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白銀のヴァールハイト  作者: A86
4章 棺の中の獣と華麗な少女
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第70話 天使像の警備

 夜、俺達は屋上に来ていた。理由は一つ、天使像の見張りだ。天使像は何十年も前に作られ、外にさらされ続けていたことによりすっかりボロボロになっていた。顔も一体どういう表情だったんだろう。それくらい分からなくなっていた。

 でも、今いるのは監視だ。夜中に出回り、この天使像にやって来る不審者を見つけるのだ。武器は一様皆持ってきている。俺も肌身離さず刀を身に付けていた。

 外はかなり寒い。まだ九月の上旬だが、気温は十度もなかった。俺は毛皮があるからいいけれど人間は……。


「デューっくーん!」


「わー!何なんだー!」


 突然、ミリーネが襲いかかってきた。俺の、俺の毛皮を鷲掴みしてる……。


「もふもふー!なーんで気がつかなかったんだろ。寒かったらデュー君の毛皮に埋もれれば良かったのに」


「くっ……人の毛皮を毛布みたいに触るなー!!」


「ほらミリーネ。デュークが嫌がってるから」


 俺とクレアで引きはがそうとするがビクともしない。アークはその光景を微笑ましそうに見ていた。てお前……毛皮ないからって少しは手伝え!


「何してるの?あなた達」


「シャーラン!触ってみなよ。デュー君の毛、すっごく柔らかいよ」


「……そんなことより、今は天使像の見張りよ」


 そうだ……離れ…ろ………!ふぅ、やっと離してくれた。

 どこまで話しただろうか?ああそうだ。いつもなら、だいたいこの時期から冬がやって来る。と言ってもほぼ一年中冬と言っていいのだが……。


 人間は苦労をしている。俺達のような毛皮がない為にコートなどを着て、寒さを凌がなければならないのだから。中には今みたいに飛び込んてくる少し危ない輩もいるが……。


「それにしても、本当に来るのかな。不審者」


「来るよ絶対。そう信じよう」


 クレアとアークの会話が聞こえてくる。だが、俺は今リアムを見ていた。彼は一人で座り込み、ぼうっと空を見上げている。目は、相変わらず死んでいる。死んだ魚ほどまでいかないが、とにかく死んでいた。

 俺はヴィルギルとの会話を思い出した。ここに来る前にも、あいつと話したな。









◇◇◇


「それで、泣いていた理由は聞いたことあるの?」


 俺とアークは屋上に行く前、ヴィルギルにリアムのことを尋ねていた。今までよく分からなかった彼だが、今回で何か情報を得られるかもしれなかったからだ。


「聞いてないなー。なんか、聞いちゃいけなさそうな雰囲気だったし」


「そっか。そうだよね」


 確かに聞きづらいだろうな。他に、何か知ってることはないのだろうか。

 

「それ以外知らねぇな。今回、一緒に任務を行うんだろ?本人に直接聞いてみたらどうだ?」


「やっぱ、それが一番妥当だよな」


 結局はそれしかないんだ。本人に聞いた方が話が早い。でも、どうやって聞こう……。お前のルームメイトから写真のことについて聞いた、何で泣いてたの……はちょっとストレート過ぎか。もう少し遠回しに聞いた方がいいな。


「でもありがとう、リアムのことを教えてくれて」


「あいつ無口だからな。実を言うともっとあいつのことが知りたいんだ。何か聞いたら教えてくれよ」


「うん、もちろんだよ」


 その後に俺達は屋上へと向かった。他の生徒達はすぐに寮へと戻っていく。この学校には部活とかがないからすぐに帰る生徒ばかりだ。俺達は皆の正反対の方向へ歩き、階段をのぼって屋上へとたどり着いた。屋上には既にリアムがいたのに、未だに聞くことができない。いつ聞こうかと考えているうちに現在に至った。









◇◇◇


 夜風が吹く。空は満天の星空と言いたいところだが、雲が少しあって陰りがあった。夜の騎士団は静かだった。今の時間帯は消灯時間だから、寮にいる皆は眠っているかな。

 それにしても、夜明けまでここにいなくちゃならないのか。先はまだまだ遠い。

 ガチャ……


(え……)


(来たよ!)


 全員が暗闇の中に隠れる。スタンバイよし!俺とクレアは天使像の裏に隠れた。クレアの手が俺の手に触れた。見ると、少し怯えている。俺はドキドキする気持ちを抑えながらクレアに頷くと、一気に立ち上がった。他の皆も一斉に立ち上がる。武器を不審者に向けた。


「きゃっ……許して!」


「……シーナ?」


「お…じゃなくてシャーラン!?どうしてここに?」


 見ると、鹿獣人の女の子のようだ。目は茶色い。年齢は俺達と変わらないくらいだ。


「知り合い?」


「シーナ・レーゼル。わたしの、ルームメイトよ」


 シャーランのルームメイト、こっちもか……。それよりどうしてここに?


「何であなたがここにいるの?」


 シャーランが代わりに尋ねてくれた。すると、少し言いづらそうな顔をしている。


「天使像……願い事をしてたの」


「願い事?」


「そう、言い伝えがあってね。夜中に天使像の頭を十二回触れば願いが叶うって聞いたことがあるから……」


「それで、こっそり行ってた……そういうことね」


 シャーランの問いにシーナがうなずく。願い事は何なのか、と聞くのは流石にまずいか。


「この先、勝手な行動は慎むように」


「……分かったわ、シャーラン」


 その後、シーナは俺達に挨拶をすると寮へと戻っていった。この事件(?)は一人の生徒が天使像に赴いていた、という事になるな。今回の事は報告書でまとめなければいけなかった。それはちょっと面倒くさい……。


「あれ、リアムは?」


 気付いたらリアムがいなくなっていた。写真のこと、聞こうと思ってたのに……。


「リアムならさっき用事を思い出したから戻るって言って帰ったよ」


「そ……そうか」


 クレアが答えてくれた。仕方ない、また次回聞こう。そうすればーー


「いただき!」


「……!ギャー!やめろー!!」


 ミリーネが俺の、俺の尻尾を触った。しかも……しかも!尻尾に頰をスリスリしている……!


「こっちももふもふだー。柔らかーい!」


「…だーかーら!勝手に触るなー!!」



 その後、夜に騎士団で大きな悲鳴が聞こえたと少し噂になったという……。

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