第39話 黒の騎士団
「皆さんお静かに」
終業式、カレン先生の言葉で一同が黙る。この光景、何度目だっけ。まぁいい、今回はそれより重要なことがあるのだから。そう、黒の騎士団のメンバーを決める日である。
自分は選ばれるだろうか?そんな不安が出てきた。もし、ここで無理でも次のテストがあるし、まだ最初のテストだからチャンスは残っている。でも、選ばれなかったらそこからひっくり返すのは難しい。だから今選ばれた方が有利なのだ。
学園長、いやスチュアート先生は壇上に立つと、手に持っていた紙を広げ、咳払いを一度すると話し始めた。
「今、ここにいる生徒達ならこれから何を言うか分かっているな。………黒の騎士団のメンバーを発表する。名前を呼ばれた際は私の前に来て、他の者は拍手を送るように」
遂に来た。心臓の鼓動が止まらなくなる。早く………早く!
「では言おう、黒のキング………アーク・クラムディン」
……驚いた、まさかアークが選ばれるなんて!それより、本人が一番驚いていた。口をあんぐりと開け、立ち尽くしている。俺はアークを押した。
「行かないと……」
「そう……だね」
アークはギクシャクと皆を横切りながら、スチュアート先生の方へと向かった。顔はまだ緊張している。……大丈夫かあいつ。何とか歩いているから心配いらないと思うけれど……。
「続いて黒のクイーン………シャーラン・イヴェール」
女性陣が歓声を上げる。シャーランって誰なんだろう?見ると、背の高いスラッとした少女だった。長い黒髪をポニーテールにして、ピンク色の眼を持っている。どこか近寄りがたくてミステリアスな雰囲気だ。
あれ?黒髪にピンク色の眼の少女……以前どこかで会ったような気が……。そうだ、夢の中でだ!それにしても、夢に出てきた女性とシャーランと呼ばれた少女は『似ていた』。あの子は、一体……。
「続いて黒のルーク………リアム・テルフォード」
考えていたら、いつの間にか黒のルークの発表を行っていた。とりあえず夢の話題は後にしよう。今は。
リアムと呼ばれた虎獣人の青年は静かに席を立ち、アークとシャーランがいる方へと歩いた。
あいつ見たことがあるぞ。目は相変わらず死んでいる。ルーク志望だったのか。意外と勉強とかできるのかな?よくみていないけれど。
「黒のビショップ…………クレア・リース」
!!
嘘だろ。クレアが……黒の騎士団に……。
クレアは席を立ち、アークと同様にギクシャクしながら歩いていた。そうか、クレアも黒の騎士団を目指していたんだ。
でも、どうして?クレアは黒の騎士団を目指す理由は一体何なんだ?そういえば一度彼女に聞いてみたことがあった。でも、あの時は別の話題に変えられて答えを聞くことができなかった。思えば対白魔騎士団に入った理由を答えるときも一瞬迷っていた気がする。
何かあるんだ。俺には言いづらい理由があるんだ。あまり問いつめるのはやめたほうがいいか。
「黒のポーン…………ミリーネ・アスタフェイ」
「やった!あっ……」
ミリーネは思わず声が出てしまったことに赤面する。周りではクスクスと笑い声がしていた。ミリーネは席を立つと、半ば小走りでスチュアート先生の所へ向かった。
皆、すごい。クレアもアークもミリーネも選ばれた。残されたのは俺だけだ。黒のナイト……心臓の鼓動が高鳴りを止めてくれない。むしろどんどん大きくなっている。
「最後に黒のナイトはーー」
ドクン……ドクン……
「デューク・フライハイト」
震えた。ただの震えではない。嬉しくて、嬉しくて、たまらないのだ。やった!俺はやれたんだ、と。
俺は真っ直ぐとスチュアート先生の方へと向かった。……あ、まただ。また俺をじっと見ている。なんでだろう?スチュアート先生は俺のことを見続けるのは何か理由でもあるのか……。
壇上に上がり、クレアの隣に立った。お互いに目配せをする。
どんなにつらくても、あきらめずに前を見ろ。昔、リックがそう言った。この先つらいことがたくさんあるかもしれない。それでも前を見続ける……。
俺は真っ直ぐとスチュアート先生の方を向いた。先生は一瞬俺に目を向け、終わりの言葉を話し始めた。
◇◇◇
騎士団の外、そう遠くない所で一人の男がいた。男はスマホを持ち、何かを話していた。
「申し訳ありません。やはり『例の物』はありませんでした。……はい。分かりました、今から部下に作戦Aから作戦Bに移すことを伝えておきます」
男はスマホの電源を切ると、冷淡な目で騎士団を見つめた。
「せいぜいしばらくは平和ボケをしているがいい。俺達の戦いはこれからなのだからな、騎士団の連中共……」
男はその場を去った。男、いや蛇獣人の、カルロス・ディーンの言葉を残して……。




