第58話 走れ
カルロス・ディーン……騎士団の裏切り者、まさかこいつもイデアルグラースの一味なのか?そうだとすれば少し厄介かもな。
「お前のことは少し興味があるんだよ」
「それはどうも。だから何なんだ?」
カルロスはタガーを手に持つと、彼は身構えた。戦う以外なさそうだな。時間はないけど仕方ない……。
俺は刀を鞘から抜くと刀先を相手に向ける。この刀がどこまで俺に力を貸してくれるだろうか……。まぁいい、どの道こいつに勝たなければ爆発地点までたどり着けないだろう。
「その姿、変わらずと言ったところだな。隙だらけな姿勢だ」
「っ……うるさい!」
俺は真っ直ぐカルロスに向かった。刀を振り下ろすが、これはタガーで防がれた。次に薙ぎ払いをするが、カルロスは上に跳躍してかわす、と思いきやそのままタガーを振り下ろしてきた。俺は後ろに下がり、距離を置く。
「騎士団で俺に勝てたとは到底思えない甘さだな。……お前の身に何があった?」
「……さぁな」
俺はあえてしらばくれた。刀の秘密は黙っておかなければならない。この刀は三種の神器の一つ、知られては絶対にまずい。なんとしてでもこの秘密は守らねば……。
「まぁいい。それより、実に隙だらけだ」
「おわっ……!」
カルロスは俺の脇腹にタガーを突き刺そうとした。俺は刀ではじくが、今度は回し蹴りをくらってしまった。
「ぐはっ……」
狙われた反対側の脇腹にくらい、数メートル吹き飛ばされるが足で着地する。脇腹のダメージが強くて血を吐いた。
「どうした?それでは俺に勝てんぞ」
「くっ……」
どうすれば奴に勝てる?どうすればーー
“勝つ必要はない。奴の気を引いて時間を稼げばいいのだ。今、重要なのはあいつに勝つことではなく、爆弾を取り付けることだろ”
刀が俺に教えてくれた。そうだ、今重要なのは爆弾を爆発地点まで持っていって爆発させることだ。なんとかしてあいつの気を引かなきゃ……!
ドォォォォン……
二回目の爆発が起こった。それだと今、ヴァイス・トイフェルは北に向かったはずだ。そこからクレアが西爆発を起こして、進行を北西に変えてくれる。だが、自分に残された時間はあとわずかになっていく。
「お前達がやろうとしていることは分かっている。時間を稼ごうと思っているんだろう?だが無駄だ。クレア・リースはその任務に失敗するだろう」
「クレアに何かしたのか?」
「俺は何もしていない。だが、痛い目には遭っているはずだ」
“相手のペースに乗せられるな。奴はお前を任務失敗にさせたいのだ”
(だからと言って、どうすればいい?)
“まず逃げろ。相手と距離を置くんだ”
そうだな、今は爆弾を設置させる方が先決だ。
俺はカルロスに背を向けると、一気に走り始めた。カルロスはそれに気がつき、俺を追ってくる。俺とカルロスの距離は約五メートル程あいていた。この距離だと追いつかれる。そこで、時折相手をしながら距離を開き、逃げる。その繰り返しを行うことにした。そうすれば時間を稼ぐことがてきる。ただ問題はカルロスにこの作戦を見破られてしまうかもしれないことだ。いずれバレることだが、仕方ない。その時はその時だ。
「走れば間に合うとでも思っているのか?無駄な考えだ」
聞くな。とにかくギリギリまで逃げ続けろ。そして、戦って距離を離すんだ。それを繰り返すしかない。
俺は後ろを振り返った。カルロスが追ってきている。もう少し走るんだ。もっと速く。走れ、走れ、走れ!俺はカルロスとの距離を少しだけ離した。いいぞ、このまま!
再び後ろを振り返った。カルロスは……いない。どこへ行った?思わず探してしまう。俺は前を振り向いた。すると、いた。手にはタガーを持ち、赤い目がギラギラと俺を見つめてくる。カルロスはタガーを俺に向け、ニヤリと笑った。
「勝ったな……」




