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白銀のヴァールハイト  作者: A86
3章 ユーバーファル
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第63話 騎士団へ戻る

 その朝、俺達は早くに街を出た。まだまだこの街には大変なところがある。あの後、街に報道陣がたくさん押しかけてきたのだ。俺達はそれを人事のように眺めていた。ここからは俺達が出来るような範囲じゃないからだ。こんな場所は、もうたくさんだ。出来れば全て忘れてしまいたい。先へと進みたい。でも、記憶がそうはさせてくれない。永遠に……。報道陣については残った騎士団の人達に任せると判断したらしい。……今回はいろいろなことがありすぎたのだ。流石に休息も必要なのかもしれない。ひとまず終わったんだ、この街の事件は。残念なこともあるけれど……。

 その日、俺達は電車に乗り込んだ。遠い遠い騎士団に、近づいていく。そして、悪夢のような場所が遠のいていく……。俺は、街が完全に見えなくなると窓を閉め、席に座った。今いるのは、クレアだけだ。ダニエル先生が自由に座っていいと言ってくれたのだ。


「終わったんだよね……」


 クレアが聞いてきた。まだ、心配することがあるのだろう。


「ひとまずはな。あの街はまだやらなければならないことがある。でも、俺達はできるところまでやった。後は専門の人に任せている、そんなところだ」


「……デューク、変わったね」


「え……」


 突然の言葉。驚きを隠せなかった。クレアは少し暗い顔をしている。


「なんか、昔のデュークとは違うなって思ったの。言うならば、一皮剥けた感じかな?成長しているって思えたの」


 クレアがこんなことを言うなんて。まだ自分は驚いていた。今の言葉は、本音で出たものだと思った。


「私は、全然成長できていない。なんにも……」


 クレアは窓の景色を見た。憂鬱そうに、外を……。この時、かけてあげる言葉はーー


「そんなことないよ」


 この言葉は紛れもない事実だ。クレアは少しずつではあるけれど変わっている。それは、誰よりも俺が分かっていた。


「例えば?」


「さっきの言葉だよ、クレア。クレアは俺が変わったって言ってくれた。それは、昔のお前だったら言わなかったと思うぞ」


「そ、そうなの!?」


「うん」


 昔のクレアは人を見て、自分を見直すということができなかった。いや、できなかったと言い切れるのはまだ怪しい。しなかったと言えるかもしれないからだ。

 とにかく、クレアは人を見るということをあまりしたことがなかった。性格も今のクレアより全然明るかったのだ。

 確かに、今と比べたらマイナスな面が多くなったと思う。それでも、人を見るという力を持ったことに比べればなんとでもない。十分な進歩である。


「変なこと聞いてごめんね。そっか、人を見るようになった、か……」


 今度は若干嬉しそうに窓の景色を見た。


「ねぇ、デューク。こんなこと聞くべきかどうか分からないんだけど……」


「言ってみて」


「リックがいた時、デュークは私のこと、どう思ってた?」


「え。いきなりそんなこと聞かれても……」


「そうだよね。変な質問をしてごめん」


 どう思ってた……それは、ただの親友としか思っていない。それ以上もそれ以下も考えたことがなかった。

 だが今は?

 突然出た疑問。今は、クレアをどう思っているんだろう?親友?それ以外何がある。それ以外……。


 あれ?何だろうこの気持ち。彼女の顔を見た瞬間胸がドキッとした。

 俺は席を立ち上がる。


「どうしたの?」


「いや……外の空気を吸ってくる……」


 俺は、後方車両にある展望台に行った。

 なんだったんだ、今のは?今はドキドキしていない。クレアを見た時、一瞬だった。

 それから俺は空気をたくさん吸った後、元の場所に戻った。今度はクレアを見ても、何も起こらなかった……。

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