第65話 一年後
4242年、例の街の事件が終わって、丁度一年がたった。二学期も始まり、周りはせわしなく動いている。そして、十六歳になった今日この頃……。
「皆さん!今日は集まってくれてありがとう」
今、俺は何故かビショップの講義を受けていた。理由は一つ。先生がいろいろとおかしいから来てくれとクレアの要望があったからだ。
「そんな君達に、今日はプレゼントがあるよ!」
おかしいというより、テンションが高いのかな。そんな雰囲気だ。まぁそれが個性なんだろうけど。
クレアは俺の前の方にいた。笑いをこらえていたりしている。俺はクレアから顔を背けた。ここ最近、まともにクレアと会話出来なくなっている。あの、一年前の時からだ。それどころか、あの時よりひどくなっている?頭から閉め出そう。今はこの話を考える時じゃない。目の前にいる先生のことを考えよう。
クラーク・ウィルソン先生、それが今俺達の前にいる先生の名前だ。今年から赴任してきて、ビショップ専門の先生でライオン獣人。ミリーネと勝負してもいいくらい明るい。
「プレゼントの内容はー、テストだー!」
ビショップのテストか……。俺はナイトだし難しいな。クレアから聞いたことがあったとしても。
それにしても明るい人っていいな。どんなに暗い状況でも場を和ませる力があるからだ。……世界はそれどころじゃないのに。
最近、世界各地でヴァイス・トイフェルの侵攻が活発化していた。ヴァイス・トイフェルというよりイデアルグラースの侵攻と言ったほうが正しいだろう。騎士団はイデアルグラースがヴァイス・トイフェルと関係性があると断定したらしかった。
世界の突然なことに騎士団は対応しきれず、とうとう世界の5割が氷と雪の大地と化してしまった。それでも、騎士団は必死に戦っている。
一体、イデアルグラースは何を企んでいるんだろう?奴らの構成員ってどうなっているんだろうか。今のところ分かっているのは三人だけだが他にも絶対いる。まだまだ奴らのことは分からないばかりだ。
「それじゃあ配るぞ〜。カンニングはなーしだからな!」
何かが起ころうとしているのか?それは、気付いた時には遅く、取り返しのつかないことになっているかもしれない。何かに……蝕まれようとしているのだろうか。
◇◇◇
「デュー君、来た!」
「だから、そのデュー君って呼ぶのをやめろ」
教室の外ではアークとミリーネが待っていた。ミリーネは俺を『デュー君』と呼ぶようになっていた。誰もいない時はまだいいが、やっぱり人がいるところでは恥ずかしい。
「いいじゃん。アークの爽やかな男性よりマシでしょ」
「僕もそれでいいと思っているしね……」
やれやれと言い、俺はため息をついた。もう一年も呼ばれ続けているんだし、そろそろ慣れないとな。
「それで、どうだったのクラーク先生は」
「今回も面白かったよ。自分の交際経験の話もしてたし。でも、あの先生授業のスピードが速いからついていくのが大変なんだよ」
授業でなんて経験を話しているんだよ。……そうだ、そろそろ学園長の部屋に行かないと。謂れ因縁の書で話があるんだった。
「悪いけれど、俺用事思い出したからまた後でな」
「分かった、気をつけてね」
「……う、うん」
まただ。どうしてクレアと話す時はいつもどもるんだ。しっかりしろ、俺!
階段を駆け上っていき、俺は学園長の部屋へと向かっていった。




