第60話 結末
今回、話が少し駆け足です。
「ぐっ……はっ」
俺はタガーの攻撃を刀で次々と防いでいく。今までの動きとは桁違いな速さだ。
こいつ……腕を上げたのか。それとも、騎士団にいる時に本気を出さなかっただけなのか。
「防御だけになっているぞ。騎士団の時の威勢はどうした?」
喋る余裕すらあるなんて……。こっちはそんなことをしてる暇もないのに。これじゃあ騎士団で戦ったときと同じだ。防御をし続けて疲れさせる。そして隙だらけになった瞬間、攻撃が始まるのだ。
パターンは一緒。これをどう切り崩していくのかが問題だ。相手は一度戦ったから大体分かっている。タガーを防御し続けるのはもう飽きた。いっそのこと、心臓を狙ってみるのもいいかもしれない。
俺はタガーを防がず、避けると刀を両手に持ち、心臓を狙う。相手は驚いて一気に後ろに下がった。
「まさか、心臓をいきなり狙ってくるとは……。少し驚いたな」
「どうやって俺を回り込んだ?」
「あれか?単に近道を使っただけだ。この街を熟知しているからな」
なるほど、そういうことだったのか。
カルロスはタガーを持ち、再び襲いかかってきた。今度は少し違う。走りながら俺を切り裂くつもりだ。俺は刀で受け止める。ここからは持久戦だ。どっちが押しきれるかの……。
「ぐ……ぎ、ぎ……」
“そのまま持ちこたえろ。そうすれば勝てる”
また、刀の声が聞こえてきた。持ちこたえろと言われても……今にもやられそうなんだが。
「諦めろ、デューク・フライハイト。どの道お前を、殺してやる」
……まずい。このままじゃ、任務を遂行するどころか、こいつに殺される。タガーが急に重くなった。
「さあ、さあ、さあ!」
押し潰される。やめろ……。
“今だ!タガーを支えるのをやめろ!”
「……!」
俺は刀を引いて、横にずれる。カルロスは体勢を崩して、前に倒れる。俺はその瞬間を狙った。刀で体勢を崩したカルロスの脇腹を引き裂いたのだ。それも深々と。
「ぐぁぁっっ……」
カルロスがうめき声を上げる。傷口から血が滴り落ちていく。刀に奴の血が付いている。
刀をカルロスに向けて、勝ったことを示した。
「この……まだだ――」
「そこまでです、カルロス君」
この声、地下でのスピーカーで聞こえた声だ。確か名前は……。
「スドウ様……」
そう、スドウという名前だ。奴は裏路地からゆっくりと出てくる。研究員が着る白衣を着てて、紫の仮面をつけている。髪は腰のあたりまで伸びていた。
「勝負は君の負けですよ。潔く認めるのが一番ですね」
「くっ……」
「お前……!」
俺は今すぐにでもこいつを殴りたい気分だった。こいつのせいでこの街は……!どれだけの人が犠牲になったか!
スドウは涼しげな顔をしている。俺の存在に気付きこちらを向く。
「許さない、という表情ですね」
「当たり前だ!お前のせいで……」
スドウは笑みを崩さない。
「今回はあなた達の勝ちと言っていいでしょう。データも取れたし、この街はもう用済みです。……我々が手に入れたいものは、あなた達のおかげで手に入れました」
「何?」
「感謝しますよ。そしてもう一つ、これは上司にお伝えください。あまり我々を詮索しないことだ。さもなければ、容赦なくお前達を殺す」
「……」
「以上です。それではまた――」
「待て!お前達の目的は何だ!」
突然、スドウの白衣からキューブを取り出した。そして、煙が一気に噴き出す。煙幕だ。
煙は瞬く間に広がり、辺りを包み込む。煙が晴れたのは数十秒後だった。地面にはカルロスの血痕だけが残っていた。
「逃げたか……」
スル……スル……
この音は、ヴァイス・トイフェルの……。そうだ、爆発地点まで急がないと!イデアルグラースは後だ。
◇◇◇
爆発地点にたどり着いたのは、それから数分後だ。すぐに説明書を読んで、爆弾をセットする。ヴァイス・トイフェルが襲ってきたのはそれから間もなく数分後だ。
ドォォォォン!!
俺は身を影に潜めて爆発させた。隠れているため、ヴァイス・トイフェルどこにいったのか分からない。
少なくとも、爆発させたことで一本道になったのは変わりなかった。
遠くで落石の音が聞こえた。ダニエル先生が出入り口を封鎖するのに成功したんだろう、きっと。
イデアルグラース……彼らはそう言った。何をしようとしているのかはよく分からない。でも、一つだけ分かったことは彼らがヴァイス・トイフェルを使役し、世界を脅かしている。それだけだ。それだけで十分だった。今は……。
ヴァイス・トイフェルの這う音はもう聞こえない。もう、動いていいだろう。出入り口へ向かおう。
まだ、分かってないことが一つある。それは――。




