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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第75話 悪夢、悪夢、また悪夢

 俺は長い通路のど真ん中に立っていた。床も壁も真っ白でそれが長く続いている。唯一、物があるとすればおもちゃが……積み木がいくつか散乱していた。アルファベットがあってそれぞれT、E、D、H、Aが書かれている。一回瞬きをすると、また別のものが出てきた。クレヨン……かな。二本の白と黒のクレヨンが俺の目の前に落ちていた。二本のクレヨンは勝手に動き回っていて、互いが互いの色を塗りつぶしていた。最初は互角だったのだが、次第に黒が負けていき、とうとう黒のクレヨンが、真っ二つに折れた。


 突然、俺は走り始めた。背景がグニャグニャに曲がっていく。地面も曲がりくねり、走るのが難しくなる。どうなってるんだ?これ……。

 俺は走り続けた。どんなに行く手は阻んでも、一歩が小さくても走り続ける。誰も、俺を止めることは出来ない。止められるはずがない。

 コツコツと音がし始めた。床がコンクリートになったのだろう。それでも俺は走り続ける。向こうも諦めたのか、背景が曲がることがなくなった。

 やがて、俺は通路に大きな穴を見つけた。中はとても深い。ゴォォォォという音が下から聞こえる。俺は中を覗いてみた。その時――

 ……あ………

 

 誰かに、突き落とされた。ひっくり返って上を見てみたが、顔がよく見えない。どんどんと暗い闇の中へと落ちていく。あぁ、いっそこのままこの何にもないところ暮らそうか。その方が楽に違いない。誰にも縛られないのだから。謂れ因縁の書も、自分の運命とも――。楽になりたい。でも、そんなことが許されるはずがない。

 俺は地面に激突した。別に痛くはなかった。俺はゆっくりと起き上がる。今は取り敢えず、自分の運命に立ち向かっていこう。そう思った。

 その時、誰かの足音が聞こえてきた。俺は身につけていた刀を抜き、構える。どこだ……出てこい。

 右から刃物が出てきた。俺は刀で受け止める。ぐっ……重い。なんて力だ……!

 相手の顔はよく見えない。暗闇の中にいるせいで分からないのだ。それでも刀は見える。理由は俺の目のおかげだ。暗闇でも見える目を俺達獣人は持っている。本来ならば相手の顔も見えるはずなのにどうしても見えなかった。刃物しかないんじゃないか?


 俺の刀が弾かれた。俺は相手の顔(見えないが……)を見る。すると、何か思い出したようだ。


「お前が……お前がリックを……!」


 俺はそう言った。何を言っている?何故リックがここで出てくるんだ?

 突如、スポットライトが現れた。俺だけを照らす光。と、もう一つのスポットライトが現れた。スポットを当てられているのは――


(父……さん?)


 間違いない。俺の父さんが立っていた。何かを叫んでいる。何を言っているんだ?聞こえないよ、父……

 グサッ……

 何かが突き刺さった音が聞こえた。見ると、父さんが背中から心臓部分を刺されている。そのまま、なす術もなく崩れ落ちていく。俺は呆然と立ち尽くし、訳のわからない言葉で、叫んだ。









◇◇◇


 俺は目を覚ました。また、変な夢を見た。どうなってるんだよ。しまった、目をこすってしまったせいで目が冴えてしまった。明日は日曜日だから授業に支障はないだろうけれど、それでも朝まで起きているのは流石に辛い。もう今日は眠れないだろうしな。……ちょっと、夜風に当たってこようか。

 俺はベッドからおりると、ゆっくり……部屋を出た。アークは、ぐっすりと眠っている。

 あの夢は一体何だったんだろう。父さんが出てきて、倒れて、死んだのかな?悪い考えしか浮かんでこない。今回の夢、今までよりどこか現実味を帯びていた。何だろう、嫌な予感がする。俺は身震いをした。


 寮の外は思ってた通り涼しかった。今は九月の中旬になっていた。月も出ており、光が静かな学校を照らしている。俺は伸びをした。……ん、誰かいるぞ。

 あいつは……


「リアム……?」


 そう、虎獣人のリアム・テルフォードがいた。何かを見ている。あれは……写真?

 そうだ!またすっかり忘れていた。ヴィルギルに頼まれていたんだった。チャンスは今しかないよな。聞いてみよう。


「リアム!」


 俺は彼の名前を言った。彼は一瞬驚き、写真をしまうとどこかへ行こうとした。


「行かないでくれ。話があるんだ」


 すると、リアムは立ち止まった。彼はゆっくりと振り返る。


「話……」


「そう、今お前が見てた写真のことを聞きたいんだ」


 リアムは無言で写真を取り出して、俺に見せてくれた。その写真には幼い頃のリアムと父であろう虎獣人が写っていた。


「どこでこの写真を知った……?」


「直接見るのは初めてだよ。お前のルームメイトから聞いたんだ」


「ルームメイト……」


 彼は頭を下げ、写真をしまった。いつもの暗い顔になる。


「今の写真……は?」


「唯一の、父が……写った写真……。時折、見る」


「そうなんだ……」


 唯一写っているのならば見たりするだろう。それくらい恋しいんだろうな。父のことが……。


「リアムはさ……どんな理由で騎士団に入ったの?」


 そう聞くと、彼は目をカッと見開いた。そして、俺を押しのけ寮へと戻っていった。

 俺……なんかまずいこと聞いたのかな。

 風が吹き上げた。そろそろ戻らないと風を引くな……。俺も寮へと戻った。今の、リアムの反応……。何だったんだろうか?

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