第59話 アリス(クレア視点)
最近、話が少しグダグダな気が……。皆ついてこれてるか心配です。
銃の引き金を……引いた。
カチッ
今の音……弾切れ!?そういえば、ヴァイス・トイフェルと戦った時に無駄に弾を使っていた。それが裏目に出たんだ。
「どうやら、弾切れのようネ。でも、だからって助かった訳じゃないわヨ」
私は彼女が喋っている隙を逃さなかった。私はアリスの両腕を掴み、地面に押し倒した。アリスは暴れ、訳の分からない言葉を口にする。足をばたつかせていた。
「離セ!」
「聞きなさい。イデアルグラースは何をしようとしているの?」
すると、アリスは暴れるのをやめる。
「知らないわよ、ソンナノ。それより離シテ」
「知ってることでもいいから言いなさい」
「知っててもそれを話すとでも思ってんノ?」
私は彼女に頭突きをくらわした。これで、頭は冷えたはず……。ところが――
「ッ……。よくもあたしを殴ったな小娘ー!!!!!」
どうやら逆効果だったようだ。彼女は強引に腕を振りほどく。いつの間にそんな力を……。今度は彼女が私を押し倒して、何度も何度も私の顔を殴り続けた。痛い、痛い!顔が熱くなる。そして、足で私の腕を押さえた。
「何よ!謝りなさいヨ!!」
「誰が謝るものですか!謝るのはそっちよ!」
彼女は私の顔を蹴った。眼鏡のレンズにヒビが少し入った。頭が痛い。
スル…スル…スル…スル……
「ソウダ。ヴァイス・トイフェルがいたわネ。でも、ザンネーン。もう、止められる方法はないワ!」
「いっ……」
頭を思いきり蹴られる。そのせいで脳震盪を起こした。本気で、殺される。このままじゃ……。
「やめろー!!」
「ガハッ……!」
アリスが遠くに吹き飛ばされた。一体誰が?私はぼうっとする頭を起こし、彼女を殴った人物を見た。
「アーク……?」
「怪我はないか?」
「うん……」
アリスがフラフラと立ち上がる。目は憎しみに燃えていた。
「ぐっ……あたしを…また、殴るナンテ……。いいわ、今回は見逃してアゲル。二対一は不利だしネ。ヴァイス・トイフェルに惨たらしく殺されるがいいワ……!」
そう言うと彼女は屋根に飛び乗った。目を疑う出来事、普通の人では到底出来ないことだ。そして、彼女は向こうに走っていき、次第に見えなくなった。
「何とか……退けられた……ね」
スルスル…スルスル…シュー
ヴァイス・トイフェルの吐息……。私達は後ろを振り返るとヴァイス・トイフェルが群れをなして、こちらに向かってきていた。
「乗って。走るよ」
私はアークに背負ってもらった。まだ頭がフラフラする。アークはそれでもお構いなしに走り始めた。速い。オリンピックに出場出来るんじゃないかと疑うくらい速かった。
「ところで、何でここにいるの?」
「いつまでたっても爆発が起きないから見に来たんだ。そしたら、君と紫の髪の女の子と戦っていたのを見つけた訳さ。あの子、何者なんだ?」
「アリス・バラード、イデアルグラースの幹部だよ」
そう、あの子は本当に強かった。アークが来ていなかったら殺されていたかもしれない。考えてくると、今の戦いは偶然が重なって勝てたんだと思えてきた。
シューシュー……シューシュー……
「それより、爆弾はどうしたの?」
「あの子に……壊されたの。どうすれば……」
「……この道は一本道だ。幸いなことにヴァイス・トイフェルがこの道を通っている。この先に、僕が仕掛けた爆弾があるからそこまで走ろう」
「走るって、追いつかれるよ絶対!」
「大丈夫。足には自信があるから……」
アークの言ったことは本当だった。ヴァイス・トイフェルに追いつかれるどころかどんどんと引き離していった。ここまで速く走れる獣人はいた?いや、いないはず……。
「アーク、何者なの?」
「……中学校で足を鍛えていたんだ」
――私の疑問はその一言で済まされてしまった。
私達は爆発地点にたどり着いた。既に起動出来てもいいようにセットされている。
「家の中に入ろう。そこなら安全だ」
私達は人の家に入り、様子を伺う。すると、ヴァイス・トイフェルがやってきた。シューシューと白い霧を吐き出し、迫ってくる。中にいるから大丈夫だが、もし外にいたら絶対に助からないと思った。
「爆発させるよ。三、二、一」
ドォォォォン!!
巨大な、爆発音が聞こえた。ヴァイス・トイフェルの悲鳴が聞こえる。見るとヴァイス・トイフェルが東に進行を変えて、動いていた。なんとか、成功したんだ。
「後は、ダニエル先生が街の出入り口を塞いでいればいいんだけど……」
「うん……さっきはありがとう。アークが来なかったら、私は死んでいたかもしれないから」
「その事なんだけどさ、あのアリスって子ただの人間じゃないよね」
私もそれは感じていた。人間とは思えない跳躍力、言葉の最後が機械音であること、あり得るとしたら……。
「ロボット……よね」
「そうだね。それが一番妥当だと思う」
不完全な部分もあるけれど、彼女は生きていた。人工生命体なのか分からないけれど……。
彼女はイデアルグラースの幹部の一人と言っていた。幹部が何人いるか分からない。彼女達が何をしようとしているのかも結局は分からなかった……。一体、何を企んでいるんだろう?




