第5話 遺跡
俺達は夜の街を歩き続け、遺跡へと向かっていた。
夜のとばりを下りて、霧が少したちこめる。街灯にたたずむ蛾に、家にまとわりつくシダ、そこに霧が入ることでまた違った雰囲気を醸し出していた。
「もう少しだからな」
「……うん」
クレアはあまり乗り気ではない様子だった。その様子をリックが見る。
「やっぱり、まだ気にしているのか?」
「……対白魔騎士団の言葉を聞くと特にね」
「そうか……すまない」
リックは少し申し訳ない様子になりクリーム色の髪をガシガシ掻いた。
彼は、クレアの家族のことは知っていた。それ以来、クレアの前では騎士団の話をあまりしなかった。それが今回、クレアを誘ったことはかなり意外なことだった。
「リックはまだ、対白魔騎士団に入ろうと思ってるの?」
「ああ、そうさ」
「どうしてそこまで……。両親も反対しているのに」
「……」
リックはそれ以上、答えなかった。
◇◇◇
山の道を歩き続けて15分くらいで遺跡の入り口へと到着した。
洞窟の奥で水滴が天井からピチョンという音が響いている。一番奥には壁一面に世界地図が描かれていた。
「どうだ?不思議だろう、どんなに文明が発達した時代でも人々は壁に絵を後世に遺してゆくんだ」
世界地図の他にはこんなのも描かれていた。かつてこう解釈すると習ったことがある。
一人の少女がアメリカ大陸にいた。その少女は家族と共に平和に暮らしていたのだが、両親は離婚、母親に親権が渡ったが病気で亡くなってしまう。親戚に預けられたのだが、ひどいいじめを受けられていた。食事もあまり与えられず、掃除をすべて押し付けられ、虐待までされていた。
しだいに少女は弱っていき、自ら家を出て父のもとへ行った。しかし、その父は別の女性と結婚をし、子供も生まれていた。その時、父はこう言ったという。
〝以前の女性は弱くて、その子供も駄目な作品だった″
その言葉を聞いた少女は森の奥へと消えてゆきその後、行方不明となった。
……壁画には海に身を投げる少女の絵が描かれている。
「俺がここに来たのは、この絵を二人に見せるためだったんだ」
「絵を……」
一体、どのような気持ちでこの壁画をかいたんだろうか?すると、リックが謂れ因縁の書を取り出した。
「この書物には全ての真実が詰め込まれている。ヴァイス・トイフェルの事や、この世界の真実も……。なぜ、そしていつからこのようになったんだろう?雪原と化していく世界に、怪物が徘徊し、世の中は怯え続ける……。知りたいんだ。決していい真実なんかじゃないと思う。でもそれで、何か分かるんだったら俺は、この南京錠のはずす鍵を探しに行きたいんだ」
「……真実って何よ」
今まで黙っていたクレアがとうとう口を開いた。その言葉には少し怒りもこもっている。
「それだけのために対白魔騎士団に入ろうと思ってるの?もしそうだったら私、全力であなたを止めるわ。あなたが死んだら……祖父や兄さんのように。あなたの家族は一体どうするの?」
「クレア、認めてくれ。二人のことも両親のこともちゃんと理解している」
「理解できてないからいってるんでしょ!騎士団に入ることは両親から反対しているじゃない!」
俺はどうすればいいのか分からなかった。二人を止めなければという思いでいっぱいなのにうまく口に出せなかった。
――とその時
ゴゴゴゴゴゴ――……
外で……何かが起きている……。




