第46話 報告と忠告
「デューク!どうしたのその顔!?」
クレアが驚いている。無理もない、明るい場所に出たら俺の顔が赤く染まっていたんだから。血の匂いが強烈すぎて鼻を覆ってしまいたい気分だ。
「アランの返り血だよ。彼は、殺された」
「えっ……」
「皆のところへ戻ろう。ダニエル先生に報告しないと……」
不思議と、自分は落ち着いていた。人が死んだところを見たというのに。そんな自分が不気味だった。
◇◇◇
「それじゃ、ヴァイス・トイフェルはいたのか?」
「はい、実際にこの目でアランが死ぬところを見ました」
俺達はホテルに戻り、ダニエル先生に状況を報告しているところだ。戻った時、ホテルのいたるところに紫のユリが飾ってあり、その匂いで充満していた。給仕の人曰く、少しでも気分を上げられるようにと飾ったようだ。ーーにしてもだ、少しきつすぎるんじゃないか、この匂い。
「ありがとう、報告をしてくれて。これで敵の目星は大体ついた。明日には地下道を調べよう」
俺は一礼をしてから、後ろに下がった。部屋を出るとクレアとアーク、ミリーネが待っていた。
「顔……洗ったんだけどまだ匂う?」
「ううん、大丈夫。それよりヴァイス・トイフェルが出てきたのは本当なの?」
「うん、間違いない。あれは本物だ」
忘れる訳がない。あの光景を、あの恐怖を。黒っぽかったけどヴァイス・トイフェルにしか見えなかった。周りの空気は一瞬だけど、ひんやりとしてたしーー。
「でもさ、良かったよね。デュークが死ななくて」
「良くないよ!アランが殺されたんだぞ!それだけで十分悪いじゃないか!」
「……ごめんなさい。そんなつもりじゃ……」
ミリーネが申し訳なさそうに謝った。頭を深々と下げて。
「っ……。いや、いいんだ。仕方なかったんだよ、アランは……。それより彼の母親が心配だ」
母親の気持ちを考えると心が痛い。息子が突然亡くなったら、どんな気持ちになるんだろう。怒り?悲しみ?もっと深く、暗い感情なのかもしれない。もし、出会ったらどう言えばいいんだ?出会ったら……。
「あなた達、ここにいたのね」
「……シャーラン?」
シャーランが若干あきれた目で見ている。何だ?何を考えている?
「もしかしてまた、こっそり調べようと思っているの?」
「まさか、そんなことしないよ。というか、何でそのことを知ってるの?」
「知らないだろうけど、一学期のあなた達が犯した罰則の原因は教師の間では少し有名なのよ」
「そ……そうだったんだ……」
クレアが赤面する。いつの間にか人様の有名人になっていただなんて……。確かに、無謀にヴァイス・トイフェルに挑んだり、地図から消された部屋を見つけたり、騎士団にヴァイス・トイフェルを忍び込ませた犯人を判明させたりすれば流石に有名になるよな。
「言っとくけど、勝手に散策をするのはやめなさい。今回は第三者の手も加えられているんだから。下手したら退学よ」
「ちょっと待って、第三者って何?」
「……………………前回みたいにまた誰かが裏で操っているかもしれないってことよ」
今、変な間がなかったか?気のせいだろうけど…。
「でもありがとう。心配してくれて。本当に散策なんてしないからさ」
「……別に、あなた達を心配してる訳じゃない……。これは、ただの……忠告……よ」
それを言い終わると、シャーランは俺達の横を通り過ぎていった。今の言い方……少しおかしくなかったか?何なんだ、あいつ。
「それより、明日特に予定がないからさ。このホテルを回ってみない?」
「いいねそれ!是非しよう」
アークとミリーネが盛り上がる。さっき無駄に散策するなって忠告されたばっかなのに……。まぁ、ホテルを探検するのは別にいいか。
シャーランの言った、第三者って誰なんだろう。ああ言ったけど、もっとまた別の意味がある気がする。そう、もっと深い意味が……。
◇◇◇
「敵の特定は分かったんだし、明日には地下道の探索をしなければなりません。チャールズさん、地下道の地図はお持ちですか?」
先程、デュークがいた部屋にはダニエルとチャールズ、そしてコンラッドがいた。明日の探索の準備を進めていたのだ。
「ここにあります。それにしてもこの街の地下道はひどく入り組んでいる。ヴァイス・トイフェルが自然に入り込んだようには思えないのですが……」
「……そのことですが、もしかしたら今回かなり厄介な問題が起きるかもしれません。……この事件、第三者の手が加えられてると思っていい」
「な、なんだって!」
チャールズが驚いた。ダニエルは真剣な眼差しで二人を見つめる。
「今、この時も私達の会話を聞いている可能性があります。そのためにも、今後はさらに注意していく必要がありますよ……」




