱり、単なる親友かな。今でも変わらない。でも、デュークは変わろうとしている。わたしとの関係じゃなく自分を……。

 わたしはデュークとリック、どちらが好きなんだろうか。昔ならリックだって答えたかもしれない。今でも、リックが好きだって言えるだろうか?わたしが好きな人かわたしを好きな人……。そもそも、わたしに選ぶ権利なんてあるの?恋人を失って、その悲しみをもう一人の親友にぶつけてしまった最低な自分に。そんな権利、わたしには――


「……いっそのこと」


 シャーランの言葉にわたしは現実に戻った。


「もし、彼と恋愛関係を考えてしまうならいっそのこと、友人をやめればいい。そうすれば、あなたは悩む必要はなくなる……」


 そんなの……わたしに出来るわけないじゃない。わたしにそんな勇気なんて……。


「……!それは、ちょっと言い過ぎだと思う」


 本当にそれはそうだ。もっと他の方法があるはず。距離を少し置いたりするとか……。

 シャーランの今の言葉には少し驚いてしまった。そんなことを平気で言えるなんて。……ふと、脳に浮かんだ言葉を口にした。


「……シャーランは、シーナ以外に話せる人や友達とかいるの?」


 思わず聞いてしまった。彼女は答えない。まさかと思ったけれどやっぱり……。


「もしかして、友達がいないの?」


「……」


 彼女は無言のままだった。地雷を踏んでしまった気がする。シャーランに対しての女子の歓声は聞いたことはある。しかし、彼女が人と話している様子はあまり見なかった。

 わたしは窓ガラスに走っている小さなヒビを見つける。そして、こう言った。


「わたしはね、シャーランのことをもっと知りたいの。それはミリーネも同じ。黒の騎士団だし、仲良くなりたいって思っている。でもあなたは、わたし達の誘いを全部断っている。それは、今言った言葉と関係あるの?」


「……」


「友達をやめればいいなんて、言ったからつい気になって……」


 本当は違うかもしれない。彼女は何も答えなかった。他にも気になっていることがある。


「シャーランは、人に触れるのを嫌っているよね?」


 彼女のまぶたがピクッと動いた。次々と言葉が出てくる。もう、それ以上聞かない方がいい。わたしの心の声がそう言う。わたしはその言葉を無視した。無視せざるを得なかった。言葉が、止めさせてくれない……。


「どうして、触れるのを避けるの?せめて理由を教えて。触れたくない理由」


「………言えない」


 シャーランが小声でささやく。教えてくれない……何故?わたしは彼女に手を差し伸べた。


「握手……して」


「出来ないわ」


「一年前、わたしがロープで上がれない時は触れさせてくれたじゃない」


「あれは……特別だったのよ」


「……教えてよ。知りたいの。潔癖症でもなんでもいい。理由をなんで教えてくれないの……!」


 わたしの怒りが爆発した気がする。深呼吸をして、行き過ぎたわたしを落ち着かせる。見ると、彼女の目は怯えていた。何かを怖がっている目、一体?彼女は顔をわたしからでは顔が見えない程、下げてこう言った。


「わたしだって……好きでこうしてる訳じゃない……!」


 パリーン!

 何かが割れる音がした。見るとウェイトレスがコーヒーカップを落としていた。他の店員もやって来て破片を拾っている。

 シャーランはハアハアと息遣いが荒くなっていた。


「ごめんなさい……感情的になってしまって」


「ううん……わたしも、問いつめてごめんね」


 シャーランは時計を見た。すると、席を立ち上がる。コーヒー代と思われるお金をテーブルに置いた。


「この後、用事があるの。シーナには言っておいているから」


 そういえば、シーナのトイレ長くない?今、何しているのよー……。


「……一つ教えられるのは、わたしは潔癖でもなければ、嫌っているわけでもない……。あなたと同じ、怖いだけなの……」


「えっ?」


 シャーランはそれだけを言うと、入り口の方へ向かっていった。待って、今大事なこと言わなかった?怖いってどういうことなの?


「ヒョイ」


「きゃあ!」


 シーナが突然顔を出してきたために、わたしは驚いてしまった。いつからいたの!?


「聞いてたよー。全部」


「全部ってまさか」


「大丈夫、恋のことは誰にも話さないから」


 わたしの顔が真っ赤になっていくのが分かる。は、恥ずかしい!思えば何でシャーランに相談しちゃったんだろう?


「ごめんね。シャーランがちょっと失礼なこと言ったりして」


「全然大丈夫。シーナはシャーランのことで何か知ってるの?」


「まあね。こう見えてあの子のルームメイトだから」


 やっぱルームメイトってすごいな。わたし達が知らないことも知ったりして。


「あの子、ちょっと昔なんかあったんだって。それもあってか他の皆と距離置いちゃったんだよ」


「いじめとかあったの?」


「いじめとは違うのよ。家庭で不和があったって言ってた気がする……」


 外では雪が降っていた。さっきまで晴れていたのに今は曇天模様。雪が地面に落ちてゆっくりと溶けていく。

 ココアが来た。蓋を開けて、水面に映ったわたしの顔を見る。恋愛をやめろ、か。シャーランのその言葉には一理あると思う。それは最悪の場合になった時に使おう。わたし、ついさっき何をしてたんだろう。

 わたしはココアを飲んだ。あったかい。でも、何故か自分の心は温かくはならなかった……。

出来れば誤字・脱字の報告してもらえると嬉しいです。時折――をーーとやってることもあるので……。お願いします。

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