第4話 謂れ因縁の書
リックの部屋はシンプルだった。
シンプルと言っても決して殺風景などではない。クリーム色のカーペットに、白い壁、机の上には哲学の本が何冊か置いてあり、近くの本棚はぎっしりとたくさんの種類の本が詰まっている。
彼の後ろには壁付きの棚があった。
「来たね二人共。待ってたよ」
「それで、いい物って一体何?」
すると、リックが後ろの棚を開けて何かを取り出してきた。古びた本のように見えるが、6つの南京錠が付いている。
「それは……本?」
「ああそうさ。しかもこれはただの本じゃない。『謂れ因縁の書』だ。二人共聞いたことあるだろ」
「……ああ確か、この世界の全ての真実を記した歴史書だっけ」
「でも、それは本物なの?」
「間違いなく本物だ。この本に付いている南京錠をいろいろ調べてみたんだ。専門の人にも見せたし、そしたらこの南京錠はこの時代では作れないことが判明したんだ。つまり、科学が一番発展した時代、3000年代前半に作られたことになる」
リックの話をまとめると、この謂れ因縁の書は最も科学が進んだ時代に作られたということになる。
もし、本物だったら大発見だ。元々3000年代前半の資料は非常に少なく、分かることは限られていた。
その分かっている中の一つが謂れ因縁の書。その時代の全てが記され、今の世界のルーツを知ることが出来る。
でも、先述の通り、その書がどこにあるのかすら分からなかった。だから、それをリックが見つけたとなればかなり凄いことになる。
「でも、どこでこれを……」
「町外れに遺跡があっただろう。たまたま探検をしてたときに床のタイルが一つはずれかけていたんだ。そのタイルを取ってみたらへんな地図が入ってたんだ」
「地図……?」
リックは再び棚に向かうと一枚の地図を持ってきた。地形は少し違うが世界地図のようで、大小問わず赤い点がちらほらとあった。
「この地図大きな赤い点が4つあるだろ。そこに俺たちの地域を順番に結んでいくと……」
「あっ、星型になった」
クレアの言うとおり綺麗な五芒星ができあがった。それは一つの赤い点を囲んでいる。
「デュークも気づいたか?その通り、この星は一つの小さな赤い点を囲んでいる。俺はこれが気になって両親に黙って行ってみたんだ。ヴァイス・トイフェルがでた危険な地域だったんだけどな」
「ヴァイス・トイフェルって、そんな場所に行っちゃだめじゃない!もし出くわしたら一体どうするの!」
「……その事については悪かったと思っているよ。それで、至り尽せり掘ってみたら見つけたわけだ」
そして、リックは書物を俺達に渡した。クレアは少し暗い顔をしている。
表紙を開けると目次が並んでいた。どれも『真実』としか書いていない。中身を開けようとしても南京錠のせいで開かなかった。
「でも、どうしてこんな物を?」
「そのことだけど二人共、今から遺跡の方へ行ってみないか?そこで話すから」
「えっ今から!?」
「そう……両親に気付かれないように」
気付かれないように……その言葉を聞いて窓を見た。
リックは窓を開けて、縄ばしごを下ろした。再び冷たい風が吹いてくる。
子供の頃はよくこうやってリックの部屋を行き来していた。あの時の両親は今ほど自由じゃなかったからだ。
下ではまだ明かりが付いている。その光に気付かれないように静かに降りた。3人共降りたのを確認すると俺達は夜の、闇の中へと進んでいった。