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白銀のヴァールハイト  作者: A86
3章 ユーバーファル
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第64話 あの日、あの空、あの夜

 普段の生活に戻り、今回の事件は誰にも話さないことにした。丁度夏休みだったため、こんな時に友人と出会わなくて本当に良かったと心からそう思う。あの後、俺は家族の元へと帰省した。家族は俺の様子を心配はしていたが、聞いたりはしてこなかった。数日間、俺は悪夢にうなされた。人々が次々とヴァイス・トイフェルに喰われていく夢。その夢を見る度に起き上がり、さんざん泣いた。辛くて、辛くて、耐えられなかったのだ。

 

 それでも、このまま先に進まなければならない。どんなに辛くても進まねば……。毎日の生活に集中しよう。それが一番だ。そして、楽しい生活を送ると本当に今回の事件を忘れてしまうことがあった。でも、そんなのは長続きする訳がない。俺は真実を知っているのだ。今、このどこかでヴァイス・トイフェルとイデアルグラースは次の獲物を探しに画策しているのだから――。

 

 あの街の空は何色だっただろうか?それだけが、思い出せない……。

 騎士団に戻ってから一週間後、俺はすぐさま学園長、スチュアート先生のところへ向かった。謂れ因縁の書の存在を明かすためだ。

 何を聞かれるのか分からない。明かすべきなのかもさんざん悩んだ。そして考えた結果、これは自分一人で抱えるべき問題じゃないと思った。人類の大罪とは何なのかまだ分からない。それくらいスケールがでかいのは伝わった。だからこそだ。この書物に書かれているのは人が気安く見るものじゃない、そう思った。

 

 先生の部屋は最上階の奥にあった。ドアを二回ノックする。扉は自然に開き、俺は中に入った。


「デューク?この夏休みの期間に一体何の用かね?」


「……どうしても今日、伝えておいたほうがいいことがあったのです」


 俺は持っていた包みを置き、包装紙を少しずつ外して、例の謂れ因縁の書を見せた。


「それは……!」


「謂れ因縁の書です。中身を見れば、これが本物だと分かるはずです」


「解いたのか!?」


「はい。と言っても一つだけですけどね」


 俺は謂れ因縁の書を先生に渡した。先生は一ページずつ中身を読んでいく。読み終わった後はどこか信じられないという目をしていた。


「これを……どこで……?」


「友人から……今はいないんですけど、もらったんです。俺がこの書物を解けって」


 すると、先生は謂れ因縁の書を俺に返した。イスに座りコーヒーを一口飲んで落ち着く。


「お前は……何を望んでいる?」


「この書物の謎をどうか、一緒に解いてください」


「つまり……」


「この書物の中身を読んで思いました。これは俺一人で抱えるような問題じゃないと。ですが、誰かに打ち明けるのには困りました。そこで、目上の人に打ち明けるべきだと思いついたんです。信じてくれるかはまだ疑問でしたが……。唐突なのは分かっています。それでも、どうかお願いできないでしょうか?もし無理だったら、今この話は全てなかったことにして構いませんから」


 俺は頭を下げる。引き受けてくれないほうが当たり前だろう。引き受けないほうが……


「……………………………分かった。やってみよう」


「いいん、ですか?」


「ああ、ただし条件付きだがな。一つ目、謂れ因縁の書の真実は全てこの部屋で読むこと。二つ目、その書物を肌身離さず持っておくこと。それだけだ」


「……ありがとうございます。失礼します」


 その後、俺は学園長の部屋を出た。まさか、引き受けてくれるとは。

 謂れ因縁の書を見た。この書物には驚愕するような真実が書かれているだろう。この世界に不信感を持ってしまうようなことが。俺に何かあってもスチュアート先生がいる。それだけで安心感が出た。

 俺は寮に戻り、書物を隠した。これはまだ皆の前には見せれない。特に、クレアは……。いつの日か、皆に打ち明けよう。


「あ、デュー君いた!」


「ミリーネ?というかデュー君って」


「あだ名だよ。あ・だ・名♪」


 部屋にクレア、アーク、ミリーネが入ってきた。


「探したんだよー。どこにもいないから」


「久々に皆で勉強をすることになったんだ」


「そ、そうなんだ……」


「本当はリアムとシャーランも呼ぶつもりだったんだけど。二人は忙しいと断られたの」


 勉強、友人……。そうだよ、過去にとらわれ過ぎてはならない。今回の出来事は俺だけじゃない。こいつらも経験したんだ。一人で進むんじゃない。皆で進んでいくんだ。それは、一歩一歩が小さくても構わない。それで、俺達が成長しているのならば。


「行こうよ、一緒に」


 クレアが声をかける。今を楽しめ。今の幸せを噛みしめるんだ。そして、進んでいこう。この先どんなに辛いことがあっても、乗り越えていくんだ。


「うん……行こう!」










◇◇◇


 学園長の部屋、そこにスチュアート先生が窓の外の景色を眺めていた。手にはコーヒーを持っている。


「これは偶然か、はたまた意図して行われているものか。運命というものはとても不思議なものだ……」


 スチュアート先生は意味深な発言をしたあと、コーヒーを一口、すすった……。

これで、三章及び第一部は終了となります。

次回第二部からキャラを掘り下げていく予定でおります。第二部から登場するキャラクターもいますし、一章で少しだけ出てきたあの人やあの人も出てきます。盛り上げるのもここからですしね。

長くなりましたが、ここまで白銀のヴァールハイトを読んでくださり、本当にありがとうございます。できれば最後までおつきあいしてくださると大変嬉しいです。

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