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白銀のヴァールハイト  作者: A86
3章 ユーバーファル
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第52話 中盤戦①(クレア視点)

「何なの、これ……!」


 殺風景な部屋、そこに残る生々しい血の跡、目の前にある檻が開き、ヴァイス・トイフェルが出てくる。私とシャーランはその様子をじっと見つめていた。


「どうやら、戦う以外なさそうね」


 シャーランが背中にかけていた弓を手に持つ。と思ったら、弓の弧の部分が二つに分かれ、二振りの剣に変わった。


「わたしがあいつを倒すから、あなたはその銃で援護して」


「そんな……無理よ」


 私の言葉を聞かず、シャーランはヴァイス・トイフェルへと向かっていた。ヴァイス・トイフェルの方もシャーランに突進してくる。

 シャーランはヴァイス・トイフェルを飛び越えると頭にしがみついた。怪物はなおも突進してくる。標的は……私!?


「いや……来ないで!」


 がむしゃらに銃弾を打ち込む。ヴァイス・トイフェルは銃器があまり効かない。私が撃った銃弾はヴァイス・トイフェルの口の中に入るが、突進の勢いは衰えてなかった。


「避けて!」


「っ……!!」


 なんとか右に避けた。ヴァイス・トイフェルはそのまま壁に激突した。


「はぁ…どうしよう……」


「戦って!銃弾をとにかく打ち続けるのよ」


「無理だって!そんなの――」


「じゃないとあなたが死ぬのよ!!そこを考えなさい!」


 死ぬ……その言葉が頭の中に響き渡る。ヴァイス・トイフェルは私の方に向き直り、再び迫ってきた。

 私は他の皆ほど、そんなに勇気がない。騎士団でヴァイス・トイフェルと戦った時だって、アークとミリーネは私のおかげで勝てたって言っているけれど、そんなのは大間違い。私は……弱い。弱い、弱い、弱い……!私は、デュークやシャーランの敵に立ち向かう勇気がそこまでない。押し潰されてしまいそうで息をするのも苦しくなってくる。

 シュー……


 ヴァイス・トイフェルは私に向かってくる。今度は下がり、左に避けた。だんだんと部屋が冷えてきた。いつ、あいつに捕らわれてもおかしくない状況……耐えられない……。


「しっかりしなさい!それでも、あなたは黒の騎士団なの?」


 シャーランの声が聞こえた。黒の騎士団……そうだ、私は理由があって対白魔騎士団に入り、理由があって黒の騎士団になった。


 何を焦っているんだろう?落ち着け、私。落ち着いて……。この戦いは他のものじゃない。私と、シャーランのものだ。私は騎士団でのヴァイス・トイフェルを倒すのに貢献した。戦う力は私にはあまりない。ビショップの称号ならば、本来ホテルで倒れた人々を看病する方が正しい。でも、私は皆と一緒に行くのに賛同した。賛同した理由がある……。そのために今、ここで死ぬ訳にはいかないの!


「っ……」


 私は銃弾を二発撃つ。ヴァイス・トイフェルの両方の目に……

 シュ……グガァァ……


 的中した!思惑通り、ヴァイス・トイフェルは混乱している。いいぞ、そのまま行くんだ!

 戦え、戦え私!怖くても、前に進まなきゃ!進め……。

 銃弾をさらに撃ち、ヴァイス・トイフェルのつららのような歯を何本か撃ち落とした。相手はさらに混乱して、のたうち回っている。


「なかなかやるわね……」


「シャーラン、今よ!」


「任せて……」


 シャーランはヴァイス・トイフェルの頭に剣を深々と刺した。ヴァイス・トイフェルはさらに暴れる。シャーランは剣にしがみつき、一気に胴体まで引き裂いた。引き裂いた部分から血がにじみ出て真っ白な胴体が赤くなっていく。でも、頭から胴体まで裂かれたらもう無理だろう。引き裂いた時に熱を発生していたらなおさらだ。

 ヴァイス・トイフェルは痙攣をしているとぐったりと倒れ、縮んだ。

 シャーランはヴァイス・トイフェルが死んだのを確認すると胴体から離れ、私の方に来た。


「やるわね、あなた。少し見くびっていたわ」


「いえ、シャーランこそ一撃で倒すなんて」


「……これくらいが普通なのよ」


 シャーランは二振りの剣をくっつけて弓に戻し、弓矢にロープをくくりつけた。そして、くくりつけていない弓矢を天井に放ち、排気口に当てて蓋が外れるともう一本の矢を放ち、排気口に引っ掛ける。シャーランはロープを引っ張り、矢が落ちてこないか確かめた。

 私は、その様子をじっと見ていた。


「ここから脱出するわよ」


「ま、待って。その弓、一体何なの?」


「…………………私の大事な武器、と言った方が正しいかしら」


「そう、なんだ……」


 私達はロープにつかまり、上へと登った。ロープは案外丈夫に作られている。

 シャーランはスイスイと登っていくが、私はさっきの戦いの震えが今来たため登るのに時間がかかり、最後はシャーランの手を借りてなんとか登りきった。でも、私が彼女の手を掴んでいる時、とても申し訳ない表情をしていた……。


「はぁ……ありがとうシャーラン」


「………いいえ、それより見て」


 シャーランの言われた通りに周りを見渡すと白いブロックが二つあった。ブロックの中で何かぶつかり合う音が聞こえてくる。もしかして皆、この中で戦っているんじゃ……。


「さっきと同じように排気口を開けていきましょう。手伝ってくれる?」


「もちろんだよ!早く皆を助けないと」


 私達はブロックの中にいる皆を救い出すために隣のブロックへと移っていった。皆、持ちこたえてて……!

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