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白銀のヴァールハイト  作者: A86
3章 ユーバーファル
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第45話 行方不明

「今日は街に行ってもらう」


 翌朝、俺達が朝食を食べている時にその命令が言い渡された。多分昨日のアランと呼ばれた子の警備だろう。


「街で何をするんですか?」


「ある男の子の監視をお願いしたい。他にもいるのだが人手不足でね。どうだ、頼めるか?」


ほら、やっぱりそうだ。アランの監視だな。


「はい、それくらいなら出来ます」


「よかった。くれぐれも目を離さないでくれよ」



 アランという子は茶髪でいくつかそばかすがある男の子だ。歳は俺達より三歳年下である。母親は何度も何度も彼に何かあったら承知しないと言ったらしい。心配なのも分かるけど……。


 アランが連れて来られてきた。目はうつろで、人に先導してもらわなければ歩けない状態だった。何もしゃべらない。何も考えていないような表情だ。


「あれが、話に聞いた病気」


 クレアがつぶやいた。


 アランの病気は一週間前からだったらしい。それまでは何事も無かったのに、上の空な反応を見せたりと徐々に症状は酷くなっていったという。日に日に悪化していき、ついには何も反応を示さなくなった。まるで、生きたまま脳の活動が止まってしまったかのように……。


「そうだ、その調子!」


 ヘルパーが一生懸命に彼を歩かせようとする。おぼつかない足取りで進んでいく。時には一人で二、三歩歩いている。

さっきも言われた通り、俺達の他に警備の人がいた。ざっと言って20人くらいの人がアランとヘルパーを見ていた。


 騎士団の上層部、いわばダニエル先生は一体何を考えているんだろう?街では何が起こるか分からないのに病人を外へ連れ出して。もし、アランが失踪したらどうする?もしかして、失踪事件をアランを使って判明させようと思っているんじゃないだろうか。できればそうじゃないと願いたい。だが、本当だったらどうする?その時はーー。


「おい、アランどこへ行く!?」


 意識が現実へと戻された。見ると、アランがいない!さっきまでヘルパーと一緒にいたのに。


「デューク!何をしてるの、追いかけよう!」


「うん!」


 どうやらアランは暗い路地裏を急に走り始めたらしい。ヘルパーの手を振りほどいて……。


「一体、どこへ、行ったんだ」


「大変だよー。このままじゃまた失踪しちゃう」


 路地はいくつも道があって入り組んでいる。他の人達はバラバラになって探していた。


「バラバラになって探そう、いい?」


 アークの提案に全員が頷く。俺はすぐさま一人で探しに行った。どこだ?どこにいるんだ、アラン!

 暗い路地、先の見えない闇が俺の行く手を阻んでしまいそうだ。ところが――


「アラン!」


 見つけた。アランは路地の壁にもたれかかっていた。相変わらず目はうつろである。


「どうしたんだ。さぁ戻ろう」


 アランは何も反応しない。俺は彼の腕を掴み、引っ張ろうとする。けれど、全然ビクともしない。足が鉛のように固定されている感じなのだ。


 その時、地面から『何か』が一匹現れ、アランを掴んだ。真っ黒で何がなんなのかよく分からない。

 あまりにも速すぎるのだ。アランは何も動じない。ただただ黒い『何か』に掴まれている。

 バキボキッ!

 アランの周りから血が噴き出した。地面から噴き出す温泉の湯のように……。俺の顔に血がふりかかった。アランはカッと目を見開いたかと思うと頭をガクッと下げ――死んだ。黒い『何か』は地下へとアランを引きずりこんで行った。永遠に、現れることはなかった。

 あっという間の出来事だった。俺は呆然と立ち尽くしている。動くことができなかったのだ。

 すると、クレアがやって来た。顔が焦った表情をしている。


「今、変な音が聞こえたんだけど……。それより、この匂いは何?鉄の匂いがする……。デューク、デューク?」


 クレアが心配して俺に声をかける。けれど俺の耳には届かない。なぜなら、同じ光景を、以前にも見たことがあったからだ。あの黒い『何か』をまだ覚えている。あの恐怖が頭に焼きついて離れない。

 ある考えが浮かんだ。そうだ、間違いない。あれは影で黒くなっていた。


あれは――ヴァイス・トイフェルだ!

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