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白銀のヴァールハイト  作者: A86
3章 ユーバーファル
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第50話 再会と落下

 コツ……コツ……

 懐中電灯の光に頼りながら前へ進んでいく。前後に目を光らせていきながら。ヴァイス・トイフェルは神出鬼没、どこから襲いかかってくるのか分からないのだ。

 下水道はとても寒かった。隣で流れている水は氷が張っている。この道を通った証拠だ。まだ近くにいるのか……?だんだんと寒くなっているし。


 けれど今追うのはヴァイス・トイフェルではない。ダニエル先生だ。ヴァイス・トイフェルが通った跡を追っても仕方がない。でも、ダニエル先生はそのヴァイス・トイフェルを倒しに行ったのだ。ならば奴らの跡を追うのが先決かもしれない。


「ねぇ、ヴァイス・トイフェルの跡を追っても仕方ないよー……」


 ミリーネが弱々しい声で言う。今までの元気がまったく感じられない。


「ダニエル先生はヴァイス・トイフェルを倒すためにこの下水道を調査しているんだ。だから、敢えて跡を追う方がいいんだよ」


 それでも不安はあった。ヴァイス・トイフェルと出くわしたらどうすればいいのか、と。こんな視界も暗く、道も狭い場所で戦ったら確実に勝ち目がない。不安で、不安で、たまらない……。

………………シュー……………


「今の……!」


 前から聞こえた。左に道がある。そっちへ曲がろう。


「コンラッドさん、左の道はどうなっています?」


「左へ進むと……Y字路がある」


「よし、道が二手あるならそっちへ行こう……」


 ゆっくりと……左にある道を歩き始めた。ヴァイス・トイフェルの吐息は、聞こえなくなった。

 ダニエル先生、どこにいるんだろうか?何をしているんだろうか?一体……。

 懐中電灯の光が頼りな今、俺達はちっぽけな存在なんだと思った。か弱い光に頼って……俺達はまだ弱い。以前より強くなったのかな。そう、思う。


シュー………シュー……

 !!近い……。後ろからだ。


「走れ!Y字路まで走るんだ!」


 俺達は無我夢中で走り続けた。聞こえる。後ろから俺達を追ってくる姿が。音がちょっとずつ大きくなっている……!


「追いつかれるわ!」


「くっ、戦うしかないのか」


 その時、シャーランが矢を天井に放った。すると、頭上から石が落下してきた。後ろの道を埋め、ヴァイス・トイフェルの道を塞ぐ。天井は空が剥き出しだ。でも、助かった。


「ありがとう……シャーラン」


 クレアがシャーランにお礼を言った。シャーランは少し照れたのかそっぽを向いてしまった。


「そんなこと……」


 シャーランはそっぽを向いた。手にはまだ弓を持っていた。

 Y字路にたどり着いた俺達は右へ進むか、左に進むか悩んだ。どちらもヴァイス・トイフェルが現れる可能性はある。最終的には多数決で右の道に進むことを決めた。


「はぁ……」


「どうしたんですか、コンラッドさん?」


「……こんなことしていいのかと思ってね。怪物の巣窟に入り込んでいるようなものだし。……今までこんなことしたことがないからさ」


「でも、あの眠っている人々を看護するよりもまずは先生を見つけないと……」


「……うん」


 クレアとコンラッドさんの会話が聞こえながら、今度は別の音が響いてきた。

 カツ…カツ…

 明らかにヴァイス・トイフェルのとは違う。右の曲がり角からだ。人の足音のような音。もしや……。突如、明るい光に照らされた。……眩しい。


「ダニエル先生!」


「?……どうしてここに」


 偶然だった。俺達は無事にダニエル先生を見つけることができたのだ。しかし、先生の姿を見て俺達は恐縮をした。服が……血まみれだったのだ。


「先生……他の皆さんは……どうしたのです?」


 コンラッドさんが恐る恐るたずねる。先生はその問いを聞くと、暗い顔になった。


「……………暗がりのせいで奴らの不意打ちに対応できず……」


「そうだったのですか……」


 一同が暗い雰囲気に包まれる。聞こえてくるのは水路で流れる水の音だけである。


「明らかに今回のヴァイス・トイフェルはいつもと違っていた。五感がかなり鋭くなっているみたいだ。……それよりお前達は何故ここにいる?」


「そうだったー!ダニエル先生大変なんです。ホテルで急に人が死んだように眠りについているんです!」


「何?どういう意味だ?」


 俺達はダニエル先生にホテルで起こったこと、俺達が何故ここに来たのかを全て話した。


「なるほど……一旦戻ってその症状を見てみる必要があるな。本当は救護班に見せるのが早いが、その様子だとそいつらも寝ているだろう」


「さっき天井に大きな穴が開いたよな。そこへ行こう」


「だが、お前達の話を聞いている限りやはりこの一件は人の手が加えられているな」


「先生…それは」


 コンラッドさんがためらったように言った。先生がそれを遮るように話し始める。


「この事件、おかしいと思わないか?そもそもヴァイス・トイフェルは巣を作るが下水道のように暗い場所には作らない。この土地は奴らが捨てたはずの土地なのだ。それに加えて人々が死んだように眠りにつく……。不自然だろう?」


「確かにそうですね。でも、そしたら一体誰が……?」


 アークの言葉に先生はゆっくりと深呼吸をした。目を開け、口を動かす。


「一つだけ我ら対白魔騎士団がずっと怪しみ続けている組織がある。その名前は……イデアルグラースだ」


「イデアルグラース?」


「そう、分かっているのは名前のみ。十数年前から我々が目に付けている謎の組織だ。その組織の目的や居場所は未だ分からない。ただ、その組織がヴァイス・トイフェルに一枚噛んでるんじゃないかと睨んでいる」


「それでは、今回の事件はイデアルグラースの可能性があるということですか?」


「その通り。その組織の存在が分かったのは――」


 シュー……シュー……スル……


「!!!」


 ヴァイス・トイフェルの吐息!それも今まで近くなっている!俺達が来た道から聞こえた。このままだと穴の部分へ戻れない。


「こっちだ。さっき別のマンホールを見つけたんだ。そこへ行こう」








◇◇◇


 ゴォォォという音が響く通路を走る。俺達はダニエル先生を先導にもう一つのマンホールを目指していた。ヴァイス・トイフェルの音はもう大丈夫だが、不安はある。なぜなら、マンホールを目指している時に立て続けにヴァイス・トイフェルの吐息が聞こえるからだ。

 ヴァイス・トイフェルの存在が分かった時に方向を変えていく。この時にコンラッドさんが地図を持ってきてくれて本当に助かった。


 だが、それにしてもおかしい。こんなにヴァイス・トイフェルに出くわしそうな確率が高いだろうか?なんか、俺達が導かれているようで怖かった。これも、先生の言った組織、イデアルグラースの仕業なのだろうか?


 やがて俺達は丸くて面積が広い部屋に到着した。ダニエル先生曰く、この部屋を通っていけばマンホールにたどり着くらしい。俺達は、部屋の中心部に立ち止まった。


「この部屋は一度通った。この先を進めば出口だ」


 俺達は足を踏み出した。


 ――その時、地に足がつく感覚が突然なくなった。下を見ると、穴が突然空いていたのだ。落ちる……!


「うわぁぁぁ!」


「きゃあ!」


「クレア!」


「しまった……!」


 皆、口々にそう叫ぶ。俺達は、もっと深く暗い闇の中へ引きずり込まれていった……。


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