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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第71話 新兵

「うぅ、昨夜はひどい目にあった……」


 朝、眠たい目をこすり起き上がる。昨夜、ミリーネに散々モフられまくったため、俺の毛はボサボサだった。あいつ……限度というものを知らないのか。


「この報告書、本当にこれだけでいいのかな?」


「それ以外書くことないし、いいだろ」


「そうだね。これでいいか」


 昨夜のうちに書き上げた報告書をアークが見ている。今回の天使像の件はあれで確定だと思う。じゃないと、他の理由が見つからない。

 テーブルの上に何か置いてあった。小さな箱でリボンが少し乱雑に結ばれている。手紙も入っていた。


『デュークへ

あなたのファンです。どうか受け取ってください……』

 

 俺のファン!?箱を開けると、狼の形をした耳飾りが一つ入っていた。すげぇ、格好いい。思わず付けて、鏡の前に立ってみた。うん、似合ってる。センスいいんだろうな、この手紙の主。毛並みを整え、支度が終わると俺達は部屋を出て、騎士団へと向かった。アクセサリーを身に付けてはならないという校則は一切ないため、俺は耳飾りをつけたまま登校した。アークも「その耳飾りいいよ!」と褒めてくれた。


「おはよう。デューク、アーク」


 声をかけられた。後ろを振り返るとクレアとミリーネがいた。ミリーネ……昨夜の恨みは忘れないぞ。ミリーネが俺の方に近づいてきた。俺はとっさに身構える。またかよ。


「デュー君、昨日はごめん!」


「え……」


 意外なことを言い出した。ミリーネが自ら謝るだなんて。相当反省したのだろうか。


「嫌だったよね、あんな事をさせられて。言い訳をするつもりはないの、本当にごめんなさい」


「……二度と、俺の毛皮を触らないんだったら許す」


 ミリーネの顔がパァと明るくなった。そういう所は単純だな。でも、許してもいいかと思った。一応謝ってくれたのだから。それに、彼女が謝るのは珍しい。


「それより、リアムの写真について何か知ってるか?」


「写真?うーん、覚えてないなぁ」


「そっか……」


「お前ら、ここにいたのか」


 ダニエル先生が俺達の方にやって来た。一体、何の用があるんだろう。


「今日の昼休み暇か?」


「はい……」


「それだったら私の部屋に来い」


 それだけ言うと、ダニエル先生は去っていった。一体何の用だろう?


 朝からある噂が広まった。どうやら、新兵が来るという。その人は俺達より年上であるという話だ。俺達四人はダニエル先生の部屋へと向かっていた。行くと、リアムが既にいた。


「リアム、来てたんだ」


「ああ……ダニエル先生に呼ばれたからな……」


 リアムも呼ばれた?と、いうことは……。案の定、向かいの角からシャーランが出てきた。他にもう一人いる。


「シーナ……?」


「あっ、昨夜の皆!こんにちは」


 天使像の件で犯人となっていたシーナ・レーゼルが一緒だった。こっちは仲がいいのだろうか。


「天使像のことはごめんねー。もう二度としないから」


「時間さえ守ればいいのよ」


「うん!分かってる。それじゃあまた後でね、お……じゃなくてシャーラン!」


 シーナはそのまま行ってしまった。声がハキハキとしてて、しっかりしている。

 アークはドアをノックした。ドアがゆっくりと開く。入ると、一人の男性が後ろ向きに立っていた。ダニエル先生ではないのは確かだ。その男性が俺達の方を向きーー心臓が飛び出そうになるくらい仰天した。

 背が高い男性だ。若干痩せ型ではある。年齢は二十代後半くらいだろうか。黒くて短い髪、髭は生やしていない。目はうすい赤色だ。俺達が知っている人だった。


「コンラッド・スラムさん!?」


 俺は思わず叫んでしまった。コンラッドさんは俺達に微笑んだ。


 コンラッドさんはかつてチャールズ・ヘイムの助手をしていた。ホテルで病人の看護をするのが主な仕事だった。

 ホテルで皆が眠りに落ちた時、唯一起きていたおとなでもある。コンラッドさんはマンホールで探索をした時に地図になってくれたおかげで迷わずに済んだ。あの時はとても彼に感謝したものだ。コンラッドさんは負傷したもののなんとか生き延びることができた。

 チャールズがスパイだと判明した時、コンラッドさんは怒りで我を忘れ、彼を殺してしまった。その後コンラッドさんは自分の行いを悔やみ、警察に出頭した。俺達に書き置きを残して……。その書き置きにはしばらく時間をくれと書いてあった。いつか、君達に会いに行くかもしれない、けれど僕から会うとは思わないでほしいと。

 今、目の前にコンラッドさんがいる。対白魔騎士団の新兵として。


「ど、どうしてここに?」


 アークが驚きながら尋ねた。


「驚いた?」


「もちろんよ。また会えるだなんて。でも、どうして?」


「話せば少し長いんだ」


 コンラッドさんはパイプ椅子を六つ用意して、俺達が座れるようにしてくれた。そして、すーっと息を吸い込み、話し始めた。

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