第43話 伝染病
「ことの始まりは一ヶ月前からでした。一人の男性が突如、声を発さなくなったんです。それまでは何の健康状態に影響はなかったのに……」
「それは、突然にですか?」
「はい、その通り。声だけでなく手足を動かす以外何も出来なくなったんです。その原因不明の病が今では二十八人も感染者が出ました。水道、環境汚染、色々考えてみましたが、まだ原因は掴めてません」
原因不明の病、手足を動かすこと以外何も出来なくなるか……。そんな病気があり得るのだろうか?
「変化はそれだけではありません。植物状態みたいになった人間を街の外へ出すと、次々と人がいなくなっていくんです」
「それで、街ではなくこのホテルに病人を……」
「はい、今日で四人もいなくなりました」
植物状態となった人達がいなくなる!?そんな事が……。
「……分かりました。我々が出来る限り対処いたしましょう。黒の騎士団に成り立ての君達は荷物を置いたら、看病の手伝いをしてくれ」
コンラッドさんの導きによって俺達は部屋に案内された。俺達の部屋は二部屋ある。俺、アーク、リアムの部屋とクレア、ミリーネ、シャーランの部屋だ。
「対白魔騎士団ってヴァイス・トイフェル退治以外にも人助けとか行うんだ」
「対白魔騎士団の人達にはいつもお世話になっています。この街が発展したのも対白魔騎士団の皆様のお陰なんです」
コンラッドさんは笑顔を浮かべながら言った。部屋はホテルを最初に見たときも思ったがとてつもなく豪華だった。普通のホテルのスイートルームのようである。
「一般の部屋で申し訳ございません。本来、騎士団の方々はスイートルームに通すのが礼儀ですので……」
「全っ然大丈夫だよ。あたしこの部屋すごく気に入った!」
「そ、そうですか良かった」
俺達は部屋に荷物を置くと給仕の人がやってきた。額に浮かぶ汗が忙しさを物語っている。
「あなた達、悪いけれど早速働いてもらうわよ。裏にある畑で薬草を五十本ずつ採ってきてくれないかしら」
「僕も行きましょうか?」
「コンラッドさんはチャールズさんの元へ行ってください」
最初の仕事は薬草採りか……。階段を降りて裏口のドアを開ける。そこは、植物園のようだった。広大な畑に沢山の野菜や薬草がある。薬草は一種類しか育ててないんだな。全体的に尖っているな、この薬草。
「じゃああたし達女子は向こうから採るからデューク達はここから採ってね」
「分かった。ミリーネ」
俺達は薬草を採り始めた。いてっ、やっぱ葉が尖っている。指をなめて再び薬草を採る。
ブチッ……ブチッ……
俺はアークとリアムを見た。リアムは淡々とこなしている。一方、アークは腰が痛そうだった。
「お前、腰痛くないのか?」
「大丈夫……鍛えているから」
「そっか……」
リアムは俺の方を見向きもせず薬草を抜き続ける。その言葉には感情というものがこもっていなかった。目も……
◇◇◇
「腰痛〜い」
ミリーネがそう言っているのが聞こえる。あれから十分もたった。さっきからしゃがんでばかりだから腰が痛くなるのも当然だろう。俺だって腰が痛い。でもあと少しで薬草を五十本採れるので誰も休みはしなかった。……ミリーネを抜いて。
「ねぇ少し休もうよ」
誰も答えない。すると、ミリーネがリアムの方へ向かった。
「リアム〜、腰痛くないの?」
「……!だ……大丈夫だ」
俺はクレアとシャーランを見る。クレアの手がシャーランの手に触れた。
「!きゃっ……」
シャーランは小さな悲鳴を上げる。そんなに驚くことだろうか?
「ごめんなさい……」
「……いいえ。これで全部採り終わったわ」
シャーランが薬草を持ってホテルに向かって歩いていった。俺とアークも丁度終わった。クレアも――。
「……どうしたんだクレア?」
「うん、なんかシャーランが近寄り難いなって思っていたの。人に触れようとするとすぐ避けるし……」
「……」
人に触れない、か。俺は別のことを考えている。夢に出てきた女性、マリア。その人にそっくりなシャーラン。彼女は……何者なんだろうか?
「二人共、ぼうっと突っ立ってないで行こう」
「「……うん」」
緑の菜園を通って俺達はホテルへと、戻った。




