第62話 謂れ因縁の書の物語1
その夜、皆が寝静まった頃、俺はあるものを取り出した。謂れ因縁の書だ。そこにロケットから出てきた鍵を取り出す。今度こそ、これは……。俺は、一番上の南京錠の鍵穴に鍵を入れ、回す。
カチャ、パカリ……
ひ、開いた。こんなに簡単に開くものなのか。……読んでみるか。いやいや、これは謂れ因縁の書、きっととてつもない真実が書かれているに違いない。
でも、読んでみる価値はある。俺はそうっと、南京錠によって開かれた文章を読んでみた。嫌な予感しかしない。それでも、真実を見る。リックにそう言われた。だったら……この書物を読もう!最後まで、全部。
◇◇◇
暑い暑い、平均気温が三十度などどうかしている。私はこの書物を書くものだ。ここに書かれているのは、真実。全てを知った私がこの書物に書き写しているのだ。何故、私が全ての真実を知っているのか?それも、この書物でいつか説明しよう。そう、いつか……。
それにしても暑い。頭が痛い。熱中症だ。後で氷で冷やさなければ。……それでは私の全ての真実を話そう。
事の始まりは五年前。私は一人の科学者だった。いや、『だった』はおかしい。今でもそうなのだから。
世界は地球温暖化に包まれていた。南極の氷は溶け、海面は上昇し、土地が狭くなる。それだけじゃない。砂漠も深刻なくらい進み、今ではアフリカ大陸全てが砂漠の地域に変わろうとしていた。アフリカだけでなく、アジアも危ないかもしれない。国は何百年も前から対策をとりつづけていた。しかし、結局はここまで地球温暖化を進めてしまった。世界の危機を止めることができなかったのだ。
とはいえ、まだ落胆するのは早い。国はあるプロジェクトを我々科学者に申し入れた。そのプロジェクトは何か?それはまだ伝えることができない。だが、言える事はただ一つ。そのプロジェクトは世界の命運を一気に分けるチャンスとなる。だが、それと同時に一番してはならないことをすることになる。それを任されたのは、この私だ。正直言って、最初はとても悩んだ。こんな事をしていいのか?もっと別の方法があるんじゃないのか、と。最終的には、その案を受け入れたが……。不安はあるのだ。とても名誉のある行為とは思えない。それでもやるしかない。国からの命令ならば、逆らうことができないのだから。
ここで話を切ろう。南京錠の一つをつけておく。どうか、最後まで見てほしい。我々、人類が行った大罪を。そして、それを世間に公表してほしいのだ。お願いだ、頼む……。
◇◇◇
文章はここで終わっていた。人類の大罪、一体何のことだろう?そもそも、これはいつの時代に書かれたものなのだろうか。3000年代前半だろうか?地球温暖化……聞いたこともない言葉だ。地球が暖かくなった時期があるというのか!?そんな時代聞いたこともない。地球は昔からヴァイス・トイフェルが存在して、時代ごとにどんどん寒くなっていったと習っているが、これはどういうことだ?歴史と違うということなのか?そうだとすれば、俺はとんでもないものを見てしまったことになる……。
アークとリアムのベッドを見た。二人共ちゃんと寝ているか確かめるためだ。……大丈夫、寝ている。
第一、チャールズは仮面の男にこの鍵を渡されたと聞いた。仮面の男といえばスドウ以外思いつかない。イデアルグラースは、この謂れ因縁の書と何か関係があるのか……?何故、鍵を持ち、それを他者に渡したのか……。
「うーん、分からない」
謎は深まるばかりだ。イデアルグラースとは、一体何なのか?謂れ因縁の書に書かれた人類の大罪とは?そして、この書物とイデアルグラースとの関係性とは?まさに、謎が謎を呼んだな。とはいってもいつまで考えていても仕方がない。今日はもう寝たほうがいいだろう。
俺は電気を消すと、布団をかぶった。地球が暖かくなった時代。それは、どうだったんだろう。その時代の人達は何を思ったのだろう。ああ考えれば考えるほど気になってくる。
謂れ因縁の書の存在、これは俺だけが知るべきなのだろうか?読んでみると、そうじゃない気がしてきた。せめて学園長だけにでも……。
どんなに辛くても真実には背けないで――
リックの最後の言葉が蘇った。背けないさ、この書物の謎を全て解いてみせる。世界にある鍵を見つけ出して真実を見るんだ。
俺はそう心に誓った。




