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白銀のヴァールハイト  作者: A86
3章 ユーバーファル
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第53話 中盤戦②(ミリーネ視点)

「ヴァイス・トイフェル、大っきい……」


 あたしとリアム、ダニエル先生は檻から出てくるヴァイス・トイフェルをじっっと見つめている。冗談抜きに本当に大きいだよ。やっばい……!これはちょっと、騎士団の時より大変かも。

 あ、でもダニエル先生がいるから問題無いか。


「こんな時に……悪いが二人共、あいつを倒すのに少し力を貸してくれないか?」


「はい!もちろんです!」


 ダニエル先生がいるから大丈夫♪あたしとリアムは助かるよ、絶対。


「それで、どうすればいいのですか?」


 リアムがダニエル先生に聞いた。


「まずは、二人であのヴァイス・トイフェルと戦ってくれないか?」


 ………え。

 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理。絶っ対無理だよそんなの。


「そんな、いきなり言われても困りますよ、先生ー」


「心配いらない。いざとなったら、私が助ける」


 それだったら先生が戦えばいいじゃん。あーもういいや。こうなったらリアムと一緒に倒すしかない!


「行くよ、リアム!」


「お、おう……」


 リアムがぎこちない返事をする。そりゃ乗り気じゃないのは分かるけどさ…。あ、もしかして……あたしと組むのに照れてるんじゃなーい?まったく、これだから幼馴染みは♪

 おふざけモードはこれくらいにして集中集中!相手はヴァイス・トイフェルなんだからね。気を引き締めないと。

よーし!


 ヴァイス・トイフェルは突進してきた。リアムが猟銃で何発か撃ち、歯を何本か撃ち落とした。これなら、噛まれてもそこまで痛くない。いや、噛まれたら危ないんだけれど……。

 あたしとリアムは左へと避ける。ヴァイス・トイフェルは、ダニエル先生に標的を変えた。


「危ない!」


 あたしは先生に向かって叫んだ。ところが、先生は高く跳躍をし、ヴァイス・トイフェルの胴体に着地するとそのまま何事もなかったかのようにするりと降りた。白い蛇は壁にのめり込む。


「私は構わない!続けてくれ!」


 一体、先生は何をしようとしているんだろう?あたし達を試しているのかな……?


「目を狙わないと駄目だ。目を――」


「目ね、リアム。よし分かった!」


 あたしは槍を構えた。どんな作戦か知らないけれど、取り敢えず目を狙えばいいんだね。


「待て、俺がやる……。お前は怪物を斬りつけてくれ」


「?分かった……」


 怪物を倒す側かぁー。重要な役目だから文句はないけど。

 リアムは猟銃を構えた。ヴァイス・トイフェルはこっちに向かってくる。それでも、彼はぴくりとも動かない。あたしは本物のヴァイス・トイフェルが来るだけでもう無理なんだけど……。

バーン!

 撃った!当たったかな?どれどれ……すごい!見事命中したよー!ヴァイス・トイフェルは混乱している。その隙にリアムがもう一発撃った。

 次のも命中した!ヴァイス・トイフェルはさらに混乱する。これで襲われる心配はない。あたしは槍を両手に持ち、一気に斬りかかろうとする。


 ――その時、あたしの気配に感づいたのか突如、体当たりをしてきた。


「ほっ!」


 あたしは右に逸れる。しかし、壁にぶつかって槍を落としてしまった。ガチャと音がした。いててて……。


「気をつけろ!まだ終わっていない!」


「えっ……きゃっ!」


 先生の声が聞こえたかと思うとヴァイス・トイフェルがまた、あたしに襲いかかってきた。これもなんとか避けるけど槍がヴァイス・トイフェルの下敷きになって、取りにいけなくなってしまった。


