第55話 終盤戦へと
「スドウ?名前……?」
あまり見慣れない名前だな。昔の種族か何かだろうか。
「まずは、よくぞ我がユーバーファルを乗り越えた。そこは褒めてやってもいい」
「ユーバーファルって何?」
「ドイツ語で急襲という意味だよ、ミリーネ」
急襲?じゃあやっぱり今までの事件はすべてこのスドウという奴のせいなのか?さっきこいつはイデアルグラースの側近だとも言ってたし……。
「どういうことか、説明してもらおうか」
ダニエル先生が言った。確かに説明してもらわないと困る。
「…いいでしょう。事の発端は約一ヶ月半前、その頃から我々はこの街に潜伏しておりました。この水路をありとあらゆる調べ尽くしたのです。そして、調査が終わった後に我々は活動を始めた」
我々?じゃあ、今スドウ以外にもいるってことなのか。
「街にスパイを送り、枕元にある装置を入れたのです。それは、最初こそは何も起こらないが謎の電波を放ち、人の脳を機能させなくなる力を持った装置。当然、数日で脳の大部分の活動は止まり、生きていること意外何もしない、まさに植物状態という状態になるわけですよ」
なるほどな。だとしたら何故そんなことを?そもそもスパイって一体誰だ?
「我々が来た目的は二つあります。一つは、ヴァイス・トイフェルの観察。水路に放ったヴァイス・トイフェルには当然“餌”が必要だった。そこで、植物状態になった人を“餌”とし、脳を刺激してマンホールまでおびき出して、ヴァイス・トイフェルの“餌”として喰わしたというわけです。もちろん、喰われた人物の関係者もできるだけ大事にならないように後で攫ってヴァイス・トイフェルにあげましたけどね」
なん……だと。じゃあつまり、アランやアランの母親は……それだけじゃない。行方不明になった人は皆ヴァイス・トイフェルの餌として……。そんなの、許されない。許されるはずがない!
隣でクレアのこぶしが震えている。俺も同じ気持ちだ。
「長らく事実を隠そうにも当然ながら無理だった。とうとう騎士団もやってきた。だが、それは計画の範囲だった。次にまたスパイを使って、ユリの花を設置させたのです」
ユリの花……そういえば、ホテル内にいつの間にか飾られてたな。
「あのユリの花はある臭気を出します。それは、人を眠らせる力ですよ。あのユリの花を使ってホテルにいる騎士団の連中を眠らせ、機能しなくする。そして、下水道を調査に来た人達はヴァイス・トイフェルを使った、これが全ての真実です。一つだけ、誤算があったのは、お前達が例の薬草を服用してしまったことでしょうか。あれを飲むとユリの臭気が効かないのでね」
なるほど、だから俺達は眠らなかったのか。薬草の入ったお茶を飲んだから――。
「私の話は以上です。質問はありますか?」
なにが質問だ……。こいつは人のかざかみにも置けない。人を餌とみなし、ヴァイス・トイフェルに喰わせる……。それだけで許されない悪だ!
「もう一つの目的は?お前の言う二つのうちのもう一つの目的は何だ!」
ダニエル先生が声を荒げた。その言葉には怒りが込められている。
「フッ、どうやら口を滑らせてしまったようだ。その質問には答えられない。なぜなら、今これから始動させるのだからね!」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
下水道のどこからか地震のような音が聞こえてきた。その直後に地面が揺れた。上からパラパラとコンクリートの小さな石が降ってきた。
「何をした!」
「さあ、何でしょうね?お前達は十分足掻いた。だが、そろそろ厄介だ」
口調がどこかとがり始めている。怒っているのか?
「とにかくここを出よう。外の様子を見るんだ!」
全員が頷く。出口といってもこの場所のどこかにあるのか?そう思って探していたら、あった。下の方に巨大なトンネルができている。多分、ここ以外出口はないだろう。俺達はそのトンネルを使って、暗い闇の中を通っていった。
◇◇◇
「出口はどこだ?」
俺達は今、二つの分かれ道で迷っているところだった。ずっと一本道だったのに、突如道が二手に分かれたのだ。どっちだ?どっちに行けばいい……?
「そこ……左に……」
「……コンラッドさん!」
コンラッドさんは薄目を開けて、左に指を指す。こうなったら、彼の言うとおりに従うしかない。全員が覚悟を決めた。
俺達は早速、コンラッドさんの指示に従って動いた。コンラッドさんは俺が今、背負っているため責任は重大だ。何分たったのだろうか?俺達はとうとうマンホールを見つけることができた。蓋を開け、外へと出る。既に外は太陽が昇っていた。
「一体、なにが起きるっていうの……?」
クレアが心配そうに聞いてくる。誰だってそれは不安だった。
「分からない。とにかく、一旦ホテルへ戻って――」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
まただ。この地響き、一体何なんだ?
――その時、街の中心から大きな爆発音が聞こえた。ここは街の丘だから、街の中心がよく見える。
……嘘だ。あれは――
俺達はその目を疑った。疑わざるを得なかった。そう、街の中心で起きたのは爆発じゃなかった。地面に敷き詰められたレンガが吹き飛ばされている。そして、その吹き飛ばされた穴から何かが出てきた。ヴァイス・トイフェルだ。それも、一匹ではない。
数十体のヴァイス・トイフェルが街から這い上がってくる……。




