第63話 騎士団へ戻る
その朝、俺達は早くに街を出た。まだまだこの街には大変なところがある。あの後、街に報道陣がたくさん押しかけてきたのだ。俺達はそれを人事のように眺めていた。ここからは俺達が出来るような範囲じゃないからだ。こんな場所は、もうたくさんだ。出来れば全て忘れてしまいたい。先へと進みたい。でも、記憶がそうはさせてくれない。永遠に……。報道陣については残った騎士団の人達に任せると判断したらしい。……今回はいろいろなことがありすぎたのだ。流石に休息も必要なのかもしれない。ひとまず終わったんだ、この街の事件は。残念なこともあるけれど……。
その日、俺達は電車に乗り込んだ。遠い遠い騎士団に、近づいていく。そして、悪夢のような場所が遠のいていく……。俺は、街が完全に見えなくなると窓を閉め、席に座った。今いるのは、クレアだけだ。ダニエル先生が自由に座っていいと言ってくれたのだ。
「終わったんだよね……」
クレアが聞いてきた。まだ、心配することがあるのだろう。
「ひとまずはな。あの街はまだやらなければならないことがある。でも、俺達はできるところまでやった。後は専門の人に任せている、そんなところだ」
「……デューク、変わったね」
「え……」
突然の言葉。驚きを隠せなかった。クレアは少し暗い顔をしている。
「なんか、昔のデュークとは違うなって思ったの。言うならば、一皮剥けた感じかな?成長しているって思えたの」
クレアがこんなことを言うなんて。まだ自分は驚いていた。今の言葉は、本音で出たものだと思った。
「私は、全然成長できていない。なんにも……」
クレアは窓の景色を見た。憂鬱そうに、外を……。この時、かけてあげる言葉はーー
「そんなことないよ」
この言葉は紛れもない事実だ。クレアは少しずつではあるけれど変わっている。それは、誰よりも俺が分かっていた。
「例えば?」
「さっきの言葉だよ、クレア。クレアは俺が変わったって言ってくれた。それは、昔のお前だったら言わなかったと思うぞ」
「そ、そうなの!?」
「うん」
昔のクレアは人を見て、自分を見直すということができなかった。いや、できなかったと言い切れるのはまだ怪しい。しなかったと言えるかもしれないからだ。
とにかく、クレアは人を見るということをあまりしたことがなかった。性格も今のクレアより全然明るかったのだ。
確かに、今と比べたらマイナスな面が多くなったと思う。それでも、人を見るという力を持ったことに比べればなんとでもない。十分な進歩である。
「変なこと聞いてごめんね。そっか、人を見るようになった、か……」
今度は若干嬉しそうに窓の景色を見た。
「ねぇ、デューク。こんなこと聞くべきかどうか分からないんだけど……」
「言ってみて」
「リックがいた時、デュークは私のこと、どう思ってた?」
「え。いきなりそんなこと聞かれても……」
「そうだよね。変な質問をしてごめん」
どう思ってた……それは、ただの親友としか思っていない。それ以上もそれ以下も考えたことがなかった。
だが今は?
突然出た疑問。今は、クレアをどう思っているんだろう?親友?それ以外何がある。それ以外……。
あれ?何だろうこの気持ち。彼女の顔を見た瞬間胸がドキッとした。
俺は席を立ち上がる。
「どうしたの?」
「いや……外の空気を吸ってくる……」
俺は、後方車両にある展望台に行った。
なんだったんだ、今のは?今はドキドキしていない。クレアを見た時、一瞬だった。
それから俺は空気をたくさん吸った後、元の場所に戻った。今度はクレアを見ても、何も起こらなかった……。