「もう十分だ。あとは私が倒す!」


 そんな事言われても……。ヴァイス・トイフェルは頭を上げ、獲物がどこにいるのかを探す。どうやら………見つけたらしい、あたしを……。

 シュー……シュー……


 白い霧があたしの上に降りかかる。あたしの周りが真っ白な霧となって包まれていく……。駄目だ、足が動かない。寒くなってきた。息が苦しい。誰か……。


「逃げるんだミリーネ!逃げろ!」


 ダニエル先生の声が聞こえてきた。どこから?分からない。でも、その言葉のおかげであたしはなんとか立ち上がった。


 ヴァイス・トイフェルの頭が、見えた。口を大きく開けている。あ、死んだ…これ。ダニエル先生が見えた。必死にあたしのところへ追いつこうとしている。でも、もう遅い。あたし、死ぬんだ。何も出来ずに……ただ死んでいくんだ。




 あたしの役目、果たせなかったな………。




「ぐっ……」


 誰かに掴まれた感触がした。肌触りは柔らかくて、もふもふだ。あたしと掴んでいた人は転がっていく。

 あたし……生きているの?掴んでくれた人を見た。


「リアム……?」


「ちゃんとしろよ……」


「……ごめん」


ヴァイス・トイフェルは空を切った。そこにダニエル先生が立ちはだかる。


「こっちだ!」


 先生はレイピアを掲げる。ヴァイス・トイフェルはまた、口を大きく開けて襲いかかってきた。先生は数本後ろに下がった……かと思うと、一気に前進し始めた!先生!?何やってるの?そのままじゃ……。

 ダニエル先生は、口を大きく開けているヴァイス・トイフェルにレイピアを向けると、一旦しゃがみ込みそこから一気に、口の中に入って刺した!

 ヴァイス・トイフェルは悲鳴をあげ、口の中にいる先生を吐き出そうとする。けれど先生は出てこない。すると、頭からレイピアが突き出た。ヴァイス・トイフェルは頭を上げ、部屋の中で大暴れをするがそれも時すでに遅く、そのままぐったりと倒れ、縮んだ。一瞬の出来事だった。

 ダニエル先生はその後にゆっくりと出てきた。服についたヴァイス・トイフェルの唾液をはらうとあたし達の方へかけよってきた。


「すまない、試すようなことをしてしまって。怪我はないか?」


「だ、大丈夫です……」


 今、気づいたのだが自分はがちがちに震えていた。寒くて手も震えている。


「本当に大丈夫なのか?」


 リアムが聞いてきた。うん、正直に言うとちょっと寒いかも……。あともう少しでヴァイス・トイフェルに食べられるところだったんだから。

 こんな風に、死を感じたのは、二回目だ。一回目は、騎士団内でのヴァイス・トイフェルノ戦い、怖かった。あの時も死ぬんだって思ってしまった。今、ここにリアムがいなかったら……いや、一人しかいなかったらあたしはとっくに……。

 こんなんじゃ駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ!なんにも成長できていない。これじゃあ……あたしの目的は……。


「それよりまず脱出しなければ。もし、他の皆が私達と同じく、ヴァイス・トイフェルと戦っているとなれば――」


「みなさーん。いますかー?」


 この声、クレアだ!どこどこ、どこにいるの?


「いるよー。リアムとダニエル先生もいるよー」


「今、助けますので待っててください!」


 助けるってどうやって?と思っていたら、排気口が外れて、ロープがスルスルと下りてきた。


「これは助かる。他にもいるはずだから助けにいってくれ!」


「分かりましたー」


 クレアの声は聞こえなくなった。あたし達はロープのところへ寄った。さっきは大声を出せたけれども、まだフラフラしているため、リアムに肩を貸してもらっている。やった、これで助かるぞ!あ、そうだ。上へのぼる前に一言言っておかなくちゃ。


「リアム」


「ん……」


「さっきは助けてくれてありがとう」


「……………………どう、いたしまして」


 リアムは少し照れながら言った。本当に恥ずかしがりやさんなんだから♪細かいことはあるけれど、今は助かるということに喜ばなくちゃ、そう思った。

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